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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第990号--2018.02.10------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「春と修羅第二集(43)」「宗谷〔一〕」

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-〔話題〕---------------------------------------------------
「朝餐」「春」「〔地蔵堂の五本の巨杉が〕」
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 今回はそれぞれ1925年4月5、12、18日の日付をもつ三篇で
す。

 「朝餐」では村でせんべいを食べています。花巻のことですから、
いわゆる「南部せんべい」で、私は初めて見たときはちょっと驚い
たものです。何しろ餅から作る煎餅しか知りませんでしたので。

 南部せんべいは小麦粉で出来ていて、いろんな具のようなものが
入っていたりするやつです。

 「春」は短い詩で、下書稿も他になかったので、今回は三篇めに
「〔地蔵堂の五本の巨杉が〕」を掲載しました。

 この地蔵堂は花巻市上根子にあり、「花巻市街から県道12号線を
鉛温泉方向へ向かう。東北自動車道の下をくぐる前に進行方向右手
に現れる」ということですから、当時の花巻農学校からほど近いと
ころです。

風にひなびた天台寺は
かしこくむら気な桜場寛の生れた家だ

 はあるように、賢治の教え子の家でもあったようです。

 何だか宗教的に感じるところがあったようでもあり、賢治の西域
趣味も窺えるような作品です。

 もうこの頃には、花巻農学校での最後の一年に入っていたわけで
す。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

789 五庚申塔を探して(地蔵堂その1)
http://blog.goo.ne.jp/suzukishuhoku/e/d4412fac4ef4b8789e22e3bf07cb6e4e

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 五庚申塔を捜し回っているがなかなか見つからない。

 聞くところによるとそこの境内には膨大な数の石碑があると云う
ことでもあり、今回は地蔵堂を訪ねてみた。

 花巻市街から県道12号線を鉛温泉方向へ向かう。東北自動車道の
下をくぐる前に進行方向右手に現れるのがこの 《1 地蔵堂》であ
る。

 この写真の右手に見える石標の《3 プレート》には次のように書
かれてある。

     地蔵堂

「地蔵堂の五本の巨杉が まばゆい春の空気の海に・・・」で始ま
る詩が「春と修羅 第二集」にあるが、その地蔵堂である。

 詩の中に出てくる「寛」(桜羽場)、及びその叔父鈴木卓内(苗)の
生家。賢治は度々ここを訪れていた。

 境内には50に近い石碑があり、中でも「桜崋山延命寺地蔵尊碑」
は正保2年(1645)の建立で、その名の示す通り古くから桜の名所で
もある。

 今も大きな「子持杉」が2本あり、「延命子安地蔵尊」は子孫繁
栄と安産を念ずる日々とがよく訪れる。

 しかし、《4 かつての地蔵堂》<『賢治のイーハトーブ花巻』(宮
沢賢治学会・花巻市民の会)より>はこのように杉木立の中にあった
のだと云うが、残念ながら木立は殆ど無くなってしまっている。ま
して、桜の大木も見あたらない。

 この写真の左端に見えるのが生き残った最後の「子持杉」だと思
う。

 そもそも、ここのご神木でもある「子持杉」は、杉の幹が途中か
ら二股に分かれているので親が子供を抱き抱えているように見えた
ので付いた名前だという。

 ところが、二本あった「子持杉」の中の一本が朽ち始め、とうと
う7年前に子杉の部分が折れ、あげく近くにあった地蔵堂を破損さ
せてしまった。さらに、その巨杉は倒壊の危険性もあったために昨
年春、根元から伐採されてしまったのだと云うことを岩手日日新聞
(2008,11,25付け)が伝えている。同紙はさらに次のようにも報じて
いる。

 切り株の姿で後世へ 賢治ゆかりの「神木」

 花巻市古館の中根子子安地蔵尊で、神木を伐採した切り株の保護
堂宇が完成し二十四日、落慶法要が営まれた。高さ二十五メートル、
幹回り六メートルを超える巨木のスギで、宮沢賢治の詩に登場した
神木を伐採後も生かし、「胎内くぐり」に仕立てて安置。法要には
地域住民ら五十人余りが参列し、神木が若返りの縁起物として後世
に伝わることを願った。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------


-〔春と修羅第二集(043)〕----------------------------------

「朝餐」「春」「〔地蔵堂の五本の巨杉が〕」

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■「朝餐」
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(本文=下書稿2推敲後)
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五一五
     朝餐
                     一九二五、四、五、

