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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第996号--2018.03.24------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「春と修羅第二集(49)」「〔こはドロミット洞窟の〕」

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-〔話題〕---------------------------------------------------
「鉱染とネクタイ」「岩手軽便鉄道 七月(ジャズ)」
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 1925年7月19日の日付を持つ詩は三篇あるのですが、今回はその
うちの二篇で、もう一つの「種山ヶ原」は次回に掲載します。

 全集の順番でいくと「種山ヶ原」の方が二篇目なのですが、ちょ
っとややこしそうなので、次回にまわします。

 まず、「鉱染とネクタイ」は短い詩で、蠍座の姿をネクタイの広
告になぞらえています。

 蠍座のα星、アンタレスがネクタイピンなんですね。

 三篇目の「岩手軽便鉄道 七月(ジャズ)」は有名な詩で、特に
初めの方の原稿では「イーハトヴ第七支流」や「銀河軽便鉄道」と
いう言葉が出てきて、賢治の代表作である「銀河鉄道の夜」との関
連がうかがえます。猿ヶ石川の急流に沿って、軽便鉄道が「野原」
まで駆け下りる様子です。

 ところで、賢治がクラシック音楽のファンで、たくさんのレコー
ド(SP盤)を所藏していたことは有名ですが、当時まだ初期の段
階であったアメリカのジャズにも興味を持っていたことは驚きです。

 私たちが知っているジャズはもっと後の姿なので、まだジャズの
本当の姿が見えないうちから、何かを感じていたでしょう。

 でも、この詩のリズム感は確かにジャズじゃないか…とも思えま
す。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

宮沢賢治ファンに告ぐ! そしてジャズファンにも!
http://jmb.at.webry.info/201606/article_2.html

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 宮沢賢治の作品にジャズの詩があるのをご存知か?

 1926年(大正15年)の作品「ジャズ 夏のはなしです」
(同人詩誌「銅鑼」七号に発表)がそれだ。

 銀河鉄道のモチーフとなっている岩手軽便鉄道がジャズのリズム?
で描かれている。

抜粋)・・・・・シグナルもタブレットもあったもんでなく
とび乗りのできないやつは乗せないし
とび降りなんぞやれないやつは
もうどこまででも載せて行って
北国あたりで売りとばしたり・・・・・

 この詩を改稿した未発表作品に「岩手軽便鉄道7月(ジャズ)」
というのもある。

抜粋)・・・・・恋はやさし野べの花よ
一生わたくしかはりませんと
騎士の誓約強いベースで鳴りひびかうが
そいつもこいつもみんな地塊の夏の泡
いるかのやうに踊りながらはねあがりながら
もう積雲の焦げたトンネルも通り抜け
緑青を吐く松の林も
続々うしろへたたんでしまって
なほいっしんに野原をさしてかけおりる・・・・・

 “賢治はジャズ・インプロヴァイザーのソロイストであり、リズ
ムセクションは岩手軽便鉄道であり、伴奏者はイーハトーヴの風景
であり、風であり、北上山地という風土だったのでは。”
 「宮澤賢治、ジャズに出会う」奥成 達 (著)より
 
 米国のジャズシーンでは、カンザスシティジャズの隆盛期、カウ
ント・ベイシーが1927年にカンザス・シティにやってきてベニ
ー・モーテン楽団に入り、それがカウント・ベーシー楽団誕生の始
まりとなる。

 また、1927年ホーギー・カーマイケルがあの「スターダスト」
を作曲し、その後詞がつけられサッチモが歌ってヒットしたのが1
931年である。

 「ジャズ 夏のはなしです」は1926年(大正15年)の作品。
その時代に賢治はどこで、どんなふうにジャズと出会ていたのだろ
うか!

「ジャズ 夏のはなしです」

 宮沢賢治とジャズ・・・・意外な結びつきをどう捉えよう!

