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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第970号--2017.09.23------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「春と修羅第二集(23)」「機会」

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-〔話題〕---------------------------------------------------
「〔北いっぱいの星ぞらに〕」「早池峰山巓」
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 今回は1924年7月17日の日付を持つ2篇です。この日は日曜日で
したので、たぶん前日から、早池峰山に登ったようです。

 昔、宮沢賢治学会が創立間もないころ、行事のときに皆で早池峰
山に登ったことがあるそうです。

 私はその時は参加していませんが、後にクルマで河原坊の登山口
まで行きました。

 そこからは早池峰山頂がすぐそこに見えていましたが、登るのは
遠慮しておきました。

 賢治はたぶん夜のうちに河原坊まで行き、明るくなるころに山頂
を目指したのでしょう。

 さて、今回掲載の「〔北いっぱいの星ぞらに〕」は、下書稿が6
種類もあり、しかも推敲の書き込みが輻輳していて、どうもよくわ
かりません。

 そこで、いつもは下書稿ごとに「推敲前」「推敲後」と掲載して
いますが、推敲後の方は基本的に省略しました。下書稿3のみ、推
敲後のテキストが別掲されていたので、ここでも紹介しています。

 また、下書稿2は断片のようなものなので、全部省略です。

 下書稿1になると、「谷の昧爽に関する童話風の構想」という立
派な題がついています。

 これは翌年の作品である「山の晨明に関する童話風の構想」と似
ていて、こういう構想を一年間温めていたのでしょう。

 今の河原坊にはこの詩の詩碑が立っているのは有名な話です。

 「早池峰山巓」の方も下書稿1の推敲後は、どうもテキストの順
序を入れ換えているらしいのですが、よくわからないので省略しま
した。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

早池峰山 はやちねさん
http://www.yamakei-online.com/yamanavi/yama.php?yama_id=146

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 北上山地の主峰、早池峰山は、『遠野物語』で柳田國男が「恰か
も、かたかなのへの字に似たり」と表現したが、彼の足跡から推察
しても、おそらく薬師岳の西稜と早池峰山の西稜とがオーバーラッ
プしていることによるものと思われる。また詩人の宮沢賢治も好ん
で登り、作品に登場させている。それよりも、ロシア人、マキシモ
ビッチ、須川長之助などの植物や高山蝶などの生物学方面で紹介さ
れ、古くから魅力的な山であった。

 さらに古来から、拝峠という地名もあるように、女人禁制の山岳
修験の山で、常民にとっては水分(みまくり)神の山で、旱(ひで
り)のない豊饒の山でもあった。

(略)

 コースは大迫(おおはさま)側が一般的で、河原坊から3時間、
小田越から2時間で山頂に立てる。さらに山頂から鶏頭山経由七折
滝コースは5時間で下れる。また平津戸駅から高桧山へ4時間、さら
に早池峰山山頂へ7時間のコースもある。

 大迫側登山口には河原坊にキャンプ場があり、岳集落の民宿もよ
い。岳集落には早池峰神社がある。早池峰山山頂に奥宮を祭り、祭
神は姫大神とされていたが、いつのころからか瀬織津姫神を主神と
するようになった。早池峰神社の例祭には、重要無形文化財の早池
峰神楽が奉納される。

 一等三角点の山頂からは、岩手山を盟主として連なる奥羽山脈の
山々、東方には三陸の海、そして北上山地の山並みなど360度の展
望が楽しめる。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

-〔春と修羅第二集(023)〕----------------------------------

「〔北いっぱいの星ぞらに〕」「早池峰山巓」

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■「〔北いっぱいの星ぞらに〕」
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(本文=下書稿6推敲後)
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一七九
     〔北いっぱいの星ぞらに〕
                    一九二四、八、一七、

北いっぱいの星ぞらに
ぎざぎざの黒い嶺線が
手にとるやうに浮いてゐて
幾すじ白いパラフヰンを
つぎからつぎと噴いてゐる
  そこにもくもく月光を吸ふ
  蒼くくすんだ海綿体カステーラ
萱野十里もおはりになって
月はあかるく右手の谷に南中し
みちは一すじしらしらとして
椈の林にはいらうとする
  ……あちこち白い檜の木立と
    降るやうな虫のジロフォン……
橙いろと緑との
花粉ぐらゐの小さな星が
互にさゝやきかはすがやうに
黒い露岩の向ふに沈み
山はつぎつぎそのでこぼこの嶺線から
パラフヰンの紐をとばしたり
突然銀の挨拶を
上流かみの仲間に抛げかけたり
  Astilbe argentium
  Astilbe platinicum
いちいちの草穂の影さへ落ちる
この清澄な昧爽ちかく
あゝ東方の普賢菩薩よ
微かに神威を垂れ給ひ
曾つて説かれし華厳のなか
仏界形円きもの
形花台の如きもの
覚者の意志に住するもの
衆生の業にしたがふもの
この星ぞらに指し給へ
  ……点々白い伐株と
    まがりくねった二本のかつら……
ひとすじ蜘蛛の糸ながれ
ひらめく萱や
月はいたやの梢にくだけ
木影の窪んで鉛の網を
わくらばのやうに飛ぶ蛾もある