苔に座ってたべてると
麦粉と塩でこしらえた
このまっ白な鋳物の盤の
何と立派でおいしいことよ
裏にはみんな曲った松を浮き出して、
表は点の括り字で「大」といふ字を鋳出してある
この大の字はこのせんべいが大きいといふ広告なのか
あの人の名を大蔵とでも云ふのだらうか
さうでなければどこかで買った古型だらう
たしかびっこをひいてゐた
発破で足をけがしたために
生れた村の入口で
せんべいなどを焼いてくらすといふこともある
白銅一つごくていねいに受けとって
がさがさこれを数へてゐたら
赤髪のこどもがそばから一枚くれといふ
人は腹ではくつくつわらひ
顔はしかめてやぶけたやつを見附けてやった
林は西のつめたい風の朝
頭の上にも曲った松がにょきにょき立って
白い小麦のこのパンケーキのおいしさよ
競馬の馬がほうれん草を食ふやうに
アメリカ人がアスパラガスを喰ふやうに
すきとほった風といっしょにむさぼりたべる
こんなのをこそspeisenとし云ふべきだ
   ……雲はまばゆく奔騰し
     野原の遠くで雷が鳴る……
林のバルサムの匂を呑み
あたらしいあさひの蜜にすかして
わたくしはこの終りの白い大の字を食ふ

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(下書稿2推敲前)
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五一五
     朝餐
                     一九二五、四、五、

麦粉と塩でこしらえた
このまっ白な鋳物の盤の
何と立派でおいしいことよ
裏にはみんな曲った松を浮き出してある
大といふのはどういふわけだ
あの人の名を大蔵とでも云ふのだらうか
たしかびっこをひいてゐた
あんな部落の入口で
こいつを焼いてくらすのだらう
白銅一つごくていねいに受けとって
がさがさこれを数へてゐたら
赤髪のこどもがそばから一枚くれといふ
人は腹ではくつくつわらひ
顔はしかめてやぶけたやつを見附けてやった
林は西のつめたい風の朝
白い小麦のこのパンケーキのおいしさよ
競馬の馬がほうれん草を食ふやうに
アメリカ人がアスパラガスを喰ふやうに
すきとほった風といっしょにむさぼりたべる
こんなのをこそspeisenとし云ふべきだ
   ……雲はまばゆく奔騰し
     野原の遠くで雷が鳴る……
林のバルサムの匂を呑み
あたらしいあさひの蜜を塗って
わたくしはこの終りの白い大の字を食ふ

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(下書稿1推敲後)
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五一五
     人が林で小麦の盤をたべてゐる
                     一九二五、四、五、

小麦粉とわづかの食塩からつくられた
白い鋳物のこの円盤のうまいことよ
どれにもみんな大といふ字が浮いてゐる
大といふのはどういふわけだ
あの百姓が大蔵とでも云ふのだらうか
発破か何かで足をけがして
こんな仕事をしてゐるらしい
びっこをひいて白銅一つごく叮ねいに受けとって
がさがさこれを数へてゐたら
赤髪のこどもがそばから一枚くれといふ
あの百姓は顔はしかめて
やぶけたやつを見つけてやって
腹ではくつくつわらってゐた
林は西のつめたい風の朝
小麦のこのパンケーキのおいしさよ
わたくしは馬がほうれんさうを喰ふやうに
アメリカ人がアスパラガスを喰ふやうに
すきとほった空気といっしょにむさぼりたべる
こんなのをこそspeisenとし云ふべきだ
   ……雲はまばゆく奔騰し
     野原の遠くで雷が鳴る……
林のバルサムの匂を呑み
あたらしいあさひの蜜を塗って
わたくしはこの終りの白い一枚を食ふ

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(下書稿1推敲前)
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五一五
                     一九二五、四、五、

小麦粉とわづかの食塩からつくられた
イーハトヴ県のこの白く素樸なパンケーキのうまいことよ
はたけのひまな日あの百姓がじぶんでいちいち焼いたのだ
  顔をしかめて炉ばたでこれを焼いてると
  赤髪〔け〕のこどもがそばからいちまいくれといふ
  あの百姓は顔はしかめてやぶけたやつを出してやる
  そして腹ではわらってゐる
林は西のつめたい風の朝
味ない小麦のこのパンケーキのおいしさよ
わたくしは馬が草を喰ふやうに
アメリカ人がアスパラガスを喰ふやうに
すきとほった空気といっしょにむさぼりたべる
こんなのをこそspeisenとし云ふべきだ
   ……雲はまばゆく奔騰し
     野原の遠くで雷が鳴る……
林のバルサムの匂を加へ
あたらしい晨光の蜜を塗って
わたくしはまたこの白い小麦の菓子をたべる

