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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第921号--2016.10.15------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「宮沢賢治年譜(57)1928年-3」「〔曇りてとざし〕」

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-〔話題〕---------------------------------------------------
「宮沢賢治年譜(57)1928年-3」
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 今回は伊豆大島から帰って来た賢治が、東京に滞在していた時期
のみを紹介します。

 賢治の東京での立ち回り先は、図書館、展覧会、劇場といったと
ころです。水産物の調査という名目もあった東京行きですが、一番
熱心に行ったのは「浮世絵展覧会」だったようです。

 会期中に何度も展示作品を換えていますが、賢治はそのたびに行
っています。

 賢治は浮世絵のコレクターでもあったとされ、春画なども持って
いたと伝わっています。そのコレクションは失われてしまったのか、
それとも宮沢家に今も保存されているのか、詳しい情報はないよう
です。

 賢治はまた、「浮世絵版画の話」という原稿も書いています。

浮世絵版画の話
http://why.kenji.ne.jp/shiryo/sonota/502ukiyoe.html

 東京滞在中に、数編の詩をノートに書き残しています。「東京」
詩篇と呼ばれるもので、今回いくつかの詩を紹介しています。

 賢治は何度も東京に行っていますが、まとまった詩が残されてい
るのは、1928年、このときのものだけのようです。

 そして花巻に帰ると、教師をやめて挑んだ羅須地人協会の活動も
いよいよ終幕を迎えるときがやってきます。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

浮世絵の中に流れる風
http://cc9.easymyweb.jp/member/michia/default.asp?c_id=85339

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 賢治は浮世絵に強い関心をもち、コレクターでもありました。

 浮世絵について、「浮世絵版画の話」、「浮世絵鑑別法」、「浮
世絵広告文」を書き、浮世絵に言及した詩もあります。

……

  あそこの農夫の合羽のはじが
  どこかの風に鋭く截りとられて来たことは
  一千八百十年代の
  佐野喜の木版に相当する

……(「丘の眩惑」一九二二、一、一二、『春と修羅』)

 浮世絵の情景を使って、現実の農夫の合羽の翻る様を描きます。
〈佐野喜〉は、安藤広重の「名所江戸百景」「花鳥大短冊」などの
版元です。そのなかで激しい雨と風の動きを感じさせる絵は、「名
所江戸百景」の「大はしあたけの夕立」ですが、翻るものは描かれ
ません。保永堂版「東海道五十三次」の「庄野白雨」には、風に翻
る衣服が描かれますが版元は佐野喜ではありません。賢治が版元を
記憶違いしたのでなければ、〈截りとる〉と表現されているのは、
「大はしあたけのゆうだち」の雨の線から風の鋭さを想定したので
しょうか。

 次の詩は浮世絵の中の風景を風で表現します。

……

  氷点は摂氏十度であって
  雪はあたかも風の積った綿であり

……(「浮世絵展覧会印象」 一九二八、六、一五) 

 雪は風に置き換えられた事によって、和紙の軽さと乾きと暖かさ
が強く感じられます。「浮世絵版画の話」には、和紙の繊維の〈膨
らみ〉や〈彩色されない白〉についての微妙な記述が見られ、この
詩に見られるような、繊細な感覚を裏付けます。

 1928年6月6日〜25日、報知新聞社主催の「御大典記念徳
川時代名作浮世絵展覧会」が、東京府立美術館で開かれました。賢
治は15日、16日、21日と絵の入れ替えごとに訪れ、清長53
枚、歌麿236枚、春章19枚を見ています。

 「浮世絵展覧会印象」はそのときの印象を描いた127行の長詩
です。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

--〔1928年-3〕----------------------------------------------
32歳(昭和三年)
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6月
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14日、大島より帰京。なお、この上京時に関するメモが二つあり、
予定か否か明確でないが併記すれば次のとおりである。