------------------------------------------------------------
(下書稿6推敲前)
------------------------------------------------------------

一七九
                    一九二四、八、一七、

草穂の影も黒く落ち
おほばこのスペイドも並んで映る
この清澄な月の昧爽ちかく
楢の木立の白いゴシック廻廊や
降るやうな虫のジロフォン

北いっぱいの星ぞらに
ぎざぎざの黒い嶺線が
手にとるやうに浮いてゐて
幾すじ白いパラフヰンを
つぎからつぎと噴いてゐる
  そこにもくもく月光を吸ふ
  蒼くくすんだ海綿体カステーラ
四方の天もいちめんの星
東銀河の聯邦の
ダイアモンドのトラストが
かくして置いた宝石を
みんないちどにあの鋼青の銀河の水に
ぶちまけたとでもいったふう
  点々白い伐株と
  きららかに降る蜘蛛の糸
橙いろと緑との
花粉ぐらゐの小さな星や
ぼんやり白い星けむり
  それもろもろの仏界に
  無量無辺のかたちあり
  あるひと円きあるは扁
  あるは花台のかたちなり
  世界のしかく住するや
  あるは覚者の意志により
  あるは衆生の業により
  また因縁にしたがへり
一つの星が
黒い露岩の向ふに沈み
山はつぎつぎそのでこぼこの嶺線から
パラフヰンの紐をとばしたり
突然銀の挨拶を
上流かみの仲間に抛げかけたり
  Astilbe argentium
  Astilbe platinicum
椈の脚から火星がのぞき
ひらめく萱や
月はいたやの梢にくだけ
木影の網を
わくらばのやうに飛ぶ蛾もある

------------------------------------------------------------
(下書稿5推敲後)=(略)
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------------------------------------------------------------
(下書稿5推敲前)
------------------------------------------------------------

一七九
                    一九二四、八、一七、

いちいちの草穂の影も落ち
おほばこのスペイドも並んで映る
この清澄な月の昧爽ちかく
楢の木立の白いゴシック廻廊や
降るやうな虫のジロフォン
みちはひとすじしらしらとして
四つの峯のふもとを繞る
椈の林にはいらうとする
  ……あゝいつまでも黒く寂しい
    香食類の探索者……
北いっぱいの星ぞらに
ぎざぎざ黒い嶺線が
手にとるやうに泛いてゐる
幾すじ白いパラフヰンを
つぎからつぎと噴いてゐる
  ……そこにもくもく月光を吸ふ
    蒼くくすんだカステーラ……
その青じろい果肉のへりで
花粉ぐらゐの二つの星が
ほのぼのとして婚約する
ダイアモンドのトラストが
獲れないふりのストックを
みんないちどにぶちまけたり

十九世紀の終りごろ
坊主らのいふ天だの神が
いったいどこにあるかと云って
望遠鏡をぐるぐるさせる
さういふ風の明るいそらだ
また紺ちではどれかの星の上あたり
天を見附てやらうといって
やっぱり眼鏡をぐるぐるまはす
さういふ風のあかるい晩だ
  ……あゝえん然とわらって充ちる
    梵の天の住民の恋……
黒い鶏頭山の冠を
巨きな青い一つの星が
わづかに触れて祝福すれば
そこから暗い雲影が
なゝめに西に亘ってゐる
  ……雲のほかない残像は
    しらしらとしてそらにながれる……
にわかに藪を踊りたつ
一ぴきの黒いかうもり
またきららかな蜘蛛の糸
  ……点々白い伐株と
    まがりくねった二本のかつら
    草にもおどるかうもりの影……
いちいちの草穂の影さへ落ちる
この清澄な月の昧爽ちかく
楢の木立の白いゴシック廻廊や
降るやうな虫のすだきを
みちはひとすじほそぼそとして
巨きな黒の椈林
樹々のねむりを通って行く
  ……アスティルベ アルゲンチウム
    アスティルベ プラチニクム……
椈の脚から火星がのぞき
ひらめく萱や
月はいたやの梢にくだけ
木影の網を
わくらばのやうに飛ぶ蛾もある

