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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第992号--2018.02.24------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「春と修羅第二集(45)」「宗谷〔二〕」

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-〔話題〕---------------------------------------------------
「遠足統率」「〔つめたい風はそらで吹き〕」
------------------------------------------------------------

 今回は1925年5月7、10日の日付をもつ二篇です。

 5月7日は木曜日で、実際に農学校の生徒を引率して小岩井農場
を訪問しています。

 この詩は下書稿が4種類もあり、それぞれ推敲前と後で合計八篇
も入力しましたので、かなり長くなっています。

 そのうち、下書稿1では「歩兵中尉」が、下書稿2と3の推敲前
では「歩兵少尉」が登場します。それ以降は削除されていますが、
当時の学校には、先生とは配属将校と呼ばれる別に軍人がいたので
す。

 軍縮の関係で余剰となった軍人の救済という面もあったそうです
が、すべての国民に軍事教練をということで、学校での教練を担当
していました。こういう学校行事にも同行することはあったようで
す。

 農場で生徒らを野放しにしたせいで、賢治先生は心配しながら見
ているという場面です。

 5月10日は日曜日で、賢治はまだ中学生だった森佐一を訪ね、
共に岩手山に登っています。

 この詩は寒さに震えながら、岩手山神社の柳沢社務所にて仮眠を
とっているときのものでしょう。

 木曜日に学校行事で小岩井農場に行き、日曜日に再び同じような
場所に行っているのですから、まったくマメなものです。

 前回紹介したような、教職をやめるという意志もあり、いろいろ
と考えることも多かったのだろうと思います。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

「少尉」は虚像だった?
http://www.morioka-times.com/news/2009/0906/27/09062705.htm

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 陸軍省が学校における軍事上の教育と訓練を強化するために現役
将校を配属させる背景には、大正14年の予算編成を前に緊縮財政の
うえから陸軍にも6個師団の廃止を要請されていた事情があった。
けっきょくは4個師団を廃止しますが、軍縮による将校の失業救済
のためと将来の総力戦体制に備えることを意図したのが「現役将校
配属令」だったのです。

 賢治の作品には時事をたくみに取入れていることに気づくことが
ある。それも時事に触発されたという受動的なものではなく、もっ
と積極的に時事を取込むことにより読者に童話のモチーフを意識さ
せようとする意図をもっていたと思います。しかも賢治はあくまで
も時事の顕在を避け「隠喩」として、うっかり見過ごしてしまうく
らいにたくみに取入れているのです。

 たとえば「遠足統率」の先駆稿では「現役将校配属令」の「少尉」
という時事を取入れ、少尉が「あ誰だ/電線へ石を投げたのは」と
どならせているのに定稿では顕在化を避けて「少尉」の存在を隠し、
どなった人称を空白にしてしまったのです。それほど「少尉」の存
在は時事を意味する象徴となっているからでしょう。また先駆稿を
注意してみると、下書稿(一)では「少尉」が「中尉」となってい
るのに気づきます。
 
  風はやはらかなチモシイを吹くし
  あんまりいゝとこに来たもんだから
  約十分間分れとかなんとか
  中尉どのがやってしまったもんだから
 
 この「中尉」が下書稿(二)ではなぜか「少尉」に格下げしまし
た。そして下書稿(三)まで「少尉」が顕在させていたが、下書稿
(四)↓定稿になると「少尉」なる人物そのものをきれいに削除し
てしまったのです。これはどういうことか。

 花巻農学校には最初から「少尉」なる配属将校が不在だったので
はないか。大正14年4月25日の「岩手日報」は、陸軍省から4月24日
に発表された各学校への配属将校の名簿について報道している。

 それによれば高等専門学校へは中佐から少佐を、中学校へは少佐
から大尉を、実業学校へはおおむね中尉が配属されているのです。
花巻農学校への配属将校の記事はないが、実業校なので配属された
のは中尉だったと推察されます。

