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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第997号--2018.03.31------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「春と修羅第二集(50)」「秘境」

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-〔話題〕---------------------------------------------------
「種山ヶ原」
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 前回お約束の1925年7月19日のもう一篇、「種山ヶ原」を掲載し
ます。

 「第二集」もこのあと、8月に四篇、9月、10月、そして翌年の
1月にそれぞれ二篇ですので、まもなくおしまいです。

 「種山ヶ原」ですが、元は長い詩で、下書稿1ではパート一から
四までありました。その下書稿1は私のサイトの「宮沢賢治作品館
・資料篇・詩異稿」に掲載していますが、今回はすっかりそれを忘
れていて、もう一度入力してしまいました。

 下書稿2以降は下書稿1の「パート三」が生き残ったもののよう
です。

 この詩はもちろん種山ヶ原を舞台にしていますが、下書稿1のパ
ート一では「コロラドの高原」という「銀河鉄道の夜」でおなじみ
の描写が出てきます。

 また、「風の又三郎」もまたこの詩の情景から発展していったも
ののようで、この年の夏には後の賢治の代表作の構想がはっきりで
きていたものと考えられます。

 このあたりは賢治が若い日に地質調査で歩いたところです。

じつにわたくしはこの高地の
頑強に浸蝕に抵抗したその形跡から
古い地質図の古生界に疑をもってゐた

 こういう詩句があって、賢治が当時の地質学の常識を疑っていた
こともわかります。

 この数十年後、現在のプレートテクトニクス理論では、当時とま
ったく違う説明がなされていますが、それでもこのあたりの地質に
ついてはまだまだ謎が多いそうです。

 それでも賢治の言うとおり、このあたりの地質が「古生界」であ
ることは否定され、もっと新しい、外洋から来たものだと言われて
いるそうで、賢治の疑いは正しかったようです。

 種山ヶ原の山頂付近には、今でも当時と同じ「残丘」があります。
変った形の黒くて硬い岩です。

 ここには宮沢賢治学会の催しで一度、そして後に妻と一緒に登り
ました。広々と開けた、気持ちのよい山の頂きです。

 山の麓の村には剣舞が伝わり、早池峰の神楽、花巻近辺の鹿踊り
といずれも魅力的な芸能の多いところでもあります。

 その村から仰ぎ見るのは岩手山、姫神山、早池峰山、そして種山
ヶ原と、賢治でなくても何度も訪れたくなりますね。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

早池峰山の特異な地形とその成因
「岩手県立大学総合政策学部 教授」 米地 文夫
http://www.tokanken.jp/R/konwakai/47-1.html

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 早池峰山の象徴は、まずハヤチネウスユキソウ、蛇紋岩、そして
「残丘」といわれてきた。宮沢賢治の詩にも多く取り上げられてい
る。北上高地の準平原に取り残された丘だと言われる。

 かつてわれわれの大先輩は、「切峰図面」という地形図の上に風
呂敷をかぶせるような方法で浸蝕前の地形を推論し、この山は日本
の代表例だとされ、多くの人々もそう思いこんでいた。だが実際の
早池峰山は、他の残丘と比べてみても、高すぎる、大きすぎる、長
い山稜はおかしい、南側が急斜面過ぎる、谷も大きい…など、地形
的な疑問の多すぎることから研究が進んでいる。

 早池峰山は、海洋プレートと大陸プレートのぶつかり合いででき
ているという点で、ヒマラヤに似た構造山脈である。北上高地は、
大陸プレートの一つ、いわゆる「北米プレート」のへりにくっつい
ている。日本列島の東側に海溝がある。ここで海洋プレートが大陸
プレートに潜り込む。その際のひずみで地震の発生することが知ら
れているが、すんなりと潜り込むわけではなく、実際は複雑で、海
洋プレートの上部が削り取られたり、大陸プレートの方から持ち込
まれたりする。こうしてたまったものを「付加体」という。北上高
地の北部がこれに当たることがわかってきた。これに対する北上高
地の南部、これがナゾだ。中国揚子江方面、あるいはオーストラリ
ヤからだとか、いろいろ推測されている。いずれ南の古大陸の断片
が、ざっと1億年ほど以前にはるばると流れ着き、両者が衝突し、
たたみこむように、のし上がり、潜り込む。この変動によって構造
的な山並みができて、早池峰山はかくも高くそびえ立ったものと見
られる。つまり、早池峰山はもともと高かったものであり、削り残
されて高いものではないということである。

