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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第966号--2017.08.26------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「春と修羅第二集(19)」「恋」

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-〔話題〕---------------------------------------------------
「比叡(幻聴)」「鳥の遷移」「林学生」
------------------------------------------------------------

 今回は1924年5月の最後の一篇である「比叡(幻聴)」と、6月
の日付を持つ「鳥の遷移」「林学生」の三篇です。

 この後の7月から8月にかけて、いくつもの有名な詩を書いてい
ますが、このあたりは作品は少なかったようです。

 「比叡(幻聴)」の「比叡」はもちろん「比叡山」のことでしょ
う。三年前の1921年春に、東京に家出していたときに、父政次郎と
ともに関西方面に旅行に行き、比叡山にも行っています。

 このときの短歌に、次のようなものがあります。

比叡
※  根本中堂

ねがはくは 妙法如来正偏知 大師のみ旨成らしめたまへ。

 「鳥の遷移」は謄写版印刷されて、岩波書店の岩波茂雄あての書
簡に同封され送られたという珍しい経緯のある作品です。

 この書簡は1925年12月20日の日付ですので、作品の日付から一年
半ほどたってからのことです。

 印刷された時期は不明ですが、内容は下書稿1とほぼ同じもので
す。印刷以降も詩稿への推敲は続けられていたことになります。

 詩の中で「いもうとの墓」に言及があります。この年の夏は特に
妹トシの思い出とともに暮らしていたことが、この後の詩に出てき
ます。

 「林学生」はもう一つ意味のわかりにくい詩ですが、下書稿1を
見ると、この頃にいくつも出てくる、会話形式の詩だったことがわ
かります。

 この詩では会話しているのは先生と生徒ですが、やがて兄と妹の
会話の詩が書かれるようになります。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

宮沢賢治の手ざわり
http://www.konan-wu.ac.jp/~nobutoki/papers/texture.html

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

謄写版による心象スケッチ

 さて二冊の本による「歴史や宗教の位置の変換」はどうなったの
だろう。結論から言えば「宗教家やいろいろの人たち」は「どこも
見てくれませんでした」ということになる。

 『春と修羅』は「詩」としてなら、幾人かの評者から絶賛に近い
言葉を与えられた。しかし「詩といふことはわたくしも知らないわ
けではありませんでしたが厳密に事実のとほりに記録したものを何
だかいままでのつぎはぎしたものと混ぜられたのは不満でした。
(大正十四年十二月二十日・岩波茂雄宛書簡)」と言う賢治が、彼
らの言葉を素直に受けいれられたとは思えない。

 賢治はこの後すぐに『春と修羅 第二集』の出版を計画している
のだが、これは計画だけに終わり、実際に出版されることはなかっ
た。ところでこの第二集の出版は、活字によるものではなく、岩波
茂雄宛て書簡に「こんどは別紙のやうな騰写刷で自分で一冊こさえ
ます」と書いて、心象スケッチの「鳥の遷移」を同封していること
からわかるように、謄写版によるごく小規模なものが考えられてい
たようである。

 森荘已池氏に宛てても「夏には謄写版で次のスケッチを拵えます
(大正十四年十二月二十三日)」と書いているので、この計画はか
なり具体化していたように思える。

(略)

 謄写版印刷は厳密な意味での手書き本であるとは言えない。しか
し活字によるものとは違って、そこには大きな字や小さな字、書き
損じの字もあるだろうし、インクがかすれたりにじんだりすること
もあるだろう。それらは読者に、著者・賢治の人間を感じさせるに
十分な「情報」であるというだけでなく、テクストの「流動性」を
アピールするにも役立つのではないだろうか。「こんどは別紙のや
うな謄写刷で自分で一冊こさえます。いゝ紙をつかってじぶんです
きなやうに綴ぢたらそれでもやっぱり読んでくれる人もあるかと考
へます(前掲・岩波茂雄宛書簡)」という言葉は、単なる痩せ我慢
ではなく、ある種の自負さえ窺えるように思えるのである。