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(「虚無思想研究」発表形 1926年2月1日)
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     心象スケッチ朝餐
                         宮澤賢治

 小麦粉とわづかの食塩とからつくられた
イーハトヴ県のこの白く素朴なパンケーキのうまいことよ
はたけのひまな日あの百姓がじぶんでいちいち焼いたのだ
  顔をしかめて炉ばたでこれを焼いてると
  赤髪のこどもがそばからいちまいくれといふ
  あの百姓は顔をしかめてやぶけたやつを出してやる
  そして腹では笑つてゐる
林は西のつめたい風の朝
味ない小麦のこのパンケーキのおいしさよ
わたくしは馬が草を食ふやうに
アメリカ人がアスパラガスを喰ふやうに
すきとほつた空気といつしよにむさぼりたべる
こんなのをこそSpeisenとし云ふべきだ
  ……雲はまばゆく奔騰し
    野原の遠くで雷が鳴る……
林のバルサムの匂ひを加へ
あたらしい晨光の蜜を塗つて
わたくしはまたこの白い小麦の菓子をたべる。

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■「春」
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(本文=下書稿推敲後)
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五一九
     春
                    一九二五、四、一二、

烈しいかげらふの波のなかを、
紺の麻着た肩はゞひろいわかものが
何かゆっくりはぎしりをして行きすぎる、
どこかの愉快な通商国へ
挨拶をして出掛けるとでもいふ風だ
   ……あをあを燃える山の雪……
かれくさもゆれ笹もゆれ
こんがらがった遠くの桑のはたけでは
煙の青いlentoもながれ
崖の上ではこどもの凧の尾もひかる
   ……ひばりの声の遠いのは
     そいつがみんな
     かげらふの行く高いところで啼くためだ……
ぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっはぎしりをして
ひとは林へはいって行く

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(下書稿推敲前)
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五一九
     春
                    一九二五、四、一二、

烈しいかげらふの波のなかを、
紺装束の肩はゞひろいわかものが
春らしくはぎしりをしてあるいてくる
   ……あをあを燃える山の雪……
かれくさもゆれ笹もゆれ
こんがらがった遠くの桑のはたけでは
煙の青いlentoもながれ
崖の上ではこどもの凧の尾もひかる

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■「〔地蔵堂の五本の巨杉が〕」
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(本文=定稿)
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五二〇
     〔地蔵堂の五本の巨杉すぎが〕
                     一九二五、四、一八、

地蔵堂の五本のが
まばゆい春の空気の海に
もくもくもくもく盛りあがるのは
古い性の青唐獅子の一族が
ここで誰かの呪文を食って
仏法守護を命ぜられたといふかたち
   ……地獄のまっ黒けの花椰菜め!
     そらをひっかく鉄の箒め!……
地蔵堂のこっちに続き
さくらもしだれの柳もめぐ
風にひなびた天台でら
悧発で純な三年生の寛の家
寛がいまより小さなとき
鉛いろした障子だの
鐘のかたちの飾り窓
そこらあたりで遊んでゐて
あの青ぐろい巨きなものを
はっきり樹だとおもったらうか
   ……樹は中ぞらの巻雲を
     二本ならんで航行する……
またその寛の名高い叔父
いま教授だか校長だかの
国士卓内先生も
この木を木だとおもったらうか
  洋服を着ても和服を着ても
  それが法衣ころもに見えるといふ
  鈴木卓内先生は
  この木を木だとおもったらうか
   ……樹は天頂の巻雲を
     悠々として通行する……
いまやまさしく地蔵堂の正面なので
二本の幹の間には
きうくつさうな九級ばかりの石段と
褪せた鳥居がきちんと嵌まり
樹にはいっぱいの雀の声
   ……青唐獅子のばけものどもは
     緑いろした気海の島と身を観じ
     そのたくさんの港湾を
     雀の発動機船に貸して
     ひたすら出離をねがふとすれば
     お地蔵さまはお堂のなかで
     半眼ふかく座ってゐる……
お堂の前の広場では
梢の影がつめたく落ちて
あちこちなまめく日射しの奥に
粘板岩の石碑もくらく
鷺もすだけば
こどものボールもひかってとぶ