------------------------------------------------------------
(下書稿4推敲後)=(略)
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------------------------------------------------------------
(下書稿4推敲前)
------------------------------------------------------------

いちれつ並ぶおほばこが
そのうつくしいスペイドから
すこしまがった葉柄まで
くっきり黒い影をおとし
月は右手の木立の上に
夜中をすぎて熟してゐる
萱野十里も終りになって
何かなまめく椈の木や
降るやうな虫のジロフォン
路はひとすじしらしらとして
椈の林にはいらうとする
   (黒く寂しい香食類の探索者)
そこにもくもく月光を吸ふ
蒼くくすんだカステラは
たぶんはみんなはいまつだらう
しかも今夜の何といふ明るさだらう
北いっぱいの星ぞらに
ぎざぎざ黒い嶺線が
手にとるやうにうかんでゐる

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲後)
------------------------------------------------------------

一七九
                    一九二四、八、一七、

いちれつ並ぶおほばこが
そのうつくしいスペイドから
すこしまがった葉柄まで
くっきり黒い影をおとし
月は右手の尾根の上に
夜中をすぎて熟してゐる
萱野十里も終りになって
何かなまめく楢の木や
降るやうな虫のすだきを
路はひとすじしらしらとして
椈の林にはいらうとする
   (黒く寂しい香食類の探索者)
北のひっそりとした谷の
そこにもくもく月光を吸ふ
蒼くくすんだかすてらは
たぶんはみんなはい松だらう
それはだんだんのぼって行って
ぎざぎざ黒い露岩に変り
いまぽっかりとひとつの銀の挨拶を吐く
それがたしかに中岳で
そこから西と東に亘り
北いっぱいの星ぞらに
ぎざぎざ浮ぶ嶺線は
いくすじ白いパラフヰンを
しづかに北へ発してゐる
鋼のそらの水底に
はなたれて行く海蛇の群
こっちはいつか中岳が
次のけむりを吐いてゐて
その青じろい果肉のへりで
黄水晶とエメラルドとの
花粉ぐらゐの二つの星が
童話のやうに婚約する
じつに今夜の何といふそらの明るさだらう
そらが精緻な宝石箱の集成だ
金剛石の大トラストが
穫れないふりしてしまって置いた幾億を
みんないちどにぶちまけたとでもいふ風だ
頭のまはりを円くそり
鼠いろした粗布を着た
坊主らのいふ神だの天が
いったいどこにあるかと云って
うかつに皮肉な天文学者が
望遠鏡をぐるぐるさせるその天だ
するとこんどは信仰のある科学者が
どこかの星の上あたりに
そういふ天を見附やうとして
やっぱり眼鏡をぐるぐるまはす
さういふ風なあかるい空だ
しかも三十三天は
やっぱりそこにたしかにあって
木もあれば風も吹いてゐる
天人たちの恋は
相見てえん然としてわらってやみ
食も多くは精緻であって
香気となって毛孔から発する
間違ひもなく
天使もあれば神もある
たゞその神が
あるとき最高唯一と見え
あるとき一つの段階とわかる
さういふことかもわからない
それら三十三天は
所感の外ではあるけれども
やっぱりそこに連亘し
恐らく人の世界のこんな静な晩は
修羅も襲って来ないのだらう
巨きな青い 一つの星が
いちばん西の鶏頭山の
ごつごつ黒い冠を
触れるともなく祝福すれば
そこから暗い雲影が
なゝめに西に亘ってゐる
     ……雲のはかない残像が
       鉄いろのそらにながれる……
にわかに藪を踊りたつ
一ぴきの黒いかうもり
またきららかな蜘蛛の糸
     ……点々白い伐株と
       まがりくねった二本のかつら
       草にもおどるかうもりの影……
いちいちの草穂の影さへ落ちる
この清澄な月の昧爽ちかく
楢の木立の白いゴシック廻廊や
降るやうな虫の聖歌を
みちはひとすじほそぼそとして
巨きな黒の椈林
樹々のねむりを通って行く
     ……アスティルベアルゲンチウム
       アスティルベプラチニクム……
椈の脚から火星がのぞき
ひらめく萱や
月はいたやの梢にくだけ
木影の網をわくらばのやうに飛ぶ蛾もある

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲前)
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一七九
                    一九二四、八、一七、