 ところが賢治は謄写版による第二集を出版しなかった。森荘已池
氏が「詩集を作るために買った新しい謄写版を、無産政党の支部に、
金二十円を添えて寄贈したためであった」と書いているように、昭
和三年の二月頃に、賢治が労農党稗和支部に謄写版を寄贈したこと
が原因であると思われる。

 しかし第二集出版の話はすぐ再浮上する。入沢康夫氏は、森氏の
言を受けて、同年の四月に賢治が藤原嘉藤治と帰郷中の菊池武雄に
会った際、「二月に謄写版を寄附してしまったことを知った二人の
友人が、では第二詩集の出版は、こちらで考えてやるから、ぜひま
とめろ」とでも言って、短歌雑誌『ぬはり』社の菊池知勇を紹介し
たのではないかと推定している。そして賢治はその初夏に第二集の
序文を書いたのではないかと言う。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

-〔春と修羅第二集(019)〕----------------------------------

「比叡(幻聴)」「鳥の遷移」「林学生」

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■「比叡(幻聴)」
------------------------------------------------------------
(本文=下書稿推敲後)
------------------------------------------------------------

一四五
     比叡(幻聴)
                     一九二四、五、二五、

黒い麻のころもを着た
六人のたくましい僧たちと
わたくしは山の平に立ってゐる
  それは比叡で
  みんなの顔は熱してゐる
雲もけはしくせまってくるし
湖水も青く湛えてゐる
  (うぬぼれ うんきのないやつは)
ひとりが所在なささうにどなる

------------------------------------------------------------
(下書稿推敲前)
------------------------------------------------------------

一四五
     比叡(幻聴)
                     一九二四、五、二五、

黒い麻のころもを着た
六人のたくましい僧たちと
わたくしは山の平に立ってゐる
  それは比叡で
  みんなの顔はほてってゐる
雲もけはしく山の上までせまってゐるし
野原も青く湛えてゐる
  (うぬぼれ うんきのないやつは)
うぐひすも年老って啼かないので
たうたうひとりが所在なささうに云ふ

------------------------------------------------------------
■「鳥の遷移」
------------------------------------------------------------
(本文=下書稿2)
------------------------------------------------------------

二七
     鳥の遷移
                     一九二四、六、廿一、

鳥がいっぴき葱緑の天をわたって行く
わたくしは二こゑのかくこうを聴く
からだがひどく巨きくて
それにコースも水平なので
誰か模型に弾条バネでもつけて飛ばしたやう
それだけどこか気の毒だ
鳥は遷り さっきの声は時間の軸で
青い鏃のグラフをつくる
  ……きららかに畳む山彙と
    水いろのそらの縁辺……
鳥の形はもう見えず
いまわたくしのいもうとの
墓場の方で啼いてゐる
  ……その墓森の松のかげから
    黄いろな電車がすべってくる
    ガラスがいちまいふるえてひかる
    もう一枚がならんでひかる……
鳥はいつかずっとうしろの
煉瓦工場の森にまはって啼いてゐる
あるひはそれはべつのかくこうで
さっきのやつはまだくちはしをつぐんだまま
水を呑みたさうにしてそらを見上げながら
墓のうしろの松の木などに、
とまってゐるかもわからない

------------------------------------------------------------
(下書稿1推敲後)
------------------------------------------------------------

二七
     鳥の遷移
                     一九二四、六、廿一、

鳥がいっぴき葱緑の天をわたって行く
わたくしは二こゑのかくこうを聴く
あのかくこうがすこうしまへに啼いたのだ
それほど鳥はひとり無心にとんでゐる
鳥は遷り
あとはだまって飛ぶだけなので
ここはしばらく、原始のさびしい空虚になる
  ……きららかに畳む山地と
    青じろいそらの縁辺……
鳥はもう見えず
いまわたくしのいもうとの
墓場の方で啼いてゐる
  ……その墓森の松のかげから
    黄いろな電車がすべってくる
    ガラスがいちまいふるえてひかる
    もう一枚がならんでひかる……
鳥はいつかずっとうしろの
煉瓦工場の森にまはって啼いてゐる
あるひはそれはべつのかくこうで
さっきのやつはまだくちはしをつぐみ
水を呑みたさうにしてそらを見上げながら
やっぱり墓の松の木などににとまってゐるかもわからない

