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火祭(下書稿一)

一昨日の晩かいつか
火祭は日祭といって
山車でもなんでも
その日のうちにさっさと拵えるものだとか
云っていたのは詮之助
春の祭りの神様は
ふざけることが大好きなので
さうやらないと利かないし
第一こっちもうれしくないと
云っていたのは貞二郎
今朝やってゐるあいつがそれだ
帆舟につかず袋につかぬ
大きな白い紙の細工を荷馬車につけて
誰が見てゐるでもない
松の並木のさびしい宿を
みんなでとにかくゆらゆら引く
誰かがやけにやれやれやれと叫ぶけれども、誰も格別本気にならず
声はさびしく銀いろをした曇りのそらにきえてしまふ
雲もだんだん融けかゝる
勘助がわたくしの眼を避けてゐる
そこらあたりの生徒から
黒い小倉の服をかり
紙でこさえた綬をかけて 大事にそれをこなさないやう気をつけながら
柱のやうにつっ立ってゐる
外らした眼には白い反感
あとは野良着や半天や
白粉にベル 紙テープ
圭一は厭々引っぱり出された風に
ふだんのまゝの筒袖に
栗の木下駄をつっかけて
なかばは何か間が悪さうに
なかばは今日は部落総出で遊ぶのに
おまへばかりは町へ出て
はいらないのはいゝ人ぶりといふものと
さうわたくしをうらんでゐる
巨きな雲がばしゃばしゃ飛んで
みんなは所在なささうに
よごれた雪をふんで立つ