 蛇紋岩が硬いから削り残されて残丘になったという説もあるが、
普通、残丘(モナノドック)といわれるものは、種山ヶ原を思い起
こしたら分かるように 、早池峰のような堂々たる山容にはならない。

 早池峰と薬師との間に大きな溝、構造的な谷がある。二つの塊が
ぶつかり合う層の切れ目、断層である。早池峰の蛇紋岩と薬師の花
崗岩、この層に沿って削られて構造的な谷ができた。小田越である。
水が削って谷となり急坂の先が峠となるのが普通なのに、ここは峠
と呼ばれない。ここは不思議な「風の谷」なのである。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

岩手県住田町種山が原・残丘(モナドノックス)と立石
https://hamadas.exblog.jp/6791944/

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 水沢市から江刺市に向かう。4号線から国道397号線に折れ三
陸海岸方向に向かう。

 途中456号線、287号線、10号線、8号線に枝分かれする
が其の儘直進する。

 3つのトンネルを過ぎると右側に「道の駅・種山が原」がある。
道路を挟み、その真ん前の道路を左折し道なりに進む。閉鎖された
物見山レーダー雨雪量観測所の入り口道路の前を通過し300m行
った所の駐車場に停め、そこから登る、と言っても直ぐ目の前にあ
り誰でも行ける。

 標高871mのなだらかな牛や馬の放牧地である。

 風になびいたような二つの巨岩や波打つ段違いの巨石がある。

 種山が原高原は宮沢賢治の原風景なのだそうだ。

 賢治が何度もここを訪れ、「牧歌」「銀河鉄道の夜」「風の又三
郎」など種山が原を舞台にした作品を多く残している。この巨岩が、
「この高原の残丘(モナドノックス)、此処こそ、その種山の尖端
だ」と賢治が描いた尖った形をした火山性の岩である。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

-〔春と修羅第二集(050)〕----------------------------------

「種山ヶ原」

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■「種山ヶ原」
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(本文=下書稿3推敲後)
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三六八
     種山ヶ原
                    一九二五、七、一九、

まっ青に朝日が融けて
この山上の野原には
濃艶な紫いろの
アイリスの花がいちめん
靴はもう露でぐしゃぐしゃ
図板のけいも青く流れる
ところがどうもわたくしは
みちをちがへてゐるらしい
ここには谷がある筈なのに
こんなうつくしい広っぱが
ぎらぎら光って出てきてゐる
小鳥のプロペラアが
三べんもつゞけて立った
さっきの露のかかった尾根は
たしかに地図のこの尾根だ
溶け残ったパラフヰンの霧が
底によどんでゐた、谷は、
たしかに地図のこの谷なのに
こゝでは尾根が消えてゐる
どこからか葡萄のかほりがながれてくる
あゝ栗の花
向ふの青い草地のはてに
月光いろに盛りあがる
幾百本の年経た栗の梢から
風にとかされきれいなかげらうになって
いくすじもいくすじも
こゝらを東へ通ってゐるのだ

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲前)
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三六八
     種山ヶ原
                    一九二五、七、一九、

まっ青に朝日が融けて
この山上の野原には
濃艶な紫いろの
アイリスの花がいちめん
靴はもう露でぐしゃぐしゃ
図板のけいも青く流れる
ところがどうもわたくしは
みちをちがへてゐるらしい
そこには谷がある筈なのに
こんなうつくしい広っぱが
ぎらぎら光って出てきてゐる
小鳥のプロペラアが
三べんもつゞけて立った
さっきの露のかかった尾根は
たしかに地図のこの尾根だ
どこからか葡萄のかほりがながれてくる
あゝ栗の花
向ふの青い草地のはてに
月光いろに盛りあがる
幾百本の年経た栗の梢から
風にとかされきれいなかげらうになって
いくすじもいくすじも
こゝらを東へ通ってゐるのだ

------------------------------------------------------------
(下書稿2推敲後)
------------------------------------------------------------

けれどもこゝはいちめんのかきつばたの花
それをあちこち折ったのは
もちろん馬のしわざである
馬がわれがち流れにはいり
なぜならこゝは
いちばんはやる馬の水のみ場所らしい
ならんでのどをごくごくやったり
あきてはじっと水に蹄をひたしたまゝ
しっぽをばしゃばしゃ振ったりする
さういふところをたしかに見たのは
あの柳沢の湧水だ
それがいまにも嵐のやうに
上の野原をおりて来て
そこらの花をみんな潰してしまひこうなのだ
じつはこっちが暑く渇いてゐるためだ
たくさんの藍燈を吊る
巨きな椈の緑廊を
紅やもえぎをながしたり
暗い石油にかはったり
水はつめたくすべってくる