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

-〔春と修羅第二集(049)〕----------------------------------

「鉱染とネクタイ」「岩手軽便鉄道 七月(ジャズ)」

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■「鉱染とネクタイ」
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(本文=下書稿推敲後)
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三六六
     鉱染とネクタイ
                    一九二五、七、一九、

蠍の赤眼が南中し
くわがたむしがうなって行って
房や星雲の附属した
青じろい浄瓶星座がでてくると
そらは立派な古代意慾の曼陀羅になる
  ……峡いっぱいに蛙がすだく……
     (こゝらのまっくろな蛇紋岩には
      イリドスミンがはいってゐる)
ところがどうして
空いちめんのイリドスミンの鉱染だ
世界ぜんたいもうどうしても
あいつが要ると考へだすと
  ……虹のいろした野風呂の火……
南はきれいな夜の飾窓ショーウヰンドウ
蠍はひとつのまっ逆さまに吊るされた、
夏ネクタイの広告で
落ちるかとれるか
とにかくそいつがかはってくる
赤眼はくらいネクタイピンだ

------------------------------------------------------------
(下書稿推敲前)
------------------------------------------------------------

三六六
     鉱染とネクタイ
                    一九二五、七、一九、

蠍のアルファが南中し
くわがたむしがうなって行って
房や星雲の附属した
青じろい浄瓶星座がでてくると
そらは立派な曼陀羅になる
  ……峡いっぱいに蛙がすだく……
     (こゝらのまっくろな蛇紋岩には
      イリドスミンがはいってゐるぞ)
ところがどうして
空いちめんがイリドスミンの鉱染だ
  ……虹のいろした野風呂の火……
南はきれいな夜の飾窓ショーウヰンドウ
蠍はひとつのネクタイの広告で
アルファは赤いネクタイピンだ

------------------------------------------------------------
■「岩手軽便鉄道 七月(ジャズ)」
------------------------------------------------------------
(本文=定稿)
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三六九
     岩手軽便鉄道 七月(ジャズ)
                    一九二五、七、一九、

ぎざぎざの班糲岩の岨づたひ
膠質のつめたい波をながす
北上第七支流の岸を
せはしく顫へたびたびひどくはねあがり
まっしぐらに西の野原に奔けおりる
岩手軽便鉄道の
今日の終りの列車である
ことさらにまぶしさうな眼つきをして
夏らしいラヴスィンをつくらうが
うつうつとしてイリドスミンの鉱床などを考へやうが
木影もすべり
種山あたり雷の微塵をかがやかし
列車はごうごう走ってゆく
おほまつよいぐさの群落や
イリスの青い火のなかを
狂気のやうに踊りながら
第三紀末の紅い巨礫層の截り割りでも
ディアラヂットの崖みちでも
一つや二つ岩が線路にこぼれてようと
積雲が灼けようと崩れようと
こちらは全線の終列車
シグナルもタブレットもあったもんでなく
とび乗りのできないやつは乗せないし
とび降りぐらゐやれないものは
もうどこまででも連れて行って
北極あたりの大避暑市でおろしたり
銀河の発電所や西のちぢれた鉛の雲の鉱山あたり
ふしぎな仕事に案内したり
谷間の風も白い花火もごっちゃごちゃ
接吻キスをしようと詐欺をやらうと
ごとごとぶるぶるゆれて顫へる窓の玻璃ガラス
二町五町の山ばたも
壊れかかった香魚あゆやなも
どんどんうしろへ飛ばしてしまって
ただ一さんに野原をさしてかけおりる
      本社の西行各列車は
      運行敢て軌によらざれば
      振動けだし常ならず
      されどまたよく鬱血をもみさげ
       ……Prrrrr Pirr!……
      心肝をもみほごすが故に
      のぼせ性こり性の人に効あり
さうだやっぱりイリドスミンや白金鉱区やまの目論見は
鉱染よりは砂鉱の方でたてるのだった
それとももいちど阿原峠や江刺堺を洗ってみるか
いいやあっちは到底おれの根気の外だと考へやうが
恋はやさし野べの花よ
一生わたくしかはりませんと
騎士の誓約強いベースで鳴りひびかうが
そいつもこいつもみんな地塊の夏の泡
いるかのやうに踊りながらはねあがりながら
もう積雲の焦げたトンネルも通り抜け
緑青を吐く松の林も
続々うしろへたたんでしまって
なほいっしんに野原をさしてかけおりる
わが親愛なる布佐機関手が運転する
岩手軽便鉄道の
最後の下り列車である

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲後)
------------------------------------------------------------