草穂の影が
みんなくっきり路に落ち
月は右手の木立の上で
夜中をすぎて熟してゐる
社務所の方も蒼くひっそり
萱野十里も終りになって
まばらな楢の尖塔や
降るやうな虫のすだきを
路はひとすじしらしらとして
原始の暗い椈林
つめたい霧にはいらうとする
しかも今夜の
なんといふ明るさだらう
北いっぱいの星ぞらに
ぎざぎざ亘る嶺線が
手にとるやうに見えてくる
そこでもくもく月光を吸ふ
蒼くくすんだカステラは
だんだん高くのぼって行って
たうたう黒い露岩に変り
いまぽっかりと
ひとつの銀の挨拶を吐く
さうだそいつが中岳なのだ
もうあをあをと寂まってゐる
また氷鋼のぞらのはて
早池峰の上あたりから
いくすじ白いパラフヰンは
しづかに北へ飛んでゐる
ところがいつか中岳が
次のけむりを吐いてゐる
半分凍ったその青じろい果肉のへりで
黄水晶とエメラルドとの
花粉ぐらゐの二つの星が
童話のやうに婚約する
じつに今夜は
そらが精緻な宝石箱の集成で
金剛石のトラストが
穫れないふりしてしまって置いた幾億を
みんないちどにぶちまけたとでもいふ風だ
青い 巨きなロゼッタは
いちばん西の鶏頭山で
ごつごつ黒い冠を
触れるともなく擦過して
そこから暗い雲影が
なゝめに西に亘ってゐる
     ……雲のはかない残像が
       鉄いろのそらにながれる……
にわかに藪を踊りたつ
一ぴきの黒いかうもり
またきららかな蜘蛛の糸
     ……点々白い伐株と
       まがりくねった二本のかつら……
いちいちの草穂の影さへ落ちる
この清澄な月の昧爽ちかく
楢の木立の白いゴシック廻廊や
降るやうな虫のジロフォン
みちはひとすじほそぼそとして
巨きな黒の椈林
樹々のねむりを通って行く
     ……アスティルベアルゲンチウム
       アスティルベプラチニクム……
椈の脚から火星がのぞき
ひらめく萱や
月はいたやの梢にくだけ
木影の網をわくらばのやうに飛ぶ蛾もある

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(下書稿2)=(略)
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(下書稿1)
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一七九
     谷の昧爽に関する童話風の構想
                    一九二四、八、一七、

草の穂やおほばこの葉が
みんなくっきり影を落す
この清澄な月の昧爽近くを
楢の木立の白いゴシック廻廊や
降るやうな虫のジロフォンに送られて
つめたい谿にはいらうとする

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■「早池峰山巓」
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(本文=定稿)
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一八一
     早池峰山巓
                     一九二四、八、一七、

あやしい鉄の隈取りや
数の苔から彩られ
また捕虜岩ゼノリスの浮彫と
石絨の神経を懸ける
この山巓の岩組を
雲がきれぎれ叫んで飛べば
露はひかってこぼれ
釣鐘人参ブリューベルのいちいちの鐘もふるえる
みんなは木綿ゆふの白衣をつけて
南は青いはひ松のなだらや
北は渦巻く雲の髪
草穂やいはかがみの花の間を
ちぎらすやうな冽たい風に
眼もうるうるして吹きながら
くびすを次いで攀ってくる
九旬にあまる旱天ひでりつゞきの焦燥や
夏蚕飼育の辛苦を了へて
よろこびと寒さとに泣くやうにしながら
たゞいっしんに登ってくる
  ……向ふではあたらしいぼそぼその雲が
    まっ白な火になって燃える……
ここはこけももとはなさくうめばちさう
かすかな岩の輻射もあれば
雲のレモンのにほひもする

------------------------------------------------------------
(下書稿2推敲後)
------------------------------------------------------------

一八一
     早池峰山巓
                     一九二四、八、一七、

あやしい鉄の隈取りや
数の苔から彩られ
またゼノリスの浮彫と
石絨の神経を懸ける
この山巓の岩組を
雲がきれぎれ叫んで飛べば
露はひかってこぼれ
blue-bellのいちいちの鐘もふるえる
みんなは木綿ゆふの白衣をつけて
南は青いはひ松のなだらや
北はうづまく雲の髪
草穂やいはかゞみの花の間を
ちぎらすやうなつめたい風に
眼もうるうるしてふるえながら
大虚めぐらすこの山巓に
つぎつぎと身を挺してくる
九旬にあまるあの旱天の焦燥や
夏蚕飼育の辛苦を終へて
よろこびと寒さとに泣くやうにしながら
ただいっしんにのぼってくる
  ……向ふではあたらしいぼそぼその雲が
    まっ白な火になって燃える……
こゝはこけももとはなさくうめばちさう
かすかな岩の輻射もあれば
雲のレモンのにほひもする

