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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第968号--2017.09.09------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「春と修羅第二集(21)」「〔馬行き人行き自転車行きて〕」

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-〔話題〕---------------------------------------------------
「〔この森を通りぬければ〕」「〔ほほじろは鼓のかたちにひるが
へし〕」

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 今回の「〔この森を通りぬければ〕」は7月5日の日付を持つ三
篇目です。

 次の「〔ほほじろは鼓のかたちにひるがへし〕」は同じ7月です
が、日の方は記載がありません。

 この二編に共通するのは「鳥」のテーマで、「〔この森を通りぬ
ければ〕」の元の題名「寄鳥想亡妹」(鳥に寄せて亡き妹を想う)
がよく詩意を現しています。

 「〔この森を通りぬければ〕」の冒頭に鳥の群が出てきますが、
初期の原稿では「もず」になっていて、後に「つぐみ」に変更され
ています。

 モズは渡りをするのだろうか?と不思議に想いますが、普通渡り
をしない日本のモズも、秋には山地から下りてきたりという移動は
するようです。

 「群」と書いているので大きな群を作るツグミの方がふさわしい
と考えて変更したのかもしれません。ツグミは冬に日本にやってく
る鳥なので、7月の日付には合いませんけれどね。

 その鳥の群が寄るに騒ぐのに対して、「べつにあぶないことは
ない/しづかに睡ってかまはないのだ」と言っています。

 「〔ほほじろは鼓のかたちにひるがへし〕」の方はホオジロとヒ
バリが出てきます。

 これらの鳥が、とは明記されていませんが、「じつにわれらのね
がひをば/いっしんに発信してゐるのだ」ということで、賢治が異
界との交流を願っていたことがわかります。

 妹トシの死からまもなく二年、この夏の賢治の詩の中心はやはり
変わらずに妹のこと、死後の世界との交流です。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

ツグミ
http://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1359.html

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 跳ねては止まって胸張って「だるまさんが転んだ!」をしている
よう

 全長24cm。日本には全国に冬鳥として渡来し、積雪のない地方の
水田の刈跡、畑地、草地、河原など広々とした背の低い草地にすん
でいます。10月ごろ、シベリアから大群で渡ってくる冬鳥の代表で
す。日本へ着くと群れを解いて、田畑や低い山の林に散らばって生
息、3月なかばごろになると再び群れて北へ帰ります。胸を張って
木の枝にとまり、地面におりて枯葉の下の虫をさがします。

 古くは跳馬と呼ばれましたが、これは、地面をはねるようにとん
でエサをとる格好からのネーミングです。伝統的にカスミ網猟をし
ていた地方では、食用にする習慣が依然として残り、密猟が全くな
くなったとはいえません。冬鳥なので日本ではさえずりをしません。
そこで冬には口をつぐんでいる、それでツグミと呼ばれるようにな
ったといわれています。

/喧嘩すな あひみたがひに 渡り鳥 一茶/

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

モズ
http://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1502.html

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 モズは百舌(もず)とも書くように他の鳥の鳴き声がとっても上


 全長20cm。日本では全国の平地から低山地の農耕地や林緑、川畔
林などに生息して、繁殖しています。冬には北日本のものや山地の
ものは、南下したり山麓へ下ります。秋に高鳴きをしてなわばりを
確保し、越冬したものは、2月頃から越冬した場所で繁殖します。4
月中頃までにひなを育て終った親鳥は、高原や北へ移動しているよ
うです。

 小さなからだなのに、くちばしはタカのようにカギ型をしており、
小鳥を捕らえたりもします。モズは生け垣などのとがった小枝や、
有刺鉄線のトゲなどに、バッタやカエルなどのえものを串ざしにす
る変わった習性があることで知られ、

 日本ではこれを「モズのはやにえ」と呼んで有名です。イギリス
ではモズを「屠殺人の鳥」といい、ドイツでは「絞め殺す天使」と
呼んだりするのも、このはやにえから名づけられたものでしょう。
これらのことから、江戸時代はモズは凶鳥で、モズが鳴く夜は死人
が出ると信じられました。