三六九
                    一九二五、七、一九、

ぎざぎざの班糲岩の岨づたひ
膠質のつめたい波をながす
北上第七支流の岸を
せはしく顫へたびたびひどくはねあがり
まっしぐらに西の野原に奔けおりる
岩手軽便鉄道の
今日の終りの列車である
ことさらにまぶしさうな眼つきをして
夏らしいラヴスィンをつくらうが
うつうつとしてイリドスミンの鉱床などを考へやうが
木影もすべり
種山あたり雷の微塵をかがやかし
列車はごうごう走ってゆく
おほまつよいぐさの群落や
イリスの青い火のなかを
狂気のやうに踊りながら
第三紀末の紅い巨礫層の截り割りでも
ディアラヂットの崖みちでも
一つや二つ岩が線路にこぼれていようと
積雲が灼けやうと崩れやうと
こちらは全線の終列車
シグナルもタブレットもあったもんでなく
とび乗りのできないやつは乗せないし
とび降りぐらゐやれないものは
もうどこまででも連れて行って
北極あたりの大避暑市でおろしたり
銀河の発電所や西のちぢれた鉛の雲の鉱山あたり
ふしぎな仕事に案内したり
谷間の風も白い花火もごっちゃごちゃ
接吻キスをしようと詐欺をやらうと
ごとごとぶるぶる
ゆれて顫へる窓の玻璃ガラス
二町五町の山ばたも
壊れかかった香魚あゆやなも
どんどんうしろへ飛ばしてしまって
ただ一さんに野原をさしてかけおりる
      本社の西行各列車は
      運行敢て軌によらざれば
      振動けだし常ならず
      されどまたよく鬱血をもみさげ
       ……Prrrrr Pirr……
      心肝をもみほごすが故に
      のぼせ性こり性の人に効あり
さうだやっぱりイリドスミンや白金鉱区やまの目論見は
鉱染よりは砂鉱の方でたてるのだった
それとももいちど阿原峠や江刺の方を洗ってみるか
いいやあっちは到底おれの根気の外だと考へやうが
恋はやさし野べの花よ
一生わたくしかはりませんと
騎士の誓約強いベースで鳴りひびかうが
そいつもこいつもみんな地塊の夏の泡
いるかのやうに踊りながらはねあがりながら
もう積雲の焦げたトンネルも通り抜け
緑青を吐く松の林も
続々うしろへたたんでしまって
なほいっしんに野原をさしてかけおりる
わが親愛なる布佐機関手が運転する
岩手軽便鉄道の
最後の下り列車である

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲前)
------------------------------------------------------------

三六九
                    一九二五、七、一九、

ぎざぎざの班糲岩の岨づたひ
膠質のつめたい波をながす
北上第七支流の岸を
せはしく顫へたびたびひどくはねあがり
まっしぐらに西の野原に奔けおりる
岩手軽便鉄道の
今日の終りの列車である
ことさらにまぶしさうな眼つきをして
夏らしいラヴスィンをつくらうが
うつうつとしてイリドスミンの鉱床などを考へやうが
木影もすべり
種山あたり雷の微塵をかがやかし
列車はごうごう走ってゆく
おほまつよいぐさの群落や
イリスの青い火のなかを
狂気のやうに踊りながら
第三紀末の紅い巨礫層の截り割りでも
ディアラヂットの崖みちでも
一つや二つ岩が線路にこぼれていようと
積雲が灼けやうと崩れやうと
こちらは全線の終列車
シグナルもタブレットもあったもんでなく
とび乗りのできないやつは乗せないし
とび降りぐらゐやれないものは
もうどこまででも連れて行って
北極あたりの大避暑市でおろしたり
銀河の発電所や西のちぢれた鉛の雲の鉱山あたり
ふしぎな仕事に案内したり
接吻キスをしようと詐欺をやらうと
二町五町の山ばたも
壊れかかった香魚あゆやなも
どんどんうしろへ飛ばしてしまって
ただ一さんに野原をさしてかけおりる
      本社の西行各列車は
      運行敢て軌によらざれば
      振動けだし常ならず
      されどまたよく鬱血をもみさげ
       ……Prrrrr Pirr……
      心肝をもみほごすが故に
      のぼせ性こり性の人に効あり
さうだやっぱりイリドスミンや白金鉱区やまの目論見は
鉱染よりは砂鉱の方で立てるのだった
それとももいちど阿原峠や江刺の方を洗ってみるか
いゝやあすこは到底おれの根気の外だと考へやうが
恋はやさし野べの花よ
一生 わたくし かはりませんと
騎士の誓約強いベースで鳴りひびかうが
そいつもこいつもみんな地塊の夏の泡
いるかのやうに踊りながらはねあがりながら
もう積雲の焦げたトンネルも通り抜け
緑青を吐く松の林も
続々うしろへたたんでしまって
なほいっしんに野原をさしてかけおりる
岩手軽便鉄道の
最后の下り列車である