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(下書稿2推敲前)
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     種山ヶ原 三、

いちめんのかきつばたの花を
こんなにあちこち折ったのは
やっぱり馬のしわざなのだ
ところがこゝは
馬の水のみ場処なので
流れによるほど
草もふまれてまばらだし
楊の皮もむしられて
蹄のあとがずっと下流までついてゐる
みんないっしょに上の野原で遊んでゐて
日中になると
にはかにかげらふや渇きを覚え
一ぴきさきにかけだせば
続いてみんなかけおりる
結局そこらの傾斜では
右横隊のかたちになって
もうわれがちに流れにはいり
ならんでのどをごくごくやったり
あきてはじっと蹄をつけて
しっぽをばしゃばしゃ振ったりする
それがいまにも嵐のやうに
あの青ぞらをおりて来て
そこらの花をぐらぐらゆすりさうなのは
じつはこっちも暑く渇いてゐるためだ
たくさんの藍燈を吊る
巨きな椈の緑廊を
紅やもえぎをながしたり
暗い石油にかはったり
水はつめたくすべってくる
すくへば水に魚のひれの模様もできて
底の砂利でも影がおなじにゆれてゐる
じつになんと緑色の幾層楼を
月長石の天にかゝげる
巨きないたやの木であらう
またその下の白く立派な折帯皺
林の奥はひっそりとして
もう一ぴきの鳥がなかない
けさ上の野原を横切るときは
こゝは一本の緑の紐に見えてゐて
もう秋の虫がないてゐるなとわたくしが云ったら
あの馬をひいた男は
なあにみんな鳥だと云ってわらってゐた
いまごろはあの人ももう馬を放して
またもとのけさやって来た尾根みちを
また戻ってゐるころだ
いまそらはもうひじゃうな風で
雲もひかってかけちがひ
ひぐらしもなけば冠毛もとぶ
(おれはいままで
房のつかない上着など
まだ着たことがないからな)と
さう云ったのは誰だったらう
あゝいま一瞬わたくしは
その巨きな栗の木の散点した
うつくしい苹果青いろの傾斜を
設計された果樹園だと
どこかでぼんやり考へたのは
今朝早かったのですっかりつかれてしまったのだ

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(下書稿1推敲前)
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三六八
     パート一
                    一九二五、七、一九、

(三字不明)に朝日が融けて
(五、六字不明)ぎらぎらひかり
靴もずぼんも露でいっぱい
(数文字不明)ながれる
   ……旋る気海のタスカロラ
     第九カルパの朝の嵐……
谷の底にはまだ融けのこるパラフヰンの霧
(三文字不明)萱の斜面には
こっちの影が巨きく落ちてうごいてゐる
   ……後光も白く映らば映れ
     修羅のかたちであるかばあるけ……
じつにわたくしはけさコロラドの高原の
白羽を装ふ原始の射手のやうに
検土杖や図版をもって
ひとり朝早く発って来たので
この尾根みちの日の出にかけて
幾へん鳥を飛び立たせたかわからない
   ……羊歯とアイリス
     谷いっぱいに虫がガラスを軋らせる
     谷にいるのは虫ではなくてみんな鳥だ……
さうさう
わたくしはあの白い麺麭を
あざみの花の露にぬらしてたべながら行かう
あざみの花はここではみんな桃いろだ
花青素アントケアンは一つの立派な指示薬だから
その赤いのは細胞液の酸性により
これらがもしもきまった(一字不明)で(約四字不明)ば
こゝらの尾根もやっぱり塩(三字不明)てゐるのだ
   ……露にぬらしてたべながら行かう……
どこからか葡萄のかほりがながれてくる
それは土耳古玉の天椀のへり
谷の向ふの草地の上だ
月光いろに盛りあがる
幾群もの年経た栗の梢から
風にとかされきれいなかげらふになって
   ……匂ある風は
     匂ない風より光るのだから……
幾すじも幾すじも
こゝらの尾根を通ってゐるのだ
   ……ぼそぼそ燃えるアイリスの花……