 第一次形態で「中尉どの」と敬称で呼んだのは実像だったからで、
それが下書稿(二)では「中尉」を「少尉」に格下げし、しかも
〈あんまり早く少尉めやってしまったもんだ〉とか〈やつは膝の上
までゲートルをはき〉などと配属将校を「少尉め」「やつ」と蔑称
しているのは、やはり虚像だったからだとよみれます。

 しかし定稿では虚像の「少尉め」の存在すら削除してしまったの
は何故だったのか。表現上のレトリックからではなかったように思
われます。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------


-〔春と修羅第二集(045)〕----------------------------------

「遠足統率」「〔つめたい風はそらで吹き〕」

------------------------------------------------------------
■「遠足統率」
------------------------------------------------------------
(本文=下書稿4推敲後)
------------------------------------------------------------

三三三
     遠足統率
                    一九二五、五、七、

もうご自由に
ゆっくりごらんくださいと
大ていそんなところです
    そこには四本巨きな白楊ドロ
    かがやかに日を分劃し
    わづかに風にゆれながら
    ぶつぶつ硫黄の粒を噴く
前にはいちいち案内もだし
博物館もありましたし
ひじゃうに待遇したもんですが
まい年どしどし押しかける
みんなはまるで無表情
向ふにしてもたまらんですな
    せいせいと東北東の風がふいて
    イーハトーヴの死火山は
    斧劈の皺を示してかすみ
    禾草がいちめんぎらぎらひかる
いつかも騎兵の斥候が
秣畑をあるいたので
誰かゞちょっととがめたら
その次の日か一旅団
もうのしのしとやってきて
大演習をしたさうです
    鶯がないて
    花樹はときいろの焔をあげ
    から松の一聯隊は
    青く荒んではるかに消える
えゝもうけしきはいゝとこですが
冬に空気が乾くので
健康地ではないさうです
中学校の寄宿舎へ
ここから三人来てゐましたが
こどものときの肺炎で
みな演説をしませんでした
    七つ森ではつゝどりどもが
    いまごろ寝ぼけた機関銃
    こんどは一ぴき鶯が
    青い折線のグラフをつくる
あゝやって来たやっぱりひとり
まあご随意といふ方らしい
あ誰だ
電線へ石投げたのは
    くらい羊舎のなかからは
    顔ぢゅう針のささったやうな
    巨きな犬がうなってくるし
    井戸では紺の滑車が軋り
    蜜蜂がまたぐわんぐわん鳴る
     (イーハトーヴの死火山よ
      その水いろとかゞやく銀との襞をおさめよ)

------------------------------------------------------------
(下書稿4推敲前)
------------------------------------------------------------

三三三
     遠足統率
                    一九二五、五、七、

もうご自由に
ゆっくりごらんくださいと
大ていそんなところです
    そこには四本巨きな白楊ドロ
    かがやかに日を分劃し
    わづかに風にゆれながら
    ぶつぶつ硫黄の粒を噴く
前にはいちいち案内もだし
博物館もありましたし
ひじゃうに待遇したもんですが
まい年どしどし押しかける
みんなはまるで無表情
向ふにしてもたまらんですな
いつかも騎兵の斥候が
秣畑をあるいたので
誰かゞちょっととがめたら
その次の日か一旅団
もうのしのしとやってきて
大演習をしたさうです
    たてつづけに鶯がないて
    花樹はときいろの焔をあげ
    またから松の一聯隊は
    青く荒んではるかに消える
えゝもうけしきはいゝとこですが
冬は空気が乾いてゐて
からだにはよくないらしいです
中学校の寄宿舎へ
ここから三人来てゐましたが
こどものときの肺炎で
みな演説をしませんでした
    七つ森ではつゝどりどもが
    いまごろ寝ぼけた機関銃
    こんどは一ぴき鶯が
    青い折線のグラフをつくる
あゝやって来たやっぱりひとり
まあご随意といふ方らしい
あ誰だ
電線へ石投げたのは
    くらい羊舎のなかからは
    顔ぢゅう針のささったやうな
    巨きな犬がうなってくるし
    井戸では紺の滑車が軋り
    蜜蜂がまたぐわんぐわん鳴る
     (イーハトーヴの死火山よ
      その水いろとかゞやく銀との襞をおさめよ)

