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[109] 1919年1月10日 宮澤政次郎あて 封書

(表)巌手県花巻川口町豊沢町 宮澤政次郎様 平安親展
(裏)大正八年一月十日 東京市小石川区雑司ヶ谷町一三○ 雲台館内 宮澤イチ 賢治(封印)絨

拝啓

昨夜は体温少しく増し候へども今朝は平穏、殊に本日よりは重湯の中に少許の飯粒をも雑へ、又甘薯を煮て裏ごしにしたるものをも食し居り候。食物に就ての制限はチブス等とは異なり今後は体温の下降に従ひて速に除去せらるゝ事と存じ候。御推察の如く退院は大分予定よりは遅れ候べくそれとても腸チブスなれば六十日入院は珍しからぬ次第の由先づ割合に早く退院の運びに至るべく候。

本日病院へ一月一日よりの諸支払を終へ申し候。

則ち    弐拾五円  入院料
      拾七円  看護料看護人食費同布団代、
      参拾銭   牛乳  拾銭甘薯

私共は少しも変り無之候間御安心奉願候。当地は昨日より雨天に御座候へども気温は反って高く誠に都合よく御座候。

    先は右迄申し上げ候。

敬具

   大正八年一月十日夕

賢治拝

 父上様

尚私共には何も不自由の品無之、当地は諸物価割合に廉く誠に便利に御座候。