------------------------------------------------------------
(下書稿2推敲前)
------------------------------------------------------------

一八一
     早池峰山巓
                     一九二四、八、一七、

あやしい鉄の隈取りや
数の苔から彩られ
またゼノリスの浮彫と
石絨の神経を懸ける
この山巓の岩組を
雲がきれぎれ叫んで飛べば
露はひかってこぼれ
blue-bellのいちいちの鐘もふるえる
みんなは木綿ゆふの白衣をつけて
南は青いはひ松のなだらや
北はうづまく雲の髪
草穂やいはかゞみの花の間を
ちぎらすやうなつめたい風に
眼もうるうるしてふるえながら
つぎからつぎとのぼってくる
九旬にあまるあの旱天の焦燥や
夏蚕飼育の辛苦を終へて
よろこびと寒さとに泣くやうにしながら
どしどしいっしんにのぼってくる
  ……向ふではあたらしいぼそぼその雲が
    まっ白な火になって燃える……
こゝはこけももとはなさくうめばちさう
かすかな岩の輻射もあれば
雲のレモンのにほひもする

------------------------------------------------------------
(下書稿1推敲後)=(略)
------------------------------------------------------------

------------------------------------------------------------
(下書稿1推敲前)
------------------------------------------------------------

一八一
     早池峰山巓
                     一九二四、八、一七、

 ……うるうる木の生えたなまこ山……
苔瑪瑙モスアゲートの小田越あたりに雲が湧き
薬師は朧ろな青い寒天アガーにかはってしまふ
 ……風はきれぎれ叫んで過ぎる……
南には早くも翔ける竜巻の尾もあれば
西山稜の巨きな逞しいカーヴに沿って
乱積雲の大行進曲グランドマーチも北へそゝぐ
雲はひかってこぼれ
blue-bellのいちいちの鐘もふるえる
 ……はるかにひかる積雲のいちれつ……
みんなはあたらしい白いきものをつけて
遠野口の青いはひ松のなだらや
黒くごりごりした露岩をわたり
また門馬口のまばゆく旋る雲のなかから
草穂やいはかがみの花のあひだを
ちぎらすやうなつめたい風に
眼もうるうるしてふるえながら
祖先たちのたどったその一一の石をよむ
白堊紀からの方尖碑オベリスク
蒼白い虚空の淵に
ぎざぎざ刻みのこされて
さけ目には石絨の神経が通り
裂罅には赤い鉄さびをうかべ
奇怪な灰いろの苔にいろどられ
ひきちぎられたその恐ろしい捕虜岩ゼノリスをたもつ
この蛇紋岩のけわしい山巓にのぼってくる
挿秧どきのせわしくゆらぐ焦燥や
九旬にあまるその旱天の忍従や
はげしいま夏の辛苦を終へ
よろこびと寒さとに泣くやうにしながら
どしどしいっしんにのぼってくる
  ……向ふではあたらしいぼそぼその雲が
    まっ白な火になって燃えあがる……
ここはこけももと花さくうめばちさう
かすかな岩の輻射もあれば
雲のレモンのにほひもする

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-〔文語詩稿未定稿(050)〕----------------------------------
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■「機会」
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(本文=下書稿推敲後)
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     機会

恋のはじめのおとなひは
かの青春に来りけり
おなじき第二神来は
蒼き上着にありにけり
その第三は諸人の
栄誉のなかに来りけり
いまおゝその四愛隣は
何たるぼろの中に来しぞも

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(下書稿推敲前)
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恋のはじめのおとなひは
その青春に来りけり
おなじき第二神来は
蒼き上着にありにけり
その第三は諸人の
栄誉のなかに来りけり
いまおゝその四愛隣は
何たるぼろの中に来しぞも

--〔後記〕--------------------------------------------------

 定期大会も無事終りました。レンタカーを借りていたので、朝か
ら早池峰山(河原坊)まで行こうとしたのですが、途中で疲れが出
て、早池峰神社で引き返してきました。

 その後大会に出て、やはり疲れが出て、懇親会が終ると同時に宿
に戻りました。いつもはそのまま飲みに行くのですけれど。

 昨日は渡り温泉の大きなホテルでしたが、今日はカフェの二階に
数室あるだけの宿です。どちらもネットの設備はありませんでした
が、このごろはスマホ経由でつながるので、問題なしです。

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