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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第963号--2017.08.05------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「春と修羅第二集(16)」「〔最も親しき友らにさへこれを秘して〕」

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-〔話題〕---------------------------------------------------
「津軽海峡」「函館港春夜光景」
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 突然ですが、今回掲載の詩は北海道方面に行ったときのものです。
1922年の「オホーツク挽歌」の旅に続いて、今回は修学旅行の引率
での北海道行きです。

 1924年5月18日の夕刻出発して、19日に青函連絡船にて函館につ
いています。その後小樽、札幌、苫小牧、室蘭を経て23日に花巻に
帰っています。

 この時の詩作はそれほど多くなくて、最初のこの二編がハイライ
トといえます。

 二編とも『春と修羅』の詩篇と共通する印象があり、とくにこん
なカタカナの詩句を入れたりしているのが特徴です。

  オダルハコダテガスタルダイト、
  ハコダテネムロインデコライト

 私たちの世代だと「オタルハコダテトマコマイ」などという歌詞
を思い出させます。賢治の作品としてはちょっと俗ですね。

 この修学旅行では、帰ってきてからの「修学旅行復命書」が有名
です。

修学旅行復命書
http://why.kenji.ne.jp/shiryo/sonota/301shugaku.html

 この頃の賢治の考え方がわかる、貴重な資料です。

 内容は小樽の見学から始まっていますので、この津軽海峡や函館
港はまだ旅行気分だったのでしょう。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

青函連絡船の歴史1(初期)
https://pucchi.net/hokkaido/train/ship_seikan1.php

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 1908年3月7日、青函トンネル開通まで続く国鉄による青函連絡船
が開業しました。開業時の所要時間は約6時間で、1船目である蒸気
船「比羅夫丸(LTJR)」が1日1往復しました。1ヵ月後の4月4日には
「田村丸(LFJF)」も加わって1日2往復、所要時間4時間と短縮され
ました。

 1914年からは、艀(はしけ)「車運丸」が鉄道車両運送を開始、19
24年には初の列車車両運搬も可能な渡船「翔鳳丸」が運航すること
になりました。

 しかしある問題がありました。本州の鉄道車両の連結器は創業以
来イギリス由来のため「ねじ式」、一方の北海道は創業以来アメリ
カ由来の「自動連結器」でした。統一しなければいけなかったので
すが、翔鳳丸が北海道の連結器に対応して作られており、1925年7
月に一斉に交換されました。北海道に合わせて全国が変更されてい
ったというわけです。

 1925年8月には本格的に貨車運搬がはじまりました。従来の艀よ
りも効率がよく、北海道の新鮮な魚介類が関東に輸送されるように
なったはじまりでもありました。

 1926年11月からは4本線路を備えた貨物専用の船「青函丸」も導
入されました。1944年には現在のフェリーターミナル近くに有川桟
橋も開設され貨物専用積み下ろし場として活用されました。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

-〔春と修羅第二集(016)〕----------------------------------

「津軽海峡」「函館港春夜光景」

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■「津軽海峡」
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(本文=定稿)
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一一六
     津軽海峡
                     一九二四、五、一九、

南には黒い層積雲の棚ができて
二つの古びた緑青いろの半島が
こもごもひるの疲れを払ふ
   ……しばしば海霧を析出する
     二つの潮の交会点……
波は潜まりやきらびやかな点々や
反覆される異種の角度の正反射
あるひは葱緑と銀との縞を織り
また錫病と伯林青プルシャンブルウ
水がその七いろの衣裳をかへて
朋に誇ってゐるときに
   ……かしまびやしく澄明な
     東方風の結婚式……
船はけむりを南にながし
水脉は凄美な砒素鏡になる

早くも北の陽ざしの中に
蝦夷の陸地の起伏をふくみ
また雨雲の渦巻く黒い尾をのぞむ

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(下書稿2推敲後)
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一一六
     津軽海峡
                     一九二四、五、一九、

南には黒い層積雲の棚ができて
二つの古びた緑青いろの半島が
ひるの疲れをこもごも湛えまた払い
   ……しばしば海霧を析出する
     二つの潮の交会点……
波は潜まりやきらびやかな点々や
反覆される異種の角度の正反射
  ……その面映ゆこい正反射……
あるひは葱緑と銀との縞を織り
また錫病と伯林青プルシャンブリュー
水がその七いろの衣裳をかへて
互に誇ってゐるときに
けむりはながれ
水脉はさびしい砒素鏡になる
   ……喧びやしく澄明な
     東方風の結婚式……
船はけむりをしりへにながし
水脉はさびしい砒素鏡になる

