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[139] 1919年2月5日 宮澤政次郎あて 封書

(表)巌手県花巻川口町 宮澤政次郎様 平安
(裏)大正八年二月五日 東京 賢治拝〔封印〕〆

拝啓 ○皆様御変りも御座無く候や 私は无事に御座候

○とし子は一昨夜より三十七度二三分昨夜は四五分と相成候へども少々の事故御心配は無之候。

今朝二木博士の診察によれば只今迄次第に恢復しつゝある病人の体温としてはこの位が至当にて一昨日以前四五日も三十六度数分の体温続きたるは他の原因によるべしとの事に御座候。その頃は体温を下す為に態と身体を動かさず物を杢言はざりし由に御座候。

尚今後一週間入院を続け然る後暖き所へ参りたる方宜しからんと申され候。

○昨夜同室に軽症乍ら幼児の入院有之看護婦もなく手当届かずとし子もよく眠られざりし由に御座候へども本日は附添も参るべく候間御安心奉願候。

○御心配の上又多大の御入費を掛け誠に病気位苦しきものも無之候。之に就ても私は充分注意摂生仕るべく候。

○昨日鎌善の豊さん小林様へ御出の事と思ひ何か御手紙にても御持参然らざるも遠路見舞に等御出にては御気の毒と存じ小林様より退院費用受取芳々小林方を御訪問致し候所御出京なされしは徳哉さんにて丁度外出中に有之先は帰宿仕り只今又電話にて御尋ね申すべくと存じ居り候。

○尚その節小林様より金五拾円受敢り参り候。

○小林様へ私の事を相談候処私の目論見は賛成致され候へども最初にとりかゝる仕事等は大分危ぶみ居られ候。それよりも父上よりも御申し越しの様に宅全体こちらへ移り長屋にても建てゝ之を管理するとか手堅き金融等を仕事とし先づその準備として左様の事を私が直ちに着手しては如何との御話に有之候。

全くとし子も今後は寒き処は好ましからず大体家全体左様の次第に候へぱ生活も花巻程に骨も折れず人気もあれ程陰険には無之二三年の間に家の主部をこちらへ御移しなされては如何に御座候や 然る上は父上も充分の御仕事相成るべく候。

私の望む仕事も一ヶ年も従事候間には鑑定の方法にも練れ売買にも練れそれよりはつまりは宝石飾石の売買丈にても家計は立て申すべく候。

但し希望としては単に売買のみならず致し度候。

とにかく成否は御心配なされず家の職業の準備として暫らく長屋住ひを御許し被下度候。

○尚小林様所有の家にて小林様宅の直裏に宝石の売買周旋かざりの注文取り等を職業とする人有之由近々中には小林様招介にて面会仕るべく候。

○皆様の御健康を祈り上候。

敬具

   大正八年二月五日

賢治

父上様
  皆々様