     パート二

わたくしはこのうつくしい山上の野原を通りながら
日光のなかに濃艶な紫いろに燃えてゐる
かきつばたの花をなんぼんとなく折ってきた
じつにわたくしはひそまる土耳古の天の下の
ひとりの貪婪なカリフであらう
それはなるべく(数文字不明)
華麗な花を奪ひあつめて来たのだから、
且つはいくたびこのなだらかな高原を刺し
その黒褐の腐植の量や表土の深さを記録して
勝利に酔ったひとりのカリフでわたくしはある
いまわたくしは胸にもあまる花をいだいて
このせい低いはんの木立のなかに来た
ここはつめたい亜鉛の陰影と
くちなしいろの若羊歯の氈
苔ばゆたかにしめってゐるし
恐らく瓣の燃えつきるまでは
花の品位は保たれやう
   ……かくこうがいきなり上を叫んで通る……
いまわたくしはこれらの青い蝋や絹からつくられた
靱ふ花軸をいちいちにとり
あの噴泉を中心にして やがてはこゝに
数箇の円い放射部落を形成して
そのうつくしい双の花蓋を
きららかな南の風にそよがせるなら
   ……かくこうよ何を恐れてさうけたたましく啼き過ぎるのか……
はんのきは黒い実をつけ
その実は青いラムプをつるし
草には淡い百合を咲かせる
   ……蜂は梢を出没し……
向ふではせんの木の(一字不明)が
踊りのやうにゆれてゐて
せはしく苔や草をわたる
朝の熊蜂の群もある
あゝわたくしはいつか小さな童話の城を築いてゐた
何たる貪欲なカリフでわたくしはあらう
   ……寂かな黄金のその蕊と
     聖らかな異教徒たちの安息日……
わたくしはこの数片の罪を記録して
風や青ぞらに懺悔しなければならない

     パート三

この高原の残丘モナドノックス
こここそその種山の尖端だ
炭酸や雨やあらゆる試薬に溶け残り
苔から白く装はれた
アルペン農の夏のウヰーゼのいちばん終りの露岩である
わたくしはこの巨大な地殻の冷え堅まった動脉に
槌を加へて検べやう
おゝ角閃石斜長石 暗い石基と斑晶と
まさしく閃緑ひん岩である
じつにわたくしはこの高地の
頑強に浸蝕に抵抗したその形跡から
古い地質図の古生界に疑をもってゐた
そしてこの前江刺の方から登ったときは
雲が深くて草穂は高く
牧路は風の通った痕と
あるかないかにもつれてゐて
あの傾斜儀の青い磁針は
幾度もぐらぐら方位を変へた
今日こそはこのよく拭はれた朝ぞらの下
そのひん岩の大きな突起の上に立ち
なだらかな準平原や河谷に澱む暗い霧
北はけはしいあの死火山の浅葱まで
天に接する陸の波
イーハトヴ県を展望する
いま姥石の放牧地が
緑青いろの雲の影から生れ出る
そこにおゝ幾百の褐や白
馬があつまりうごいてゐる
かげらふにきらきらゆれてうごいてゐる
食塩をやらうと集めたところにちがひない
しっぽをふったり胸をぶるってひきつらせたり
それであんなにひかるのだ
起伏をはしる緑のどてのうつくしさ
ヴァンダイク褐にふちどられ
あちこちくっきりまがるのは
この高原が
十数枚のトランプの青いカードだからだ
   ……蜂がぶんぶん飛びめぐる……
海の縞のやうに幾層ながれる山稜と
しづかにしづかにふくらみ沈む天末線
あゝ何もかももうみんな透明だ
雲が風と水と虚空と光と核の塵とでなりたつときに
風も水も地殻もまたわたくしもそれとひとしく組成され
じつにわたくしは水や風やそれらの核の一部分で
それをわたくしが感ずることは水や光や風ぜんたいがわたくしなのだ
   ……蜂はどいつもみんな小さなオルガンだ……

     パート四

たくさんの藍燈で照明された
椈やいたやの巨きな青い緑廊パーゴラ
水はつめたく渉ってくる
照射の下ではレンズになってほのほをあげ
またプリズムが虹や反射の光を射たり
陰影では石油に変ったり
たのしくたのしくこの谷水はながれてくる
わたくしはこの恐ろしく明るい幾層楼を
月長石の天に掲げる樹の下で
その白い折帯皺をふみ
清冽な流体を口にふくみ
熱いまなこをひやして行かう
   ……青い花青い花まぶたに燃える
     あのすげなくも奪ひあつめた
     イリスの花の像である……
   水には魚のひれのかたちの皺もあって
   底の砂にもうつってゐる
   ……イリスの花が
     みんなまっ赤(数文字不明)がる……
ひぐらしもなき
冠毛もとび
にぎやかな七月のひるまになった
(一行不明)
(一行不明)
(一行不明)
(数文字不明)おれはいまゝで
(数文字不明)房の付かない着物など着たことはない
松の木(数文字不明)うつくしい
まっ青に(以下不明)
そらは(以下不明)
雲もひかってかけちがひ(以下不明)
   ……アイリスアイリス
     いまアイリスの赤い火は
     みんな熟した苹果にかはる……
苹果青の草地に
あちこちならぶこんな巨きな栗の木を
設計された果樹園だと
たゞいましがたどこかで誰かゞ考へてゐた