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲後)
------------------------------------------------------------

三三三
                    一九二五、五、七、

もうご自由に
ゆっくりごらんくださいと大ていそんなところです
前にはいちいち案内もだし
博物館もありましたし
非常に待遇したもんですが
そこには四本巨きなドロが
かがやかに日を分劃し
わづかに風にゆれながら
みんなぶつぶつ硫黄の粒を噴く
またそのころの場員は
痛いも痒いもよくわかる
ほんとの文明人でした
ところが毎年やってくる
こっちはまるで無表情
向ふにしてもたまらんですな
いつかの演習で秣畑をあるいたのを誰かゞそれをとがめたら
その次の日か一旅団もうのしのしとやってきて
大演習をしたさうです
せいせいと東北東の風が吹いて
花樹はときいろの焔をあげ
から松の一聯隊は
青ざめてはるかに消える
えゝもうけしきはいゝとこですが
冬は空気がずゐぶん乾いてゐて
健康にはよくないらしいです
中学校の寄宿舎へ
こゝから三人来てゐましたが
こどものときの肺炎で
みな演説ができませんでした
そのうちひとりが云ひました
盛岡中の高位の人を
いつかごちさうしたときに
せっかく出した七面鳥を
みんな豚だと思ってゐたとか
桜の花ももっともらしく
七つ森ではつゝどりどもが
いまごろ寝ぼけた機関銃
それからこんどは鶯が
青い折線のグラフをつくる
あゝやって来たやっぱりひとり
まあご随意といふ方らしい
あ 誰だ
電線へ石投げたのは
  くらい羊舎のなかからは
  顔ぢゅう針のささったやうな
  巨きな犬がうなってくるし
  さすがの少尉も青ざめて
井戸では紺の滑車が軋り
蜜蜂がまたぐわんぐわん鳴る
     (イーハトーヴォの死火山よ
      その水いろとかゞやく銀との襞をおさめよ)

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲前)
------------------------------------------------------------

三三三
                    一九二五、五、七、

挨拶をしに本部へ行って
書記が出て来もしないのに
芽を出した芝の上だの
調馬所の囲ひのなかを
かう生徒らがかけ歩いては
だいいちかんじやうもんだいになる
約十分間分れだなんて
あんまり早く少尉がやってしまったもんだ
ところがやつは膝の上までゲートルをはき
水筒などを肩から釣って
けろんとそらをながめてゐる
そこには四本巨きなドロが
かがやかに日を分劃し
わづかに風にゆれながら
みんなぶつぶつ硫黄の粒を噴く
じつに何とよく晴れた春のそらよ
せいせいと東北東の風が吹いて
イーハトーヴォの死火山は
斧劈のシワを示してかすみ
から松の一聯隊は
青ざめてはるかに消える
    (羊のまなこ
     蛍みだいに光るけな)
書記がぽろっとあらはれて
緑青いろに点火ともってくる
まあご随意にごらんなさいといはれたけはひ
さればいよいよ鳥も冴え
桜の花ももっともらしく
七つ森ではつゝどりどもが
いまごろ寝ぼけた機関銃
それからこんどは鶯が
三八式に啼いたので
歩兵少尉がしかつめらしく手をかざす
     (あ誰だ
      電線へ石投げたのは!)
くらい羊舎のなかからは
顔ぢゅう針のささったやうな
巨きな犬がうなってくるし
さすがの少尉も青ざめて
     (こら犬をからかってはいかん!)といふ
井戸では紺の滑車が軋り
蜜蜂は
相もかはらず歓語の網を織りつゞける
     (イーハトーヴォの死火山よ
      その水いろとかゞやく銀との襞をおさめよ)