------------------------------------------------------------
(下書稿1推敲前)
------------------------------------------------------------

二七
     鳥の遷移
                     一九二四、六、廿一、

鳥がいっぴき葱緑の天をわたって行く
わたくしは二こゑのかくこうを聴く
あのかくこうが
飛びながらすこうしまへに啼いたのだ
それほど鳥は一人無心にとんでゐる
鳥は遷り
あとはだまって飛ぶだけなので
ここはしばらく
博物館の硝子戸棚のなかになる
そんな図形は鳥の啼くと啼かないとの
かういふ数虚のなかにもあれば
あの質樸な音符のうちにもはいってゐる
第六交響曲のなかでなら
もっとひらたく投影される
  ……青じろいそらの縁辺……
かくこうは移り
いまわたくしのいもうとの
墓場の方で啼いてゐる
  ……その墓森の松のかげから
    黄いろな電車がすべってくる
    ガラスがいちまいふるえてひかる
    もう一枚がならんでひかる……
鳥はいつかずっとうしろの
森にまはって啼いてゐる
あるひはそれはべつのかくこうで
さっきのやつはまだくちはしをつぐみ
水を呑みたさうにしてそらを見上げながら
わたくしのいもうとの墓にとまってゐるかもしれない

------------------------------------------------------------
(謄写版印刷形)
------------------------------------------------------------

     鳥の遷移

鳥がいっぴき葱緑の天をわたって行く
わたくしは二こゑのかくこうを聴く
あのかくこうが
飛びながらすこうしまへに啼いたのだ
それほど鳥はひとり無心にとんでゐる
鳥は遷り
あとはだまって飛ぶだけなので
前のひびきがそれぎりになり
碧い鏃のグラフをつくる
  ……青じろいそらの縁辺……
かくこうは移り
いまわたくしのいもうとの
墓場の方で啼いてゐる
  ……その墓森の松のかげから
    黄いろな電車がすべってくる
    ガラスがいちまいふるえてひかる
    もう一枚がならんでひかる……
鳥はいつかずっとうしろの
森にまはって啼いてゐる
あるひはそれはべつのかくこうで
さっきのやつはまだくちはしをつぐみ
水を呑みたさうにしてそらを見上げながら
わたくしの妹の墓にとまってゐるかもしれない

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※洋半紙の表面に、賢治自身が原紙を切って謄写印刷したもの。

※1925年12月20日付岩波茂雄宛て書簡に同封されていた。

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■「林学生」
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(本文=下書稿3推敲後)
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一五二
     林学生
                    一九二四、六、二二、

ラクムスブラウの風だといふ
シャツも手帳も染まるといふ
おゝ高雅なるこれらの花藪やぶと火山塊との配列よ
ぼくはふたたびここを訪ひ
見取りをつくっておかうといふ
さうだかへってあとがいい
藪に花なぞない方が、
いろいろグリーン段階ステーヂ
舶来風のいきだといふ
いゝやぼくのはぢゃないよ
あとでどこかの大公園に、
そっくり使ふ平面図だよ
うわあ測量するのかい
そいつの助手はごめんだよ
もちろんたのみはしないといふ
東の青い山地の上で
何か巨きなかけがねをかふ音がした
それは騎兵の演習だらう
いやさうでない盛岡駅の機関庫さ
そんなもんではぜんぜんない
すべてかういふ高みでは
かならずなにかあゝいふふうの、
会体のしれない音をきく
それは一箇の神秘だよ
神秘でないよ気圧だよ
気圧でないよ耳鳴りさ
みんないっしょに耳鳴りか
もいちど鳴るといゝなといふ
センチメンタル! 葉笛を吹くな
えゝシューベルトのセレナーデ
これから独奏なさいます
やかましいやかましいやかましい
その葉をだいじにしまっておいて
晩頂上で吹けといふ
先生先生山地の上の重たいもやのうしろから
赤く潰れたおかしなものがてくるといふ
   (それは潰れた赤い信頼!
    天台、ジェームスその他によれば!)
ここらの空気はまるで鉛糖溶液です
それにうしろも三合目まで
たゞまっ白な雲の澱みにかはってゐます
月がおぼろな赤いひかりを送ってよこし
遠くで柏が鳴るといふ
月のひかりがまるで掬って呑めさうだ
それから先生、鷹がどこかで磐を叩いてゐますといふ
   (ああさうですか 鷹が磐など叩くとしたら
    どてらを着てゐて叩くでせうね)
鷹ではないよ くいなだよ
くいなでないよ しぎだよといふ
月はだんだん明るくなり
羊歯ははがねになるといふ
みかげの山も粘板岩の高原も
もうとっぷり暮れたといふ
ああこの風はすなはちぼく、
且つまたぼくが、
ながれる青い単斜のタッチの一片といふ
   (しかも ルーノ
    あなたの鈍い銅線の
    二三はひとももって居ります)
あっちでもこっちでも
鳥はしづかに叩くといふ