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〔しののめ春の鴇の火を〕下書稿三のメモ
(カッコ内はMEMO FLORA手帳メモ)
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14日 帰郷
15日 図書館 浮展 新演
16日 図書館 浮展 築地(図、浮、築→P)
17日 図書館(築)
18日 図書館(新、)
19日 農商務省(新、)
20日 農商務省(市、)
21日 図書館 浮展(図、浮、本、明)
22日 甲府(−甲府)
23日 長野(−長野)
24日 新潟(−新潟)
25日 山形(−山形)
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15日、「浮世絵展覧会印象」

メモに「図書館 浮展 新演」とあるが、図書館は上野公園の帝国
図書館、「浮展」は同じく上野公園内府立美術館で開催中の「御大
典記念徳川時代名作浮世絵展覧会」、「新演」は新橋演舞場か。

 図書館や農林省での調査研究のほかに、今回東上の目的が浮世絵
展鑑賞にあったことは勿論で、第一回陳列(6日から10日まで)
の52人の絵師、236枚は到着後の9日か10日に当然見たこと
だろう。第二回陳列(11日から15日までは、鳥居清長53枚、
喜多川歌麿147枚で、この最終日に見たわけである。また15日
から19日まで「春章デー」として勝川春章19点の出品があった。

16日、宮沢クニあて返信(書簡238)。

 メモ「図書館 浮展 築地」この日午前は晴れたが午後はまた雨
となった。朝から図書館に行って調べ、午後は浮世絵展第三回陳列
(16日から20日)を見たのである。春信128枚、春章70枚、
春重7枚が出品された。

 メモの「築地」は築地小劇場。16日はゲオルグ・カイザア作
「二人のオリイフェル」(13日から24日まで)を上演中であっ
た。

18日、「丸善階上喫煙室小景」

19日、「神田の夜」

 この作品中で「日活館で田中がタクトをふってゐる」とあるが、
「日活館」は神田区表猿楽町の神田日活館で、田中豊明が6月15
日から21日まで「総合曲 謎のトランク」の指揮をした。

20日、メモ「市、」は市村座の意味か。

市村座(2日から19日まで)河竹黙阿弥作「天衣上野初花」七幕
「月柳五条橋」(沢村訥子、市川小太夫、中村芝鶴、河原崎権十郎)

21日、浮世絵展は本日より第四回陳列(21日から25日まで)。
初期版画121枚、写楽70枚が出品された。メモ「本、明、」は
本郷座、明治座の意味か。

本郷座(1日から25日まで)小山内薫作「金玉均」九場、岡鬼太
郎作「新てるて姫」一幕、「其噂桜色時」、竹柴其水作「遠山桜天
保日記四幕(市川猿之助他)。

明治座(1日から25日まで)「碇知盛」三場、舞踏劇「与那国物
語」岡鬼太郎作「鞍馬源氏」河竹黙阿弥作「極付幡随院長兵衛」三
幕、大喜利「勢獅子」(中村吉右衛門他)

22日、「甲府」とメモにあるが、24日には帰花しているので、
甲府−長野−新潟−山形の予定をとりやめたかと思われる。

24日、「新潟」とメモにあるが、この日帰花。

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二月、第一回普通選挙
五月、野口英世西アフリカで没
五月、全国農民組合結成
十一月、天皇即位礼

この年、県下旱魃40日以上に及び、陸稲、野菜ほとんど全滅。9
月14日に至りようやく降雨。

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山村暮鳥「暮鳥詩集」
河上肇「資本論入門」
「銅鑼」16号刊行。この号で廃刊
林芙美子「放浪記」連載開始
高橋新吉「高橋新吉詩集」
季刊「詩と詩論」創刊
草野心平「第百階級」
萩原朔太郎「詩の原理」

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政次郎 54歳
イチ 51歳 
シゲ 27歳
清六 24歳
クニ 21歳 9月5日、刈屋主計と養子縁組

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     浮世絵展覧会印象
                     一九二八、六、一五、