/ 鵙(もず)鳴くや むら雨かわく うしろ道 一茶 /

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

ホオジロ
http://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1487.html

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 澄んだ声 木のてっぺんで胸張って

 全長16.5cm。全体は赤味のある褐色で、背には黒色の縦斑があり
ます。オスの顔は白と黒の模様で眉斑と頬線は白色で、襟は灰色で
す。メスは顔に黒色はほとんどなく、なんとなく薄い色に思われて
しまいます。

 地鳴きは「チチッ チチッ」と二声をだします。アオジをはじめ
日本の他のホオジロの仲間は、いずれも「チッ」といった一声なの
で区別はかなり容易です。さえずりは木の頂とか電線とかフェンス
上とか、高い場所で胸を張った姿勢で行うのが普通です。

 アジア大陸の中緯度、温帯に分布し、冬にはやや南へ渡ります。
日本では屋久島以北に分布し、繁殖しています。平地から山地の草
地、農耕地、牧場や林縁などに生息しています。シジュウカラの頬
が大きく白いので、それをホオジロと間違えている方も多いようで
す。気をつけましょう。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

-〔春と修羅第二集(021)〕----------------------------------

「〔この森を通りぬければ〕」「〔ほほじろは鼓のかたちにひるが
へし〕」

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■「〔この森を通りぬければ〕」
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(本文=定稿)
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一五六
     〔この森を通りぬければ〕
                     一九二四、七、五、

この森を通りぬければ
みちはさっきの水車へもどる
鳥がぎらきら啼いてゐる
たしか渡りのつぐみの群だ
夜どほし銀河の南のはじが
白く光って爆発したり
蛍があんまり流れたり
おまけに風がひっきりなしに樹をゆするので
鳥は落ちついて睡られず
あんなにひどくさわぐのだらう
けれども
わたくしが一あし林のなかにはいったばかりで
こんなにはげしく
こんなに一さうはげしく
まるでにわか雨のやうになくのは
何といふおかしなやつらだらう
ここは大きなひばの林で
そのまっ黒ないちいちの枝から
あちこち空のきれぎれが
いろいろにふるえたり呼吸したり
云はゞあらゆる年代の
光の目録カタログを送ってくる
  ……鳥があんまりさわぐので
    私はぼんやり立ってゐる……
みちはほのじろく向ふへながれ
一つの木立の窪みから
赤く濁った火星がのぼり
鳥は二羽だけいつかこっそりやって来て
何か冴え冴え軋って行った
あゝ風が吹いてあたたかさや銀の分子モリキル
あらゆる四面体の感触を送り
蛍が一さう乱れて飛べば
鳥は雨よりしげく鳴き
わたくしは死んだ妹の声を
林のはてのはてからきく
  ……それはもうさうでなくても
    誰でもおなじことなのだから
    またあたらしく考へ直すこともない……
草のいきれとひのきのにほひ
鳥はまた一さうひどくさわぎだす
どうしてそんなにさわぐのか
田に水を引く人たちが
抜き足をして林のへりをあるいても
南のそらで星がたびたび流れても
べつにあぶないことはない
しづかに睡ってかまはないのだ

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(下書稿2)
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一五六
     寄鳥想亡妹
                     一九二四、七、五、