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲前)
------------------------------------------------------------

一五二
     林学生
                    一九二四、六、二二、

ラクムスブラウの風だといふ
シャツも手帳も染まるといふ
おゝうつくしいこれらの花藪やぶと火山塊との配列よ
ぼくはもいちどやってきて
見取りをつくって置かうといふ
さうだ却へってあとがいい
(約5文字不明)どない方が、
(約5文字不明)があるからな
舶来風のいきだといふ
いゝやぼくのは絵ぢゃないよ
精巧無比な平面図だよ
うわあ測量するのかい
その手伝はごめんだよ
もちろんたのみはしないといふ
東の青い山地の上で
何か巨きなかけがねをかふ音がした
それは騎兵の爆破だらう
いやさうでない盛岡駅の機関庫さ
そんなもんでは全然ない
すべてかういふ高みでは
かならずあんな会体のしれない音をきく
それは一箇の神秘だよ
神秘でないよ気圧だよ
気圧でないよ耳鳴りさ
みんないっしょに耳鳴りか
もいちど鳴るといゝなといふ
おいやかましい 葉笛を吹くな
えゝシューベルトのセレナーデ
これから独奏なさいます
やかましいやかましいやかましい
その葉をだいじにしまっておいて
晩頂上で吹けといふ
先生先生山地の上の重たいもやのうしろから
赤く潰れた大きな(数文字不明)出てくるといふ
   (それはさういふ信頼だって!
    天台、ジェームスその他によれば!)
ここらの空気はまるで鉛糖溶液です
それにうしろが三合目まで
たゞまっ白な雲の澱みにかはってゐます
月がおぼろな赤いひかりを送ってよこし
遠くで柏が鳴るといふ
月のひかりがまるで掬って呑めさうだ
それから先生、鷹がどこかで磐を叩いてゐますといふ
   (ああさうですか 鷹が磐など叩くとしたら
    どてらを着てゐて叩くでせうね)
鷹ではないよ くいなだよ
くいなでないよ しぎだよといふ
月はだんだん明るくなり
羊歯ははがねになるといふ
みかげの山も粘板岩の高原も
もうとっぷり暮れたといふ
ああこのながれる風はぼく、
且つまたぼくがながれる青い単斜のタッチの一片といふ
   (しかも ルーノ
    あなたの鈍い銅線の
    二三はひとももって居ります)
あっちでもこっちでも
鳥はしづかに叩くといふ

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(下書稿2推敲後)
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一五二
                    一九二四、六、二二、