膠とわづかの明礬が
  ……おゝ その超絶顕微鏡的に
    微細精巧の億兆の網……
まっ白な楮の繊維を連結して
湿気によってごく敏感に増減し
気温によっていみじくいみじく呼吸する
長方形のごくたよりない一つの薄い層をつくる
  いまそこに
  あやしく刻みいだされる
  雪肉乃至象牙のいろの半肉彫像
  愛染される
  一乃至九の単色調
  それは光波のたびごとに
  もろくも崩れて色あせる
見たまへこれら古い時代の数十の頬は
あるひは解き得ぬわらひを湛え
あるひは解き得てあまりに熱い情熱を
その細やかな眼にも移して
褐色タイルの方室のなか
茶色なラッグの壁上に
巨きな四次の軌跡をのぞく
窓でもあるかとかかってゐる
高雅優美な信教と
風韻性の遺伝をもった
王国日本の洗練された紳士女が
つゝましくいとつゝましくその一一の
十二平方デシにも充たぬ
小さな紙片をへめぐって
或はその愛欲のあまりにもやさしい模型から
胸のなかに燃え出でやうとする焔を
はるかに遠い時空のかなたに浄化して
足音軽く眉も気高く行きつくし
あるひはこれらの遠い時空の隔りを
たゞちに紙片の中に移って
その古い慾情の香を呼吸して
こゝろもそらに足もうつろに行き過ぎる

そこには苹果青のゆたかな草地や
曇りのうすいそらをうつしてたゝえる水や
はるかに光る小さな赤い鳥居から
幾列飾る硅孔雀石の杉の木や

    永久的な神仙国の創建者
    形によれる最偉大な童話の作家

どんよりとよどんだ大気のなかでは
風も大へんものうくて
あまりにもなやましいその人は
丘阜に立ってその陶製の盃の
一つを二つを三つを投げれば
わづかに波立つその膠質の黄いろの波
  その一一の波こそは
  こゝでは巨きな事蹟である
それに答へてあらはれるのは
はじめてまばゆい白の雲
それは小松を点々のせた
黄いろな丘をめぐってこっちへうごいてくる

    一つのちがったatmosphereと
    無邪気な地物の設計者
人はやっぱり秋には
夭穂を叩いたり
鳴子を引いたりするけれども
氷点は摂氏十度であって
雪はあたかも風の積った綿であり
柳の波に積むときも
まったくちがった重力法によらねばならぬ
夏には雨が
黒いそらから降るけれども
笹ぶねをうごかすものは
風よりはむしろ好奇の意志であり
蓮はすべて lotus  といふ種類で
開くときには鼓のやうに
暮の空気をふるはせる
しかもこれらの童期はやがて
熱くまばゆい青春になり
ゆたかな愛燐の瞳もおどり
またそのしづかな筋骨も軋る
赤い花火とはるかにひかる水のいろ
たとへばまぐろのさしみのやうに
妖治な赤い唇や
その眼のまはりに
あゝ風の影とも見え
また紙がにじみ出したとも見える
このはじらひのうすい空色
青々としてそり落された淫蕩な眉
鋭い二日の月もかゝれば
つかれてうるむ瞳にうつる
町並の屋根の灰いろをした正反射
黒いそらから風が通れば
やなぎもゆれて
風のあとから過ぎる情炎
やがては ultra younthfulness の
その数々の風景と影
赤くくまどる奇怪な頬や
逞ましく人を恐れぬ咆哮や
魔神はひとにのりうつり
青くくまどるひたひもゆがみ
うつろの瞳もあやしく伏せて
修弥頂上から舌を出すひと
青い死相を眼に湛え
蘆の花咲く迷の国の渚に立って
髪もみだれて刃も寒く
怪しく所作する死の舞
白衣に黒の髪みだれ
死をくまどれる青の面
雪の反射のなかにして
鉄の鏡をさゝげる人や
あゝ浮世絵の命は刹那
あらゆる刹那のなやみも夢も
にかはと楮のごく敏感なシートの上に
化石のやうに固定され
しかもそれらは空気に息づき
光に色のすがたをも変へ
湿気にその身を増減して
幾片幾片
不敵な微笑をつゞけてゐる