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-〔文語詩稿未定稿(077)〕----------------------------------
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■「秘境」
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(本文=下書稿2推敲後)
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     秘境

漢子 称して秘処といふ
その崖下にたどりしに
樺柏に囲まれて
ほうきだけこそうち群れぬ

漢子 首巾をきと結びて
黄ばめるものは熟したり
なはそを集へわれはたゞ
白きを得んと気おひ云ふ

漢子おのこくろき双の脚
大コムパスのさまなして
草地の黄金をみだるれば
峯の火口に風鳴りぬ

漢子は蕈を山と負ひ
首巾をやゝにめぐらしつ
東に青き野をのぞみ
にと笑みにつゝ先立ちぬ

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(下書稿2推敲前)
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     秘境

漢子 称して秘処といふ
その崖下にたどりしに
樺柏に囲まれて
ほうきだけこそうち群るゝ

漢子 首巾をきと結びて
黄ばめるものは熟したり
なはそを集へわれはたゞ
白きを得んと勇み云ふ

漢子おのこくろき双の脚
大コムパスのさまなして
草地の黄金をみだるれば
峯の火口に風鳴りぬ

漢子は蕈を山と負ひ
首巾をやゝにゆるめつゝ
東に青き野をのぞみ
わらひて崖を下りけり

------------------------------------------------------------
(下書稿1推敲後)
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     秘境

谷の上の秘処に来りて
その漢子 蒼穹そらに息せり
秋の陽は草にかゞよひ
ほうきだけをちこち群れぬ

黄ばめるは熟したるもの
きみとりてまちにもたらせ
白きにはきみな手ふれそ
漬けてわが辛く喰みなん

鬱金をばきと結ひしめて
その漢子顎をあぐれば
焼石の峯に風鳴り
樺柏うちきらめきぬ

まくろなる麻のもも引
真鍮のひかりをみだし
その漢子たゞひとりして
あたらしくよきをあつめぬ

きららかに風は来りて
樺柏さんさんと鳴り
漢子またそらに息して
はて青き野をのぞみ云ふ

まがつみはかしこにぞあれ
塩魚の頭を喰みて
わが妻のもだえ死せしに
われ三月囚へられにき

山なせる蕈をになひて
鬱金をばきと結ひ直し
その漢子われをひきひて
その谷の秘処を去りにき

------------------------------------------------------------
(下書稿1推敲前)
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     秘境

谷の上の秘処に来りて
その漢子 蒼穹そらに息せり
秋の陽は草にかゞよひ
ほうきだけをちこち群れぬ

黄ばめるは熟したるもの
きみとりてまちにもたらせ
白きにはきみな手ふれそ
漬けてわが辛く喰みなん

鬱金をばきと結ひしめて
その漢子顎をあぐれば
焼石の峯に風鳴り
樺樺うちきらめきぬ

まくろなる麻のもも引
真鍮のひかりをみだし
その漢子たゞひとりして
あたらしきよきをあつめぬ

きららかに風は来りて
樺柏さんさんと鳴り
漢子またそらに息して
はるかなる野をのぞみけり

かしこにぞまがつみはあれ
塩魚の頭を喰みて
わが妻のもだえ死せしに
われ三月囚へられにき

山なせる蕈をになひて
鬱金をばきと結ひ直し
その漢子われをひきひて
その谷の秘処を去りにき

--〔後記〕--------------------------------------------------

 もう明日から四月です。今年はとても寒い二月の次に暖かい三月
になり、四月も暖かそうで、東北の桜も四月中には咲いてしまいそ
うだとか。

 北上の展勝地、盛岡の石割桜、高松池、角館や弘前城など、いろ
いろ訪れましたが、どれも懐かしいです。妻は弘前には行ったこと
がないそうなので、できればもう一度訪れたいと思っています。

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