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(下書稿2断片)
------------------------------------------------------------

※切り抜かれ下書稿3に貼り込まれている。

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(下書稿1推敲後)
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三六九
     岩手軽便鉄道
                    一九二五、七、一九、

ぎざぎざの班糲岩の岨づたひ
ぼろぼろ青い波をながす
北上第七支流の岸を
せはしく顫へたびたびひどくはねあがり
まっしぐらに西の野原に奔けおりる
岩手軽便鉄道の、今日の終りの列車である
ことさらにまぶしさうな眼つきをして
夏らしいラヴスィンをつくらうが
うつうつとしてイリドスミンの鉱床などを考へやうが
木影もすべり
種山あたり雷の微塵をかがやかし
どしゃどしゃ汽車は走って行く
おほまちよいぐさの群落や
イリスの青い火のなかを
狂気のやうに踊りながら
第三紀末の紅い巨礫層の截り割りでも
ディアラヂットの崖みちでも
一つや二つ岩が線路にこぼれていやうが
積雲が灼けやうが崩れやうが
こっちは最終の一列車だ
シグナルもタブレットもあったもんでなく
とび乗りのできないやつは乗せないし
とび降りなんぞやれないやつは
もうどこまででも載せて行って
北極あたりで売りとばしたり
銀河の発電所や西のちぢれた鉛の雲の鉱山あたり
監獄部屋へ押し込んだり
蔦のにほひも白い火花もごっちゃごちゃ
ちょっとやそっとカーヴが外へ食み出てやうが
四寸や五寸ガードが下へへこんでやうが
接吻キスをしやうが詐欺をやらうと
こっちは最后の一列車だ
香魚のはなしも選挙地盤のいきさつも
どんどんうしろへ飛ばしてしまひもう一さんに
西の野原へかけおりる
      本社の汽車は、
      元来動揺性にして、運動はなはだつねならず、
      されどまたよく鬱血をもみさげ
       ……Prrrrr Pirr……
      筋をもみほごすが故に
      のぼせ性こり性の人に効あり
さうさう
いまごろ熊の毛皮を着て
黄金の目をした人が来やうが
シャープ鉛筆きらりとひかり
そこらで婚約がなりたたうが
いるかのやうに踊りながらはねあがりながら
もう積雲の焦げたトンネルを通り抜けて
どんどんどんどん野原の方へおりて行く
敬愛すべきわが熊谷機関手の運転する
岩手軽便鉄道の最后の下り列車である

------------------------------------------------------------
(下書稿1推敲前)
------------------------------------------------------------

三六九
     Jaz
                    一九二五、七、一九、

ぎざぎざの班糲岩の岨づたひ
膠質のつめたい波をながす
イーハトヴ第七支流の岸を
せはしく顫へたびたびひどくはねあがり
まっしぐらに西の野原に奔けおりる
銀河軽便鉄道の今日の最終列車である
ことさらにまぶしさうな眼つきをして
夏らしいラヴシィンをつくらうが
うつうつとしてイリドスミンの鉱床などを考へやうが
木影もすべり
種山あたり雷の微塵をかがやかし
どしゃどしゃ汽車は走って行く
おほまちよいぐさの群落や
イリスの青い火のなかを
狂気のやうに踊りながら
(数文字不明)第四列車だ(数文字不明)
第三紀末の紅い巨礫層の截り割りでも
ディアラヂットの崖みちでも
一つや二つ岩が線路にこぼれていやうが
積雲が灼けやうが崩れやうが
こっちは最終の一列車だ
シグナルもタブレットもあったもんでなく
とび乗りのできないやつは乗せないし
とび降りなんぞやれないやつは
もうどこまででも載せて行って
北極あたりで売りとばしたり
銀河の発電所や西のちゞれた鉛の雲の鉱山あたり
監獄部屋へ押し込んだり
蔦のにほひも(五字不明)ごっちゃごちゃ
接吻キスをしやうが詐欺をやらうが
繭のはなしも鹿爪らしい見識も
どんどんうしろへ飛ばしてしまって
おほよそ世間の無常はかくのごとくに迅速である模型を示し
梨をたべてもすこし(数文字不明)
何せ匂いがみんなうしろに残るのだ
(一字不明)や(数文字不明)さっ(以下不明)
(数文字不明)まで(二字不明)硬い砂岩やみかげの岩根をつたはって
      この汽車は
      動揺性にして運動つねならず
      されどよく鬱血をもみさげ
       ……Prrrrr Pirr……
      筋をもみほごすが故に
      のぼせ性こり性の人に効あり
さうさう
いまごろ熊の毛皮を着て
縄の紐で(数文字不明)財布を下げた人が来やうが
そこらで婚約がなりたたうが
そんなことにはおかまひなく
馬鹿のやうに踊りながらはねあがりながら
もう積雲の焦げたトンネルを通り抜けて
野原の方へおりて行く
尊敬すべきわが熊谷機関手の運転する
銀河軽便鉄道の最后の下り列車である