高雅の     ヽヽヽ
        ヽヽヽをもった
日本
          ヽヽヽ
つゝましく いとつゝましく


おそらくこれらの     ヽヽヽたちは
その    をばことさら     より    し
その    は              ヽヽヽ

やがて来るべき新らしい時代のために
わらっておのおの十字架を負ふ
そのやさしく勇気ある日本の紳士女の群は
すべての苦痛をもまた快楽と感じ得る

褐色タイルのこのビルデングのしづかな空気
天の窓張る乳いろガラスの薄やみのなかから
青い桜の下暗のなかに
いとつゝましく漂ひ出でる

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     丸善階上喫煙室小景
                     一九二八、六、一八、

ほとんど初期の春信みたいな色どりで
またわざと古びた青磁のいろの窓かけと
ごく落ちついた陰影を飾ったこの室に
わたくしはひとつの疑問をもつ
壁をめぐってソーファと椅子がめぐらされ
そいつがみんな共いろで
たいへん品よくできてはゐるが
どういふわけかどの壁も
ちゃうどそれらの椅子やソーファのすぐ上で
椅子では一つソーファは四つ
団子のやうににじんでゐる
 ……高い椅子には高いところで
   低いソーファは低いところで
   壁がふしぎににじんでゐる……
     そらにはうかぶ鯖の雲
     築地の上にはひかってかゝる雲の峯……
たちまちひとり
青じろい眼とこけた頬との持主が
奇蹟のやうにソーファにすはる
それから頭が機械のやうに
うしろの壁へよりかゝる
  なるほどなるほどかう云ふわけだ
  二十世紀の日本では
  学校といふ特殊な機関がたくさんあって
  その高級な種類のなかの青年たちは
  あんまりじぶんの勉強が
  永くかかってどうやら
  若さもなくなりさうで
  とてもこらえてゐられないので
  大てい椿か鰯の油を頭につける
  そして充分女や酒や登山のことを考へたうへ
  ドイツ或は英語の本でも読まねばならぬ
  それがあすこの壁に残って次の世紀へ送られる
     向ふはちゃうど建築中
     ごっしんふうと湯気をふきだす蒸気槌
     のぼってざぁっとコンクリートをそゝぐ函
そこで隅にはどこかの沼か
陰気な町の植木店から
伐りとって来た東洋趣味の蘆もそよぐといふわけだ
  風が吹き
  電車がきしり
  煙突のさきはまはるまはる
またはいってくる
仕立の服の見本をつけた
まだうら若いひとりの紳士
その人はいまごくつゝましく煙草をだして
  電車がきしり
  自動車が鳴り
  自動車が鳴り
ごくつゝましくマッチをすれば
  コンクリートの函はのぼって
  青ぞら青ぞら ひかる鯖ぐも
ほう 何たる驚異
マッチがみんな爆発をして
ひとはあわてゝ白金製の指環をはめて手をこする
  ……その白金が
    大ばくはつの原因ですよ……
      ビルデングの黄の煉瓦
      波のやうにひかり
      ひるに銀杏も
      ぼろぼろになった電線もゆれ
      ユッカのいろの窿穹ドームの上で
      避雷針のさきも鋭くひかる

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     神田の夜
                    一九二八、六、一九、

十二時過ぎれば稲びかり
労れた電車は結束をして
遠くの車庫に帰ってしまひ
雲の向ふであるひははるかな南の方で
口に巨きなラッパをあてた
グッタペルカのライオンが
ビールが四樽売れたと吠える
    ……赤い牡丹の更紗染
      冴え冴え燃えるネオン燈
      白鳥の頸 睡蓮ロトスの火
      雲にはるかな希望をのせて
      いまふくよかにねむる少年……
雲の向ふでまたけたたましくベルが鳴る
ベルがはげしく鳴るけれども
それも間もなくねむってしまひ
睡らないのは
重量菓子屋の裏二階
薄明 自働車運転手らの黄いろな巣
店ではつめたいガラスのなかで
残りの青く澱んだ葛の餅もひかれば
アスティルベの穂もさびしく枯れる
         χ八乗マイナスyの八乗を
         ぼくが分解したらばさ
         残りが消えてχマイナスyが12になったので
         すぐ前の式から解いたらさ
         χはねえ、
            顔の茶いろな子猫でさぁ
         yの方はさ、
         yの方はさ
            自転車の前のラムプだとさぁ……
いなづまがさし
雨がきらきらひかってふれば
ペーヴメントも
道路工事の車もぬれる
    ……そらは火照りの
      そらは火照りの……
        (二十年后の日本の智識階級は
         いったいどこにゐるのであらう)
        Are you all stop here ?
           said the gray rat.
        I don't know.
               said Grip.
        Gray rat = is equal to Shuzo Takata
        Grip equal ……
        Grip なんかどうしてもとてもぼくだけでない
    さうです夜は
    水色の水が鉛管の中へつまってゐるのです
    ぼくとこの先生がさぁ
    日本語のなかで英語を云ふときは
    カナで書くやうごくおだやかに発音するとさう云ってたよ
湯屋では何か
アラビヤ風の巨きな魔法がされてゐて
夜中の湯気が行きどこもなく立ってゐる
 