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲後)
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五二〇
     巨杉
                     一九二五、四、一八、

地蔵堂の五本の巨杉すぎ
まばゆい春の空気の海に
もくもくもくもく盛りあがるのは
古い性の青唐獅子の一族が
ここで誰かの呪文を食って
仏法守護を命ぜられたといふかたち
地蔵堂のこっちに続き
さくらもしだれの柳もめぐ
風にひなびた天台でら
悧発で純な三年生の寛の家
寛がいまより小さなときに、
そこらあたりであそんでゐて
あの青ぐろい巨きなものを
はっきり樹だとおもったらうか
   ……樹は中ぞらの巻雲を
     二本ならんで航行する……
またその寛の名高い叔父
いま教授だか校長だかの
国士卓内先生も
この木を木だとおもったらうか
  洋服を着ても和服を着ても
  それが法衣に見えるといふ
  鈴木卓内先生は
  この樹を樹だとおもったらうか
   ……樹は天頂の巻雲を
     悠々として通行する……
いまやまさしく地蔵堂の正面なので
九級ばかりの石段と
炭酸水に色あせた
赤い鳥居がきちんとはまり
樹にはいっぱい雀の声
   ……青唐獅子おばけものは
     翠いろした気海の島と身を観じ
     そのたくさんの港湾を
     雀の発動機船に借して
     出離をねがふといふ……
お堂の前の広場には
梢の影がつめたく落ちて
あちこちなまめく日射しの奥に
粘板岩の石碑もくらく
鷺もすだけば
こどものボールもひかってとぶ

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲前)
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五二〇
     巨杉
                     一九二五、四、一八、

地蔵堂の五本の巨杉すぎ
青くまばゆい空気の海に
もくもくもく盛りあがるのは
通力を得て遁げだした
青唐獅子の一族が
ここで誰かの呪文を食って膨ろばり
仏法守護を命ぜられたといふかたち
地蔵堂のこっちに続き
さくらもしだれの柳もまはる
蕾蓮華のかたちの窓や
鉛いろした障子をつけて
風にひなびた天台でら
かしこくむら気な桜場寛の育った家だ
ちいさなときに寛がそこらであそんでゐて
あの樹を樹だとおもったらうか
   ……樹は天頂の巻雲を
     悠々として航行する……
またその寛の叔父かにあたり
いま教授だか校長だかの
国士卓内先生も
この木を木だとおもったらうか
  洋服を着ても和服を着ても
  それが法衣に見えるといふ
  鈴木卓内先生は
  この樹を樹だとおもったらうか
   ……樹は天頂の巻雲を
     悠々として通行する……
いまやまさしく地蔵堂の正面なので
樹には雀の声がいっぱい
茶いろに粗い二本の幹の間に
九級ばかりの石段と
炭酸水に色あせた
赤い鳥居が填められて
(五字不明)たくさんの柔かな洞穴をもち
水もごうごう流れてゐる
   ……樹には雀がいっぱいに巣をくってゐて
     はねをぶるぶる鳴らしたり
     せいいっぱいにさえづるので
粘板岩の石碑もくらく
鷺もすだけば
こどものボールもひかってとぶ

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(下書稿2推敲後)
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五二〇
     巨杉
                     一九二五、四、一八、

ヂン蔵堂の巨きな杉が
青くまばゆい空気の海に
もくもくもくもく盛りあがるのは
木といふよりは
通力を得て遁げだして
呪文を食って樹に変へられた
青唐獅子の一族が
こゝでぴしゃりと呪文を食って
仏法守護を、
命ぜられたといふかたち
地蔵堂のこっちに続き
さくらもしだれの柳もまはり
蕾蓮華のかたちの窓や
二列の段と鉛いろした障子をつけて
風にひなびた天台寺は
かしこくむら気な桜場寛の生れた家だ
小さなときに寛がこゝらで遊んでゐて
この木を木だと思ったらうか
   ……樹は天頂の巻雲を
     悠々として航行する……
またその寛の叔父かにあたり
いま教授だか校長だかの
洋服を着ても和服を着ても
それがころもに見えるといふ
国士卓苗先生も
小さなときにやっぱりこゝらで遊んでゐて
この木を木だと思ったらうか
   ……木は中天の巻雲を
     二本ならんで航行する……
いまやまさしく地蔵ヂンゾー堂の正面なので
樹はまっすぐに天を指し
二本の幹の間には
九級ばかりの石だんや
炭酸水に色あせた
赤い鳥居が填められる
その堂前の広場には
梢の影がいっぱい落ちて
あちこちなまめく日ざしの影に
粘板岩の石碑がくらく
鷺もすだけば
こどものボールもひかってとぶ

