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[140] 1919年2月5日 宮澤政次郎あて 封書

(表)巌手県花巻川口町 宮澤政次郎様 平安
(裏)大正八年二月五日 東京 賢治 (封印)緘

徳治様へ御托しの御手紙三通百円小切手等只今徳治様御出でになりて御渡し下され候 尚その節御葉子一折御見舞に御持参有之候 宜しく御礼奉願候

とし子退院は今月十二日以後に御座候只今は大分心弱く相成り居り候間もう少し心持強くなりたる後にあらざれば一人置く事は面倒に御座候。

転地が絶対に必要なるや否やは私には思考致し兼ね候へども医師はそれに近き意見を有するらしく候

仮令多大の経費は要するとしても父上御連れになりて小田原へ転地するは最安全最良の策と存じ候。

感冒流行中故御勧めは致し兼ね候へども父上御出京の際は引き違ひに、又は、父上を病院迄御連れの上私帰宅、又は私帰宅後父上御出京いづれにも致すべく候間適宜御命令を願上候。

私が小田原へとし子を連れたる後小田原へ父上御出でになり私が留守に帰る様致しては如何に候や。これなれば私は最安心に御座候。

尚何程注意しても病気に罹る事も有るべき事故御心配は尤も乍ら今頃私は風邪にも罹られぬ仕儀故実に摂生に注意致し居り候。

私の職業等は又後の問題に致しても宜しく候へどもそれ程造稼ぐと云ふ事が心配なるものに御座候や。何卒私に落ちつきてまじめに働くべき仕事を御命令被成下度候。車の後押にても純粋の百姓にても何にても宜しく候。又は私に自由に働く事を御許し下され候や。宝石等を扱へばこそ都会に住む事も必要に御座候。どこにても宜しく候。