  シャツはみんな袖のせまいのだけなんだよう
  日活館で田中がタクトをふってゐる

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      自働車群夜となる

博物館も展覧会もとびらをしめて
黄いろなほこりも朧ろに甘くなるころは
その公園の特にもうすくらい青木通りに
じつにたくさんの自働車が
行水をする黒い烏の群のやうに集まって
行ったり来たりほこりをたてゝまはったり
とまって葉巻をふかすやうに
ぱっぱと青いけむりをたてたり
つひには一列長くならんで
往来の紳士やペンテッドレデイをばかにして
かはりばんこに蛙のやうに
グッグッグッグとラッパを鳴らす
 
      マケイシュバラの粗野な像
 
最后に六代菊五郎氏が 赤むじゃくらの頬ひげに
白とみどりのよろひをつけて
水に溺れた蒙古の国の隊長になり
毎日ちがったそのでたらめのおどりをやって
昔ながらの高く奇怪な遺伝をもった
仲間の役者もふきださせ
幕が下がれば十時がうって
おもてはいっぱい巨きな黒い烏の群
きまった車は次次ヘッドライトをつけて
電車の線路へすべって出るし
きまらないのは磁石のやうに
一つぶ二つぶ砂鉄のかけらを吸ひつけて
まもなくピカリとあかしをつける
四列も五列のぞろぞろぞろぞろ車がならんで通って行くと
三等四等をやっとの思ひで芝居だけ見た人たちは
肩をすぼめて一列になり
鬼に追はれる亡者の風に
もうごく仲よく帰って行く

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     公衆食堂(須田町)

あわたゞしき薄明の流れを
泳ぎつゝいそぎ飯を食むわれら
食器の音と青きむさぼりとはいともかなしく
その一枚の皿
硬き床にふれて散るとき
人々は声をあげて警しめ合へり

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[238](1928年6月16日)宮沢クニあて 葉書

(表)岩手県花巻川口町豊沢町 宮沢クニ様

お手紙ありがたう

大島も計画通り済んでいままた東京に帰ってゐます。二十三日から
出て二十六日の午后までに家にかへります。

みなさんによろしく。


-〔文語詩稿未定稿(001)〕----------------------------------
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(本文)
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     〔曇りてとざし〕

曇りてとざし
風にゆる
それみづからぞ樹のこゝろ

光にぬるみ
気に析くる
そのこと巌のこゝろなり

樹の一本は一つの木
規矩なき巌はたゞ巌

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(下書稿推敲前)
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光にぬるみ
気に析くる
そのこと巌のこゝろなり

曇りてとざし
風にゆる
それみづからぞ樹のおもひ

樹の一本は一つの木
規矩なき巌はたゞ巌

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(先駆形口語詩「こゝろ」)
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     こゝろ

光にぬるみ
しづかにける
そのことそれが巌のこゝろ

気流にゆらぎ曇ってとざす
それみづからが樹のこゝろだ

一本の樹は一本の樹
規矩のりない巌はたゞその巌

--〔後記〕--------------------------------------------------

 今回から「文語詩未定稿」の詩を掲載していきます。「未定稿」
だけあって、今までより推敲の跡も簡単なものが多いようです。

 今週は秋の大連に行ってきました。素晴らしい好天で、気持ちの
よい季節でした。今回は2泊のみだったので、疲れもなく元気に帰
ってきました。

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