------------------------------------------------------------
(下書稿2推敲後)
------------------------------------------------------------

三三三
                    一九二五、五、七、

挨拶をしに本部へ行って
書記が出て来もしないのに
かう生徒らが
芽を出した芝の上だの
やはらかなチモシーの上や
調馬所の囲ひのなかを
かう生徒らがかけ歩いてはかげらふのやうにかけあるいては
だいいちかんじやう問題になる
約十分間分れだなんて
あんまり早く少尉めやってしまったもんだ
ところがやつは膝の上までゲートルをはき
水筒などを肩からつって
けろんとそらをながめてゐる
そこには四本巨きなドロが
かゞやかに日を分劃し
わづかに風にゆれながら
みなぶつぶつと硫黄の粒を噴いてゐる
じつに何とよく晴れた春のそらよ
せいせいと東北東の風が吹いて
イーハトーヴォの死火山は
斧劈の皺を示してかすみ
から松の一聯隊は
青ざめてはるかに消える
花樹はリシヤの火をかゝげ
うぐひすも冴えれば
七つ森ではつゝどりどもが
いまごろ寝ぼけた機関銃などうってゐる
     ……イーハトーヴォの死火山よ
       その水いろとかゞやく銀との襞をおさめよ……
そのからまつのこっちから書記がぽろっとあらはれて
緑青いろにひかって来る
まあご随意にごらんなさいといふけはひ
こっちでは羊の眼が蛍のやうに光るといって
さわいでゐるのは小田一二
こっちではこんどは鶯が
セセッション式啼いたので
歩兵少尉がしかつめらしく手をかざす
誰だ電話の線へ石を投げたのは!
羊舎かからは顔ぢゅう針のささったやうな
巨きな犬がうなって来るし
井戸では紺の滑車も軋り
蜜蜂ばかり相もかはらず
歓語の網を織りつゞける

------------------------------------------------------------
(下書稿2推敲前)
------------------------------------------------------------

三三三
                    一九二五、五、七、

挨拶をしに事務所へ行って
書記が出て来もしないのに
やはらかなチモシーの上や
調馬所の囲ひのなかを
生徒らがかけ歩いては
あるいはかんじやう問題だ
約十分間分れだなんて
あんまり早く少尉めやってしまったもんだ
ところがやつはけろんとそらを見てゐるし
生徒らだってみんな大きな蜜蜂だ
農場長の感情も
まづお天気と差し引きだらう
じつに何とよく晴れた春のそらだ
イーハトーヴォの死火山は
その水いろとかゞやく銀で
斧劈の皺を示してかすみ
から松の一聯隊は
青ざめてはるかに消える
花樹はリシヤの火をかゝげ
うぐひすも冴えれば
七つ森ではつゝどりどもが
いまごろ寝ぼけ機関銃などうってゐる
     ……イーハトーヴォの死火山よ
       その水いろとかゞやく銀との襞をおさめよ……
書記がぽろっと事務所を出て
緑青いろにひかって来る
まあご随意にごらんなさいといふとこだらう
羊舎を出て来た生徒らは
羊の眼が蛍みたい光ってゐたと愕いてるし
七つ森ではつゝどりどもが
いまごろ寝ぼけ機関銃などうってゐる
     ……イーハトーボの死火山よ
       その水いろと
       かゞやく銀との襞をおさめよ……
こんどは鶯が
セセッション式に啼いたので
歩兵少尉がしかつめらしく手をかざす
それとも書記を見てゐるのかな
そら大へんだ
誰かたうたう電話の線へ石を投げた
羊舎かからは顔ぢゅう針をさしたやうな
巨きな犬がうなって(二字不明)
一目散に生徒はにげるし
井戸では紺の滑車も軋り
蜜蜂ばかり相もかはらず
何かのうたをうなってゐる

------------------------------------------------------------
(下書稿1推敲後)
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三三三
                    一九二五、五、七、