この森を通りぬければ
みちはさっきの水車へもどる
鳥がぎらきら啼いてゐる
たしか渡りのつぐみの群だ
夜どほし銀河の南のはじが
白く光って爆発したり
蛍があんまり流れたり
おまけに風が南から、なんども潰れた銅鑼をたゝくので
鳥は落ちついて睡られず
あんなにひどくさわぐのだらう
けれども
わたくしが一あし林のなかにはいったばかりで
こんなにはげしく
こんなに一さうはげしく
まるでにわか雨のやうになくのは
何といふおかしなやつらだらう
ここは大きなひばの林で
そのまっ黒ないちいちの枝から
あちこち空のきれぎれが
いろいろにふるえたり呼吸したり
あらゆる古い年代の
光の規約を送ってくる
  ……鳥があんまりさわぐので
    私はぼんやり立ってゐる……
みちはほのじろく向ふへながれ
一つの木立の窪みから
赤く濁った火星がのぼり
鳥は二羽だけいつかこっそりやって来て
何か冴え冴え軋って行った
あゝ風が吹いてあたたかさや銀の分子モリキル
あらゆる四面体の感触を送り
蛍が一さう乱れて飛べば
鳥は雨よりしげくなき
わたくしは死んだ妹の声を
林のはてのはてからきく
  ……それはもうさうでなくても
    誰でもおなじことだから
    またあたらしく
    考へ直すこともない……
草のいきれとひのきのにほひ
鳥はまた一さうひどくさわぎだす
どうしてそんなにさわぐのか
田に水を引く人たちが
抜き足をして林のへりをあるいても
南のそらで星がたびたび流れても
べつにあぶないことはない
しづかにやすんでいゝ筈なのだ

------------------------------------------------------------
(下書稿1推敲後)
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一五六
     鳥
                     一九二四、七、五、

この森を通りぬければ
みちはさっきの水車へもどる
鳥がぎらきら啼いてゐる
たしか渡りのもずの群だ
田に水を引く人たちが
こっそりこっそり林のへりをあるいてゐるし
夜どほし銀河の南のはじも
白く光って見えるので
鳥は落ちついて睡られず
あんなにひどくさわぐのだらう
けれども
わたくしが一あし林のなかにはいったばかりで
こんなにはげしく
こんなに一さうはげしく
まるでにはか雨のやうになくのは
何といふおかしなやつらだらう
ここは大きなひばの林で
そのまっ黒ないちいちの枝から
どこら辺とも知れないそらが
いろいろにふるえたり呼吸したり
いはゞあらゆる光の規約を示してゐる
  ……あんまり鳥がさはぐので
    私はぼんやり立ってゐる……
みちはほのじろく向ふへながれ
一つの木立の窪みから
赤く濁った火星ものぼり
鳥は二羽だけいつかこっそりやって来て
何か冴え冴え軋って行った
あゝ風が吹いてあたたかさや銀の分子モリキル
あらゆる四面体の感触を送り
蛍がこんなに乱れて飛べば
鳥は雨よりしげくなき
わたくしは死んだ妹の声を
林のはてのはてからきく
  ……それはもう、たれでもおなじことだから
    いまあたらしく、考へなほすこともない……
 草のいきれと
 樹やにのにほひ
鳥はまた一さうひどくさわぎだす
どうしてそんなにさわぐのか
はやしのなかは蛍もかなりみだれて飛ぶし
みなみぞらでは星もときどきながれるけれども
しづかにやすんでかまはない

------------------------------------------------------------
(下書稿1推敲前)
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一五六
     鳥
                     一九二四、七、五、

この林をくぐれば
みちは来た方へもどる
鳥がぎらぎら啼いてゐる
たしか渡りのもずの群だ
夜どほし銀河の南のはじが爆発するものだから
鳥は落ちついて睡られず
あんなにひどくさわぐのだ
けれども
わたくしが一あし林のなかにはいったばかりで
こんなにはげしく
こんなに一さうはげしく
まるでにはか雨のやうになくのは
何といふおかしなやつらだらう
ここは大きなひばの林で
そのまっ黒ないちいちの枝から
はがねいろした天盤を截り
どの座とも知れない星が
あらゆる光の規約を示す
  ……あんまり鳥がさはぐので
    私はぼんやり立ってゐる……
みちはほのじろく向ふへながれ
木立のけはしい窪みから
赤く濁った火星がのぼる
鳥は二羽だけこっそりこっちへやって来て
ごく透明に軋って行った
あゝ風が吹いてあたたかさや銀のモリキル
あらゆる四面体の感触を送り
蛍がこんなに乱れて飛べば
鳥は雨よりしげくなき
わたくしは死んだ妹の声を
林のはてのはてからきく
  ……それはもうたれでもひとつことだから
    またあたらしく考へなほさないでいい……
 草のいきれと樹やにのにほひ
鳥はまた一さうひどくさわぎだす
どうしてそんなにさわぐのか
はやしのなかは蛍もこんなにみだれて飛ぶし
みなみぞらでは星もときどきながれるだらうが
しづかにやすんで
かまはないのだ