------------------------------------------------------------
(「銅鑼」発表形 1926年8月1日)
------------------------------------------------------------

     「ジャズ」夏のはなしです

ぎざぎざの班糲岩の岨づたひ
膠質のつめたい波をながす
イーハトヴ第七支流の岸を
せはしく顫へたびたびひどくはねあがり
まつしぐらに西の野原に奔けおりる
銀河軽便鉄道の今日の最終列車である
ことさらにまぶしさうな眼つきをして
夏らしいラヴスインをつくらうが
うつうつとしてイリドスミンの鉱床などをかんがへやうが
木影もすべり
種山あたり雷の微塵をかがやかし
どしやどしや汽車は走つて行く
おほまちよいぐさの群落や
イリスの青い火のなかを
狂気のやうに踊りながら
第三紀末の紅い巨礫層の截り割りでも
デイアラヂツトの崖みちでも
一つや二つ岩が線路にこぼれてやうが
積雲が灼けやうが崩れやうが
こちらは最終の一列車だ
シグナルもタブレットもあつたもんでなく
とび乗りのできないやつは乗せないし
とび降りなんぞやれないやつは
もうどこまででも載せて行つて
北国あたりで売りとばしたり
銀河の発電所や西のちぢれた鉛の雲の鉱山あたり
監獄部屋に押しこんだり
葛のにほひも石炭からもごつちやごちや
接吻キスをしようが詐欺をやらうが
繭のはなしも鹿爪らしい見識も
どんどんうしろへ飛ばしてしまつて
おほよそ世間の無常はかくに如くに迅速である模型を示し
梨をたべてもすこしもうまいことはない
何せ匂ひがみんなうしろに残るのだ
     この汽車は
     動揺性にして運動つねならず
     されどよく鬱血をもみさげ
        ……Prrrrr Pir……
     筋をもみほどすが故に
     のぼせ性こり性の人に効あり
さうさう
いまごろ熊の毛皮を着て
縄の紐で財布を下げた人が来やうが
そんなことにはおかまひなく
馬鹿のやうに踊りながらはねあがりながら
もう積雲の焦げたトンネルを通り抜けて
野原の方へおりて行く
尊敬すべきわが熊谷機関手の運転する
銀河軽便鉄道の最終の下り列車である

------------------------------------------------------------
-〔文語詩稿未定稿(076)〕----------------------------------
------------------------------------------------------------
■「〔こはドロミット洞窟の〕」
------------------------------------------------------------
(本文=下書稿2推敲後)
------------------------------------------------------------

     〔こはドロミット洞窟の〕

こはドロミット洞窟の
け寒く硬き床なるを

幾箇の環を嵌められし
巨人の白き隻脚ぞ

かくて十二の十年は
事なきさまに燃え過ぐる

------------------------------------------------------------
(下書稿2推敲前)
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こはドロミット洞窟の
つめたく硬き床にあらずや

幾箇の環を嵌められしぞも
巨人の白くひかる隻脚

------------------------------------------------------------
(下書稿1「東京」ノート52頁)
------------------------------------------------------------

こはドロミット洞窟の
つめたく硬き床にあらずや
さるにてもいま
幾箇の環を嵌められしぞも
巨人の白くひかる隻脚

--〔後記〕--------------------------------------------------

 いよいよ千号が近づいてきました。4月中には到達です。

 「第二集」も「文語詩未定稿」もそろそろ終りが見えてきました。
引続き第三集以降も掲載していくつもりですので、千号を越えても
しばらく続けます。ご講読よろしく!

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