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[205] 1925年4月13日 杉山芳松あて 封書

(表)樺太真岡郡清水村逢坂 王子事業所内 杉山芳松様
(裏)四月十三日 岩手県花巻農学校 宮沢賢治(封印)〆

お手紙寔にうれしく拝誦いたしました。いつもご無沙汰ばかりでほんたうに済みません。樺太は今年は未曽有の風雪であるなど新聞で見たりしていろいろ心配して居りました。こゝらも今年は春が遅く今日あたりやっと野原の雪が消えたばかりです。内地はいま非常な不景気です。今年の卒業生はもちろん古い人たちや大学あたりの人たちまでずゐぶん困る人も多いやうです。仕事もずゐぶん辛いでせうが、どうかお身体を大切に若いうちにしっかりした一生の基礎をつくって下さい。わたくしもいつまでも中ぶらりんの教師など生温いことをしてゐるわけに行きませんから多分は来春はやめてもう本統の百姓になります。そして小さな農民劇団を利害なしに創ったりしたいと思ふのです。

もしあなたがほんたうに成功ができるなら、それはあなたの誠意と人を信ずる正しい性質、あなたの巨きな努力によるのです。これからはもうわたくしが手紙を二通書いたとか、友だちに頼んだとかそんな安っぽいことを恩に着てゐるやうには考へずに、明るく気持ちよく友だち付合ひをして下さい。

いつかお話だったお守りを亦二通お送りいたします。どうかどなたかほんたうにそれのなければならない人へあげて下さい。

   四月十三日

杉山芳松様

宮沢賢治