目次へ  縦書き

[207] 1925年6月25日 保坂嘉内あて 封書

(表)甲斐国北巨摩郡駒井村 保阪嘉内様
(裏)大正十四年六月廿五日 岩手県花巻農学校 宮沢賢治(封印)〆

お手紙ありがたうございました。

来春はわたくしも教師をやめて本統の百姓になって働きます いろいろな辛酸の中から青い蔬菜の毬やドロの木の閃きや何かを予期します わたくしも盛岡の頃とはずゐぶん変ってゐます あのころはすきとほる冷たい水精のやうな水の流ればかり考へてゐましたのにいまは苗代や草の生えた堰のうすら濁ったあたたかなたくさんの微生物のたのしく流れるそんな水に足をひたしたり腕をひたして水口を繕ったりすることをねがひます

お目にもかゝりたいのですがお互ひもう容易のことでなくなりました 童話の本さしあげましたでせうか