ラクムスブラウの風だといふ
カラもシャツも染まるといふ
おゝうつくしいこれらの藪と火山塊との配列よ
ぼくはもいちどやってきて
見取りをつくって置かうといふ
さうだ却へってあとがいゝ
藪に花などない方が
ずっと効果があるからな
いゝやぼくのは絵ぢゃないよ
精巧無比な平面図だよ
うわあ測量をするのかい
その手伝はごめんだよ
もちろんたのみはしないといふ
ここらの藪と火山塊との配列よ
そっくりとこかの大公園に使うんへるといふ
絵に描くならば却って藪に花
ここで十分憩んで行かう間もなく谷になるからな
東の青い山地の上で
何か巨きなかけがねをかふ音がした
それは騎兵の演習だらう
いやさうでない盛岡駅の機関庫だ
そんなもんでは全然ない
すべてかういふ高みでは
かならずあんな会体のしれない音がする
それは一箇の神秘だよ
神秘でないよ気圧だよ
気圧でないよ耳鳴りさ
みんないっしょに耳鳴りか、
もいちど鳴るといゝなといふ
おいやかましい 葉笛を吹くな
えゝシューベルトのセレナーデ
これから独奏なさいます
やかましいいやかましいいやかましいい
その葉をだいじにしまっておいて
晩頂上で吹けといふ
先生先生山地の上の重たいもやのうしろから
赤く潰れたおかしなものが出てくるといふ
   (それはひとつの信仰だとさ! ジェームスによれば!)
ここらの空気はまるで鉛糖溶液です
そしてうしろが広重風の
まっしろな雲の澱みです
月がおぼろな赤いひかりを送ってよこし
遠くで柏が鳴るといふ
月のひかりがまるで掬って呑めさうだ
それから先生鷹がどこかで磐を叩いてゐますといふ
   (ああさうですか 鷹が磐など叩くとしたら
    どてらを着てゐて叩くでせうね)
鷹ではないよくいなだよ
くいなでないよしぎだよといふ
月がだんだん明るくなり
羊歯ははがねになるといふ
みかげの山も石灰岩も
もうとっぷりと暮れたといふ
このながれてゐる風はぼく、
且つまたぼくがながれる青い単斜のタッチの一片といふ
   (しかも ルーノ
    あなたの鈍い銅線の
    二三はひとももって居ります)
あっちでもこっちでも
鳥はしづかに叩くといふ

------------------------------------------------------------
(下書稿2推敲前)
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一五二
                    一九二四、六、二二、

あぢさゐいろの風だといふ
雲もシャツも染まるといふ
ここらの藪と火山塊との配列よ
そっくりとこかの大公園に使うんへるといふ
絵に描くならば却って藪に花
  ここで十分憩んで行かう間もなく谷になるからな
東で何かかけがねをかふ音がした
それは騎兵の演習だらう
いやさうでない盛岡駅の機関庫だ
どうしてどうしてあれは盛岡銀行で
金庫の錠をかふのだといふ
フロックを着て金庫の前で
最敬礼をやるのだといふ
  (こら! もっとしづかに草笛を吹け!)
先生先生山地の上の重たいもやのうしろから
赤く潰れたおかしなものが出てくるといふ
   (それはひとつの信仰だとさ! ジェームスによれば!)
ここらの空気は鉛糖のやう
甘く重たくなるといふ
うしろがまるで浮世絵風の
雲の澱みに変るといふ
月がおぼろな赤いひかりを送ってよこし
遠くで柏が鳴るといふ
それから先生鷹がどこかで磐を叩いてゐますといふ
   (ああさうか 鷹が磐など叩くとしたら
    どてらを着てゐて叩くだらうな)
月がだんだん明るくなり
羊歯ははがねになるといふ
   (あゝあ 流れる風はわたくしで
    わたくしはまたその青い単斜のタッチの一片である
    しかも ルーノ
    あなたの鈍い銅線の
    二三はひとももって居ります)
   (あゝ それは
    あしたのひるかへしてください)
   (何と云ったか きみは いま)
あっちでもこっちでも
鳥はしづかに叩くといふ

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(下書稿1推敲後)
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一五二
     monologue
                    一九二四、六、二二、