船は陸地の起伏をふくみ
また雨雲ニムブスの渦巻く黒い尾をのぞむ

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(下書稿2推敲前)
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一一六
     修学旅行
                     一九二四、五、一九、

東には黒い層積雲の棚ができて
古びた緑青いろの半島が
ひるの疲れを湛えてゐる
その突端と青い島とのさけめから
ひとつの漁船がまばゆく尖って現はれる
   ……そのとき飢えたこどもらは
     植民小屋の入口の雪から
     知らない鳥の足跡をたべた……
波は潜まりやきらびやかな点々や
反覆される瑞西牧笛コーラングレーの水平や
  ……その面映ゆこい正反射……
あるひは葱緑と銀との縞を織り
また錫病と伯林青プルシャンブリュー
水がその七いろの衣裳をかへて
わたくしに誇ってゐるときに
   ……かしまびやしく澄明な東方風の結婚式……
けむりはながれ
水脉はさびしい砒素鏡になる
わたくしは南の一つの山彙を見
また雨雲ニムブスの渦巻く黒い尾をのぞむ

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(下書稿1推敲後)
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一一六
     水の結婚
                     一九二四、五、一九、

東には黒い層積雲の棚ができて
古びた緑青いろの半島が
ひるの寂寞をたたえてゐる
その突端と青い島とのさけめから
ひとつの漁船がまばゆく尖って現はれる

波は潜まりやきらびやかな点々や
反覆される瑞西牧笛コーラングレーの水平や
  その面映ゆいいくたびの正反射
あるひは海蒼と銀との縞を織り
また錫病と伯林青プルシャンブリュー
水がその七いろの衣裳をかへて
   ……東方風のあかるく喧澄な結婚式……
わたくしに誇ってゐるときに
けむりはながれ
水脉はさびしい砒素鏡になる

わたくしは南の一つの山彙を見
また雨雲ニムブスの渦巻く黒い尾をのぞむ

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(下書稿1推敲前)
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一一六
     水の結婚
                     一九二四、五、一九、

東には黒い乱積雲の椀ができて
古びた緑青いろの半島が
ひるの寂寞をたたえてゐる
その突端と青い島とのさけめから
ひとつの漁船がまばゆく尖って現はれる
波は潜まりやきらびやかな点々や
反覆される四部輪唱の水平や
  ……面映ゆい数々の正反射……
あるひは海蒼と銀との縞を織り
また錫病と伯林青プルシャンブリュー
水がその七いろの衣裳をかへて
ひとびとに誇ってゐるときに
   ……東方風のあかるく喧澄な結婚式……
けむりはながれ
水脉はさびしい砒素鏡になる

わたくしは南の一つの天の氷河を見
また竜巻の渦巻く黒い尾をのぞむ

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■「函館港春夜光景」
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(本文=下書稿4推敲後)
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一一八
     函館港春夜光景
                     一九二四、五、一九、

地球照ある七日の月が、
海峡の西にかかって、
岬の黒い山々が
雲をかぶってたゞずめば、
そのうら寒い螺鈿の雲も、
またおぞましく呼吸する
そこに喜歌劇オルフィウス風の、
赤い酒精を照明し、
妖蠱奇怪な虹の汁をそゝいで、
春と夏とを交雑し
水と陸との市場をつくる
  ……………………きたわいな
  つじうらはっけがきたわいな
  オダルハコダテガスタルダイト、
  ハコダテネムロインデコライト
  マオカヨコハマ船燈みどり、
  フナカハロモエ汽笛は八時
  うんとそんきのはやわかり、
  かいりくいっしょにわかります
海ぞこのマクロフィスティス群にもまがふ、
巨桜の花の梢には、
いちいちに氷質の電燈を盛り、
朱と蒼白のうっこんかうに、
海百合の椀を示せば
釧路地引の親方連は、
まなじり遠く酒を汲み、
魚の歯したワッサーマンは、
狂ほしく灯影を過ぎる
  ……五がつはこだてこうえんち、
    えんだんまちびとねがひごと、
    うみはうちそと日本うみ、
    りゃうばのあたりもわかります……
夜ぞらにふるふビオロンと銅鑼、
セミサンにもつれる笛や、
繰りかへす螺のスケルツォ
あはれマドロス田谷力三は、
ひとりセビラの床屋を唱ひ、
高田正夫はその一党と、
紙の服着てタンゴを踊る
このとき海霧ガスはふたたび襲ひ
はじめは翔ける火蛋白石や
やがては丘と広場をつゝみ
月長石の映えする雨に
孤光わびしい陶磁とかはり、
白のテントもつめたくぬれて、
紅蟹まどふバナナの森を、
辛くつぶやくクラリネット