書記が事務所へ挨拶をしに出かけた間
約十分間分れだなんて
中尉どもがやってしまったもんだから
もう生徒らは走りまはって仕方ない
やはらかなチモシイの上だの
競馬場の柵のなかだの
やかましいことだって蜜蜂といったいどっちだ
北北東の風が吹いて
ぶつぶつ硫黄の粒を噴く一本の古ぼけたレントゲンの木が
しづかにうららかなそらにゆれる
向ふはリシアの焔をあげる花樹の群
また青々と風に消えるから松の列
それから例の
大斧劈皺を示してかすむ死火山の雪
七つ森ではつゝどりどもが
いまごろ寝ぼけ機関銃などうってゐる
羊舎を出て来た生徒らは
羊のまなこが蛍みたいともってゐると云ってるし
書記はこっちへ戻りながら
緑青いろに光ってゐる
   ……イーハトーボの死火山よ
     その水いろとかゞやく銀の襞を納めよ……
こんどは鶯がセセッション式に啼いたので
歩兵中尉がしかつめらしく手をかざす
そら大へんだ
誰か電線に石を投げた
羊舎かからは
顔に沢山針をさしたやうな犬が出て来て
生徒らは一目散にちらばるし
井戸では紺の滑車も軋り
蜜蜂ばかり相もかはらず歓語の網を織りつゞける

------------------------------------------------------------
(下書稿1推敲前)
------------------------------------------------------------

三三三
                    一九二五、五、七、

風はやはらかなチモシイを吹くし
あんまりいゝとこへ来たもんだし
約十五分間分れとかなんとか
中尉どもがやってしまったもんだから
もう生徒らは手に負ふない
蜜蜂といったいどっちだ
そこに一本古ぼけたレントゲンの木が
枝にぶつぶつ硫黄の粒を噴いてゐる
幾層暗むその梢で
日はかゞやかに分劃する
向ふはリチウムの焔をあげる花樹の群
また青々と風に消えるから松の列
それから例の
大斧劈皺を示してかすむ死火山の雪だ
羊舎を出て来た生徒らが
羊のまなこが蛍みたい光ってゐたとおどろいてゐる
遠くに行ってた生徒らは
緑青いろに光ってゐる
七つ森ではつゝどりどもが
いまごろ寝ぼけ機関銃などうってゐる
こんどは鶯がセセッション式に啼いたので
歩兵中尉がしかつめらしく手をかざす
そら大へんだ
誰か電線に石を投げた
羊舎かからは
顔に沢山針をさしたやうな犬が出て来るし
井戸では紺の滑車も軋り
蜜蜂ばかり歓語の網を織りつゞける

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■「〔つめたい風はそらで吹き〕」
------------------------------------------------------------
(本文=下書稿推敲後)
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三三五
     〔つめたい風はそらで吹き〕
                    一九二五、五、一〇、

つめたい風はそらで吹き
黒黒そよぐ松の針


ここはくらかけ山の凄まじい谷の下で
雲ものぞけば
銀斜子の月も凍って
さはしぎどもがつめたい風を怒ってぶうぶう飛んでゐる
  しかもこの風の底の
  しづかな月夜のかれくさは
  みなニッケルのあまるがむで
  あちこち風致よくならぶものは
  ごくうつくしいりんごの木だ
  そんな木立のはるかなはてでは
  ガラスの鳥も軋ってゐる
さはしぎは北のでこぼこの地平線でもなき
わたくしは寒さにがたがたふるえる
  氷雨が降ってゐるのではない
  かしはがかれはを鳴らすのだ

------------------------------------------------------------
(下書稿推敲前)
------------------------------------------------------------