(ここらの藪と
 火山塊との配列は
 そっくりとこかの大公園に使へるな)
  (どの藪もみんな花咲いてゐます)
  (あぢさゐいろの風だなあ
   雲もシャツも染まるなあ)
  (先生 東方で何か巨きなかけがねを插す音がしました)
(ぼくも聴いたが何だらう)
  (盛岡の機関庫だな)
  (騎兵がの演習してるんだ きっと)
(おい、
 もっとしづかに草笛を吹け!)
  (先生 先生 山の上のもやのなかからおかしなものが出てきます)
  (お月さんだ まるっきり潰れて赤くて)
(それはひとつの信仰だとさジェームスによれば)
  (何だか空気が鉛糖のみたいになってきた)
  (ほううしろ雲,まるでまっ白な雲になってる)
(月がおぼろな赤いひかりを送ってよこす)
  (遠くで柏の木がざらざらと鳴ってゐます)
(流れる風はわたくしで
 わたくしはまたその青い単斜のタッチの一片である)
(月がだんだん明るくなる
 羊歯ははがねの図案になる)
   (先生 鷹がどこかで磐をたゝいてゐます)
ルーノよあなたの輻射形した銅線の
 二三を ひとも もって居ります)
   (あ それは あしたのひるかへしてください)
(何と云ったか君は いま)
    あっちでもこっちでも
    鳥はしづかに叩くといふ

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(下書稿1推敲前)
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一五二
     赤い歪形
                    一九二四、六、二二、

(ここらの藪と
 そのまっ黒な火山塊とのかはるがはるの配列は
 そっくりとこかの大公園に使へるな)
  (どの藪もみんな花咲いてゐます)
  (ほうこの風あぢさゐいろだ)
  (先生 東で巨きなかけがねを插す音がしました)
(ぼくも聴いたが何だらう)
  (向ふの山のどこかに巨きな扉があって
   誰かゞ閉めたところです)
  (盛岡の機関庫だな)
  (騎兵がの演習してるんだ きっと)
(早池峰も姫神山も
 あんなに青くひっそりだ
 おい もっとしづかに草笛を吹け!)
  (先生 先生 山の上から あれ)
  (お月さんだ まるっきり潰れて変たに赤くて)
(それはひとつの信仰だとさジェームスによれば)
  (何だか空気 鉛の砂糖のみたいになってきた)
  (ほううしろ雲,まるでまっ白な雲になってる)
(月がおぼろな赤いひかりを送ってよこす)
  (遠くで柏の木がざらざらと鳴ってる)
(流れる風はわたくしで
 わたくしはまたその青い単斜のタッチの一片である)
   (先生 鷹がどこかで磐をたゝいてゐます)
(鷹がどんなかたちで磐を叩いてゐるんだ 君)
   (それでも先生もさういふことときどき云ひます)
(さうか ならわたちしも云ふ
 ルーノよあなたの輻射形した銅線の
 二三を ひとも もって居ります)
   (あ それは あしたのひるかへしてください)
(何と云ったか君は いま)
   (あっちでもこっちでも
    鳥はしづかに叩いて居ります)

------------------------------------------------------------
-〔文語詩稿未定稿(046)〕----------------------------------
-----------------------------------------------------------
■「恋」
------------------------------------------------------------
(本文=下書稿推敲後)
------------------------------------------------------------

     恋

草穂のかなた雲ひくき
ポプラの群にかこまれて
鐘塔白き秋の館

かしこにひとの四年居て
あるとき清くわらひける
そのこといとゞくるほしき

------------------------------------------------------------
(下書稿推敲前)
------------------------------------------------------------

草穂のかなたうら青き
ポプラの群にかこまれて
穹窿もてる銅屋根に
せまるは雨の雲なれや

かしこにひとの四年居て
あるとき口をうちつぐみ
あるとき清くわらひける
そのこと何かねたましき

おなじきみちをすゝまんと
もとし菩薩もゆるしけん
もとめてともに行かんとは
つひにあるべきことならず

草穂のかなた水いろの
稲田のなかに群らだちて
ポプラよ青くいや冴えて
雲のながれを送るなり

--〔後記〕--------------------------------------------------

 日付の都合で三篇掲載したら、かなり長くなってしまいました。
次回からこの年の夏の詩にしたかったので、ご了承ください。

 9月の花巻行きのキップを買いました。今回はレール&レンタカ
ーで、新幹線で行きます。体調のこともあり、またこれで最後かも
しれないということから、グリーン車を奮発しました。賢治先生に
怒られそうですね。

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