風はバビロン柳をはらひ、
またときめかす花梅のかほり、
青いえりしたフランス兵は
桜の枝をさゝげてわらひ
船渠会社の観桜団が
瓶をかざして広場を穫れば
汽笛はふるひ犬吠えて
地照かぐろい七日の月は
日本海の雲にかくれる

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(下書稿4推敲前)
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一一八
     函館港春夜光景
                     一九二四、五、一九、

地球照ある七日の月が、海峡の西にかかって、岬の黒い山々が
雲をかぶってたゞずめば、そのうら寒い螺鈿の雲も、またおぞまし
く呼吸する
そこに喜歌劇オルフィウス風の、赤い酒精を照明し、妖蠱奇怪な虹
の汁をそゝいで、
水と陸とを重唱せしめ、春と夏とを交雑する 妖蠱綺奕の丘草群
  きたきたきたきたきたわいな
  つじうらはっけがきたわいな
  うんとそんきのはやわかり、
  かいりくいっしょにわかります
海ぞこのマクロフィスティス群にもまがふ、巨桜の花の梢には、
いちいちに氷質の電燈を盛り、朱と蒼白のうっこんかうに、海百合
の椀を示せば
釧路地引の親方連は、まなじり遠く酒を汲み、魚の歯したワッサー
マンは、
狂ほしく灯影を過ぎる
  五がつはこだてこうえんち、えんだんまちびとねがひごと、
  うみはそとうみ日本うみ、りゃうばのあたりもわかります
夜ぞらにふるふビオロンと銅鑼、セミサンにもつれる笛や、繰りか
へす螺のスケルツォ
あはれマドロス田谷力三は、海の安藤文子と唱ひ、
高田正夫は烏と黒い、紙の服着て典雅に踊る
青いえりしたフランス兵は、桜の枝をさゝげてわらひ、船渠会社の
観桜団が
瓶をかざして広場を穫れば、ふたゝび襲ふ海霧のおぼろ、
孤光わびしい陶磁とかはり、白のテントもつめたくぬれて、
巨蟹もとほるバナナの森に、ひとりつぶやくクラリオネット

風はバビロン柳をはらひ、またときめかす花梅のかほり、
海霧ガスのちぎれの火蛋白石ファイヤオーパルと 青い螺
鈿はそらにうかんで
残りのかぐろい七日の月は、いま海峡の雲にかくれる

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(下書稿3推敲後)
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一一八
     函館港春夜光景
                     一九二四、五、一九、

地球照ある七日の月が
海峡の西にかかって
岬の黒い山山が
そのうら寒い螺鈿の雲も
またおぞましく呼吸する
そこに喜歌劇「オルフィウス」風の
赤い酒精を照明し
奇怪な虹の汁をそゝいで
水と陸とを唱和させ
春と夏とを交雑する
凜烈妖治を交雑する
  キタキタキタキタ キタイワナ
  ハコダテツヅウラ キタイワナ
  ウンキニソンキノ ハヤワカリ
  カイリクイッショニ ワカリマス
  エンダンマチビト ネガヒゴト
  五ガツハマルヤマコウエンチ
  ソハウミ ウチウミ 日本ウミ
  リャウバのアタリモ ワカリマス
海ぞこのマクロフィスティス群にもまがふ
巨桜の花の梢には
いちいちに氷玲の電燈を盛り
朱と蒼白のうっこんかうに
海百合の椀を示せば
釧路地網の親方連は
まなじり遠く黄の酒を汲み
魚の歯したワッサーマンは
原と海との雑交場裡
肩狂ほしく灯影を過ぎる
  ハコダテブロンヅネムロユキ
  アヲモリハイエンミナトツキ
夜ぞらにふるふビオロンと銅鑼
セミサンにもつれる笛や
繰りかへす螺のスケルツォ
青いえりした水兵たちが
桜の枝をささげてわらひ
船渠会社の観桜団が
瓶をかざして広場を穫れば
風はバビロン柳をはらひ
またときめかす花梅のかほり
あゝ緑のいたやの萌えに
なほ凛冽の冬を軋らせ
ふたたび襲ふ海霧のおぼろ
弧光さびしく真珠をかゝげ
巨蟹と青いバナナの森に
ひとりつぶやくクラリオネット
白のテントもつめたくぬれて
紅蟹、青のバナナにまじり
魚はいたやの梢をよぎる
  ……春と夏とのデュイエット
    水と陸との雑婚市……
瓦斯の灯影とはるかにながれ
暗い螺鈿はそらにうかんで
残りの黒い七日の月が
いま海峡の雲にかくれる