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(『貌』掲載形 1925年7月発行)
------------------------------------------------------------

     鳥

この林をくぐれば
みちは来た方へもどる
鳥がぎらぎら啼いてゐる
たしか渡りのもずの群だ
夜どほし銀河の南のはじが爆発するものだから
鳥は落ちついて睡られず
あんなにひどくさわぐのだ
けれども
わたくしが一あし林のなかにはいったばかりで
こんなにはげしく
こんなに一さうはげしく
まるでにはか雨のやうになくのは
何といふおかしなやつらだらう
こゝは大きなひのき林で
星がそのいちいちのまっ黒な枝に
落ちやうとする露の火や
あらゆる光の規約を示し
きらきら顫へたり呼吸したりする
……あんまり鳥がさはぐので
  わたしはぼんやり立ってゐる……
みちはほのじろく向ふへながれ
木立のけはしい窪みから
赤く濁った火星がのぼる
鳥は二羽だけこっそりこっちへやって来て
ごく透明に軋って行った
あゝ 風が吹いてあたたかさや銀のモリキル
あらゆる四面体の感触を送り
蛍がこんなに乱れて飛べば
鳥は雨よりしげくなき
わたくしは死んだ妹の声を
林のはてのはてからきく
……それはもうたれでもひとつことだから
  またあたらしく考へなほさないでいい……
草のいきれとピネンのにほひ
鳥はまた一さうひどくさわぎだす
どうしてそんなにさわぐのか
はやしのなかは蛍もこんなにみだれて飛ぶし
みなみぞらでは星もときどき流れるだらうが
しづかにやすんで
かまはないのだ

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■「〔ほほじろは鼓のかたちにひるがへし〕」
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(本文=下書稿推敲後)
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一五七
     〔ほほじろは鼓のかたちにひるがへし〕
                      一九二四、七、 、

ほほじろは鼓のかたちにひるがへし
まっすぐにあがるひばりもある
岩頸列はまだ暗い霧にひたされて
貢った暁の睡りをまもってゐるが
この峡流の出口では
麻のにほひやオゾンの風
もう電動機モートルも電線も鳴る
夜もすがら
風と銀河のあかりのなかで
ガスエンヂンの爆音に
灌漑水の急にそなへたわかものたち、
いまはなやかな田園の黎明のために
それらの青い草山の
波立つ萱や、
古風な稗の野末をのぞみ
東のそらの黝んだ葡萄鼠と、
赤縞入りのアラゴナイトの盃で
この清冽な朝の酒を
胸いっぱいに汲まうではないか
見たまへあすこら四列の虹の交流を
水いろのそらの渚による沙に
いまあたらしく朱金や風がちゞれ
ポプルス楊の幾本が
繊細な葉をめいめいせはしくゆすってゐる
湧くやうにひるがへり
叫ぶやうにつたはり
じつにわれらのねがひをば
いっしんに発信してゐるのだ

------------------------------------------------------------
(下書稿推敲前)
------------------------------------------------------------

一五七
                      一九二四、七、 、

ほほじろは鼓のかたちにひるがへし
まっすぐにあがるひばりもある
岩頸列はまだ暗い霧にひたされて
貢った暁の睡りをとってゐるが
この峡流の出口では
麻のにほひやオゾンの風
もう電動機モートルも電線も鳴る
夜もすがら
風と銀河のあかりのなかで
ガスエンヂンの爆音にポムプを守ったわかものたち、
このはなやかな田園の黎明のために
それらの青い草山の
波立つ萱と古風な稗の野末をのぞみ
東のそらの黝んだ葡萄鼠と、
赤縞入りのアラゴナイトの盃で
この清冽な朝の酒を
胸いっぱいに汲まうではないか
見たまへあすこら四列の虹の交流を
水いろの天の渚による沙に
いまあたらしく朱金や風がちゞれ
ポプルス楊の幾本が
繊細な葉をめいめいせはしくゆすってゐる
湧くやうにひるがへり
叫ぶやうにつたはり
いっしんに発信をつゞけてゐる

