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[197](1921年8月11日)関徳彌あて 封書

(表)巌手県花巻川口町上町 岩田金次郎様方 關徳彌様 平安
(裏)(封印)〆

お手紙ありがたくありがたく拝誦いたしました。又脚気のお薬を沢山お送り下さいまして重々のお思召厚くお礼申し上げます。うちからは昨日帰るやうに手紙がありました。すぐ返事を出しておきましたが、こんなに迄ご心配を掛けて本統に済みません。先日来股引をはいたり蕎麦がきや麦飯だけを採ったり冬瓜の汁(みんな脚気むきの飯屋にあります)を食ったりして今はむくみもなくほんの少し脚がしびれて重い丈けで何の事もありません。決して決してご心配はありません。あなたの厚い思召にもいつかはきっとお答へいたします。

7月の初め頃から二十五日頃へかけて、一寸肉食をしたのです。それは第一は私の感情があまり冬のやうな工合になってしまって燃えるやうな生理的の衝動なんか感じないやうに思はれたので、こんな事では一人の心をも理解し兼ねると思って断然幾片かの豚の脂、塩鱈の干物などを食べた為にそれをきっかけにして脚が悪くなったのでした。然るに肉食をしたって別段感情が変るわけでもありません。今はもうすっかり逆戻りをしました。
私のあの童謡にあんな一生懸命の御批評は本当に恐れ入ります。
どうか早く生活の安定を得て下さい。いゝものを書いて下さい。文壇といふ脚気みたいなものから超越してしっかり如来を表現して下さい。
さよなら。

尚十月頃には帰る予定ですが、どうなりますやら。

あなたのお弟さんが忙しくて実にお気の毒です。この紙の裏はこわしてしまった芝居です。