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(下書稿3推敲前)
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一一八
     函館港春夜光景
                     一九二四、五、一九、

残りはくらい七日の月が
海峡の西にかかって
岬の黒い山山が
うら寒い雲をかぶれば
その雲もまたおぞましく呼吸する
そこに喜歌劇「オルフィウス」風の
奇怪な虹の汁がそそがれ
その淫蕩な赤い酒精にとかされながら
ほのびかりする霧雨や
うかび立つ花樹の幾むら
海ぞこのマクロフィスティス群にもまがふ
巨桜の花の梢には
いちいちに氷質の電燈を盛り
朱と蒼白のうっこんかうに
海百合の椀を示せば
釧路地網の親方連は
まなじり遠く葡萄酒を汲み
魚の歯したワッサーマンは
狂ほしく灯影を過ぎる
夜ぞらにふるふビオロンと銅鑼
セミサンにもつれる笛や
繰りかへす螺のスケルツォ
青いえりした水兵たちが
桜の枝をささげてわらひ
船渠会社の観桜団が
瓶をかざして広場を穫れば
ふたゝび襲ふ海霧のおぼろ
白のテントもつめたくぬれて
紅蟹、青のバナナにまじり
魚が弧光の梢をよぎる
  ネムロムロランインディゴライト
風はバビロン柳をはらひ
またときめかす花梅のかほり
  春と夏とのデュイエット
  水と陸との四重婚
二たびさらに展望すれば
さくらは水と淡く咲き
瓦斯燈影とはるかにながれ
青い螺鈿はそらにうかんで
残りの黒い七日の月が
いま海峡の雲にかくれる

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(下書稿2推敲後)
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一一八
     函館港春夜光景
                     一九二四、五、一九、

残りはくらい七日の月が
海峡の西にかかって
まっ黒な臥牛の山に
湧きあがるひとむらの海霧ガス
……岬の黒い山山が
うら寒い雲をかぶれば
おぞましく呼吸するころ
そこに喜歌劇「オロフォイス」風の
奇怪な虹の汁がそそがれ
その淫蕩な赤い酒精にとかされながら
きれぎれそゝぐ霧雨や うかび立つ花樹の幾むら
海ぞこのマクロフィスティス群にもまがふ
桜の花の梢には
いちいちに氷質の電燈を盛り
蒼白エンクリスタスのうっこんかうに
海百合の椀を示せば
釧路漁網の親方連は
まなじり遠く黄の酒を汲み
魚の歯したワッサーマンは
狂ほしく 灯影を過ぎる
夜ぞらにふるふビオロンと銅鑼
セミサンにもつれる笛や
繰りかへす螺のスケルツォ
青いえりした水兵たちが
桜の枝をささげてわらひ
船渠会社の職工団が
日高曠野の観光団が
草の広場を獲得すれば
ふたゝび襲ふ海霧のおぼろ
錫の粉噴く弧光の塔
ハローを装ふ瓦斯燈の列
白のテントもつめたくぬれて
紅蟹青のバナナにまじり
風はバビラン柳をはらひ
またときめかす花梅のかほり
二たびさらに展望すれば
さくらは水のやうに咲き
瓦斯燈はながれ
青い螺鈿はそらにうかんで
汽笛は遠く告別を吼え
残りは黒い五日の月が
   海峡の雲にかくれる


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(下書稿2推敲前)
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一一八
     函館港春夜真景
                     一九二四、五、一九、