------------------------------------------------------------
-〔文語詩稿未定稿(048)〕----------------------------------
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■「〔馬行き人行き自転車行きて〕」
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(本文=下書稿2)
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     〔馬行き人行き自転車行きて〕

馬行き人行き自転車行きて
しばし粉雪の風吹けり

絣合羽につまごはき
物噛むごとくたゞずみて
大売り出しのビラ読む翁
まなこをめぐる幅状の皺

楽隊の音からおもてを見れば
雲は傷れて眼痛む
西洋料理支那料理の
三色文字は赤より暮るゝ

------------------------------------------------------------
(下書稿1)
------------------------------------------------------------

楽隊の音からおもてを見れば
雲は傷れて眼痛む
西洋料理支那料理の
三色文字は赤より暮るゝ

政友会の親分の
手を綿入の袖に入れ
身内一分のすきもなき
ぢろりと過ぐる眼はわびし
         冬の陰影

絣の合羽にわらじばき
もんぱぼうしに額づゝみ
物噛むごとく売り出しの
ビラに向へるまなこをめぐり
皺はさながら後光のごとき
眼のうす赤いぢいさんが
読んでゐるのか見てゐるか

こたびはこども砂糖屋の
家のこどもがスケートの
手をふりまはしてすべり行くなり

自転車ひきて出できたるかな林光原
出前をさげてひらりと乗り
走りて去ればはるかなる
活動写真の暮れの楽隊

------------------------------------------------------------
(先駆形口語詩「〔湯本の方の人たちも〕」)
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     〔湯本の方の人たちも〕

湯本の方の人たちも
一きりついて帰ったので
ビラの隙からおもてを見れば
雲が傷れて眼は痛む
西洋料理支那料理の
三色文字は赤から暮れ
硝子はひっそりしめられる
馬が一疋東へ行く
古びた荷繩をぶらさげて
雪みちをふむ
引いて行くのはまだ頬の円いこども
兵隊外套が長過ぎるので
縄でしばってたごめてゐる
行きちがひに出てくるのは
政友会兼国粋会の親分格
帽子もかぶらず
手は綿入れの袖に入れ
がっしり丈夫な足駄をはいて
身体一分のすきもなく
こっちをぢろっと見るでもなし
さりとて全く見ないでもなし
堂々として行き過ぎるのは
さすが親分の格だけある
いかつおもてのガラスの前に
白いもんぱのぼうしをかぶり
絣の合羽にわらじをはいた
眼のうす赤いぢいさんが
読んでゐるのか見てゐるか
物でも噛むやうにして
だまってぢっと立ってゐる
ご相談でもありましたらと切り出せば
何が銭でもとられるか
かゝり合ひにでもなるかと
早速ぼろっと遁げて行くのは必定だ
結局こらえてだまってゐれば
またこの夏もいもちがはやる
こんどはこども 砂糖屋の家のこどもが
スケートをはき手をふりまはしてすべって行く
おぢいさんもぼろっと東へ居なくなる
高木の部落なら
その雪のたんぼのなかの
ひばのかきねに間もなくつくし
高松だか成島だか
猿ヶ石川の岸をのぼった
雑木の山の下の家なら
もうとっぷりと暮れて着く
たうたう出てきた林光左
広東生れのメーランファンの相似形
自転車をひっぱり出して
出前をさげてひらりと乗る
一目さんに警察の方へ走って行く
遠くでは活動写真の暮れの楽隊

--〔後記〕--------------------------------------------------

 二週続けて抗ガン剤投与が中止になり、ちょうど一カ月間隔があ
きました。薬も変ったし、抗ガン剤治療も曲がり角、といったとこ
ろです。

 その合間をぬって、金曜日から土曜日にかけて、近所の温泉に行
ってきます。和歌山県はほぼ全市町村に温泉があるのが自慢で、今
回は一番近くの和歌山市内の温泉です。名目が妻の誕生日祝いです。

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