三三五
                    一九二五、五、一〇、

つめたい風はそらで吹き
月のかけらの銀斜子
黒黒そよぐ松の針
撓って鳴らす鳥の群
   (時間の軸を灰いろ錫の光とします
    見給へここに地質時代の各紀の爬虫が集まってゐる
    その各々がじぶんの祖先の血をたべたいとひいめいてゐる)
  なんといふことだ
  遁げやう遁げやう
 さはしぎは二羽
わたくしが眼をさまして見れば
ここはくらかけ山の凄まじい谷の下で
雲ものぞけば
銀斜子の月も凍って
さはしぎどもがつめたい風を怒ってぶうぶう飛んでゐる
  しかもこの風の底の
  しづかな月夜のかれくさは
  みなニッケルのあまるがむで
  あちこち風致よくならぶものは
  みなうつくしいりんごの木だ
  そんな木立のはるかなはてでは
  ガラスの鳥も軋ってゐる
さはしぎは北のでこぼこの地平線でもなき
わたくしは寒さにがたがたふるえる
  氷雨が降ってゐるのではない
  かしはがかれはを鳴らすのだ

------------------------------------------------------------
-〔文語詩稿未定稿(072)〕----------------------------------
------------------------------------------------------------
■「宗谷〔二〕」
------------------------------------------------------------
(本文=下書稿推敲後)
------------------------------------------------------------

     宗谷〔二〕

そらの微光にそゝがれて
いま明け渡る甲板は
綱具やしろきライフヴイ
あやしく黄ばむ排気筒

はだれに暗く緑する
宗谷岬のたゞずみと
北はま蒼にうち睡る
サガレン島の東尾や

黒き葡萄の色なして
雲いとひくく垂れたるに
鉛の水のはてははや
朱金一すじかゞやきぬ

髪を正しくくしけづり
セルの袴のひだ垂れて
古き国士のおもかげに
日の出を待てる紳士あり

船はまくろき砒素鏡を
その来しかたにつくるとき
漂ふ黒き材木と
水うちくぐるかいつぶり

俄かに朱金うち流れ
朝日潰えて出で立てば
紳士すなはち身を正し
高く柏手うちにけり

時にあやしやその古金
雲に圧さるゝかたちして
次第に潰ひ平らめば
紳士怪げんのおもひあり

その虚の像のま下より
古めけるもの燃ゆるもの
湧きたゝすもの融くるもの
まことの日こそのぼりけり

舷側は燃えヴイも燃え
綱具を燃やし筒をもし
紳士の面を彩りて
波には黄金の柱しぬ

------------------------------------------------------------
(下書稿推敲前)
------------------------------------------------------------

     宗谷

明の微光にそゝがれて
いま明け渡る甲板は
綱具やしろきライフヴイ
あやしく黄ばむ排気筒

はだれに暗く緑する
宗谷岬のたゞずみと
北はま蒼にうち睡る
サガレン鮭の東の尾

黒き葡萄の色なして
雲たゞひくく垂れたるに
鉛の水のはてははや
朱金一すじかゞやきぬ

髪を正しくくしけづり
セルの袴のひだ垂れて
古き国士のおもかげに
日の出を待てる紳士あり

船はまくろき砒素鏡を
その来しかたにつくるとき
漂ふ黒き材木と
水うちくぐるかいつぶり

俄かに朱金うち流れ
朝日潰えて出で立てば
紳士すなはち身を正し
高く柏手うちにけり

時にあやしやその古金
雲に圧さるゝかたちして
次第に潰ひ平らめば
紳士怪げんのおもなせり

その虚の像のま下より
古めけるもの燃ゆるもの
湧きたゝすもの融くるもの
まことの日こそのぼりけり

舷側は燃えヴイも燃え
綱具を燃やし筒をもし
紳士の面を彩りて
波には黄金の柱しぬ

--〔後記〕--------------------------------------------------

 上の孫がこの春から年長組に上がり、妹君も二歳児クラスに入る
ことが決まりました。子ども園も都会とは違って、わりと余裕があ
るようです。

 上の五歳児は、元教員の祖母(私の妻)と遊ぶのが好きらしく、
いろいろとゲームや勉強をしに来ます。私の方にはあまり期待して
いないので、手がかからなくていいのですが。

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