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(下書稿2推敲前)
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五二〇
     巨杉
                     一九二五、四、一八、

ヂン蔵堂の巨きな杉が
青くまばゆい天椀に
もくもくもくもく盛りあがるのは
けさは何かの呪文を喰った
空気の海の海坊主とも云はれさう
横手は古い法眼の家で
さくらもしだれの柳もまはり
蕾蓮華のかたちの窓や
風にひなびた天台寺
かしこくむら気な桜場寛の生れた家だ
   ……地獄のまっ黒けの花椰菜め!
     そらをひっかく鉄の箒め!
     木に変へられた青唐獅子のばけものめ!……
小さなときに寛がこゝらで遊んでゐて
この木を木だと思ったらうか
   ……樹は天頂の巻雲を
     悠々として航行する……

いまやまさしく地蔵ヂンゾー堂の正面なので
樹はまっすぐに天をつき
二本の幹の間には
九級ばかりの石だんや
赤い鳥居が炭酸水に色あせて
日ざしの草もなまめけば
上の小さな広場では
粘板岩の石碑がくらく
鳥もすだけば
こどものボールもひかってとぶ

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(下書稿1推敲前)
------------------------------------------------------------

五二〇
     巨杉
                     一九二五、四、一八、

そいつは四っつ
いつもの空気の海坊主
横手は古い法眼の家で
さくらもしだれの柳もまはり
蕾蓮華のかたちの窓や
風にひなびた天台寺
かしこくむら気な桜場寛の生れた家だ
   ……地獄のまっ黒けの花椰菜め!
     そらをひっかく鉄の箒め!
     木に変へられた青唐獅子のばけものめ!……
小さなときに寛がこゝらで遊んでゐて
この木を木だと思ったらうか
   ……樹は天頂の巻雲を
     悠々として航行する……

いまやまさしく地蔵ヂンゾー堂の正面なので
樹はまっすぐに天をつき
二本の幹の間には
九級ばかりの石だんや
赤い鳥居が炭酸水に色あせて
日ざしの草もなまめけば
上の小さな広場では
粘板岩の石碑がくらく
鳥もすだけば
こどものボールもひかってとぶ

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-〔文語詩稿未定稿(070)〕----------------------------------
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■「宗谷〔一〕」
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(本文=下書稿2推敲後)
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     宗谷〔一〕

まくろなる流れの岸に
根株燃すゆふべのけむり
こらつどひかたみに舞ひて
たんぽゝの白き毛をふく

丘の上のスリッパ小屋に
媼ゐてむすめらに云ふ
かくてしも畑みな成りて
あらたなる艱苦ひらくと

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(下書稿2推敲前)
------------------------------------------------------------

     北見

まくろなるそらのましたに
水いろの亜麻刈るなべに
立ち枯れのいたやの根もと
ほろ蚊帳にあかごはねむる

丘の上のスリッパ小屋に
媼ゐてむすめらに云ふ
恋はしもはじめくるしく
やがてしも苦きものぞと

にれやなぎおぐらき谷を
まくろなる流れは出でて
こらつどひかたみに舞ひて
たんぽゝの白き毛をふく

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(下書稿1推敲後)
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立ち枯れしのいたやのしたに
あをじろき亜麻刈るひとや
ましろなるそらのましたや
ほろ蚊帳にあかごはねむる

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(下書稿1推敲前)
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立ち枯れしのいたやのしたに
あをじろき亜麻刈るひとや
ましろなるそらを仰ぎて
ほろ蚊帳にあかごはねむる

--〔後記〕--------------------------------------------------

 花巻の「地蔵堂」はいつも前を通りましたが、ちゃんと参拝した
ことがなくて、残念なことをしました。しばらく花巻には行けなさ
そうですから。

 今回で990号、千号まであと10回です。

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