岬の海坊主列
うら寒い雲をかぶれば
その雲もまたおぞましく呼吸する
そこに喜歌劇「オロフォイス」風の
奇怪な虹の汁がそそがれ
その淫蕩な赤い酒精にとかされながら
底びかりする霧雨やうかび立つ花樹の幾むら
  ……春と夏とのデュイエット
    水と陸との四重婚……
海ぞこのマクロフィスティス群にもまがふ
桜の花の梢には
いちいちに氷質の電燈を盛り
蒼白エンクリスタスのうっこんかうに
海百合の椀を示せば
釧路漁網の親方連は
まなじり遠く黄の酒を汲み
船渠会社の職工団は
おのおの黒の瓶をかざして
草の広場を獲得すれば
夜ぞらにふるふビオロンと銅鑼
セミサンにもつれる笛や
繰りかへす螺のスケルツォ
青いえりした水兵たちは
桜の枝をささげてわらひ
魚の歯したワッサーマンは
狂ほしく 灯影を過ぎる
風はバビラン柳をはらひ
またときめかす花梅のかほり
火照りに赤く翔け行く雲は
さらに桜の氷燈を盛り
青い螺鈿を泛べるそらは
さやかに萌えるいたやを映す
     オダル ブロンヅ カスタルダイト
     クシロ ハナサカ クロソベリール
     ネムロ ムロラン インディゴライト
     マオカ ハイエン ニコライフスク


汽笛は遠く告別を吼え
火花は青く雲まにあがる
さらば五月の妖園と影
水と陸との雑交市場



二たびさらに俯瞰すれば
さくらは水のやうに咲き
瓦斯燈はながれ
青い螺鈿はそらにうかんで
もう眺望のまなこもいたみ
はるかなまっくろな海にのがれる

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(下書稿1)
------------------------------------------------------------

一一八
     函館港春夜光景
                     一九二四、五、一九、

海ぞこのマクロフィスティス群にもまがふ
桜の花の梢には
いちいちに氷質の電燈を盛りまた
黒曜玻璃の夜の空に
奇怪な虹の汁がそゝげば
その淫蕩な赤い酒精にとかされながら
底びかりする霧雨や
冴え冴え鳴らす黄金の噴泉
うっこんかうの花杯の列は
また海百合の椀もまじえ
瓦斯の灯に照るバナナの森は
巨きな紅の蟹も這はせる

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-〔文語詩稿未定稿(043)〕----------------------------------
-----------------------------------------------------------
■「〔最も親しき友らにさへこれを秘して〕」
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(本文=下書稿推敲後)
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     〔最も親しき友らにさへこれを秘して〕

最も親しき友らにさへこれを秘して
ふたゝびひとりわがあへぎ悩めるに
不純の想を包みて病を問ふと名をかりて
あるべきならぬなが夢の
  (まことにあらぬ夢なれや
   われに属する財はなく
   わが身は病と戦ひつ
   辛く業をばなしけるを)
あらゆる詐術の成らざりしより
我を呪ひて殺さんとするか
然らば記せよ
女と思ひて今日までは許しても来つれ
今や生くるも死するも
なんぢが曲意非礼を忘れじ
もしもなれに
一分反省の心あらば
ふたゝびわが名を人に言はず
たゞひたすらにかの大曼陀羅のおん前にして
この野の福祉を祈りつゝ
なべてこの野にたつきせん
名なきをみなのあらんごと
こゝろすなほに生きよかし

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(下書稿推敲前)
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体温朝より三十八度なれども
絶対の安静を要するにより
藤原にさへこれを秘して
わがあへぎ悩めるに
汝ふたゝび不純の想を
包みて病を問ふと来り
訪ふはあるべきならぬなが夢のねがひ
然らば記せよ
女と思ひて今日までは許しても来つれ
今や生くるも死するも
なんぢが曲意非礼を忘れじ

--〔後記〕--------------------------------------------------

 「第二集」の作品の変遷をたどっているわけですが、相変わらず
華麗なものだと改めて感心しています。

 今週は抗ガン剤投与の週なので、火曜日から金曜日まで、ほぼ家
で寝ていました。ガンを叩く効果はあがっているようなのですが、
今回はとうとうアレルギーが出て、一つのクスリが使えなくなりま
した。どこまで頑張れるか微妙なところです。

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