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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第904号--2016.06.18------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「宮沢賢治年譜(40)1924年-2」「〔すゝきすがるゝ丘なみを〕」

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-〔話題〕---------------------------------------------------
「宮沢賢治年譜(40)1924年-2」
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 1924年の2回目です。4月にいよいよ『春と修羅』が刊行されま
した。このときの「初版本」はあまり売れなかったということです
が、今でも古本屋に出ることはあるそうです。

 天沢退二郎さんが百万円くらいで買ったという話を聞いたので、
今ではもっと高くなっているのだろうと思っていましたが、下の欄
の記事にもあるように、今でも百万円から、もしかしたらそれ以下
で手に入るようです。

 私は初めから諦めていて、一冊一万円の「復刻本」を買ったので
すが、百万円以下なら考えてしまいます。もし東京在住だったら、
古本屋に行ってつい買ってしまいそうですね。

 それから、もう一つの話題が、5月に生徒を連れて修学旅行に行
ったことです。行き先は北海道ですので、前年の樺太旅行に続いて
再び北海道に渡ったことになります。

 函館、小樽、札幌、苫小牧、室蘭と廻り、帰りは室蘭から船に乗
っています。

 修学旅行らしく、いろんな場所を見学し、見聞を広めている印象
ですが、この旅行のことが詳しくわかるのは、帰ってから賢治が学
校に「修学旅行復命書」を買い手提出しているからです。

 下に一部のみ引用していますが、なかなか感動的な文なので、ぜ
ひ全文をごらんください。

修学旅行復命書
http://why.kenji.ne.jp/shiryo/sonota/301shugaku.html

--〔BookMark〕----------------------------------------------

春と修羅(宮沢賢治)初版本
http://ameblo.jp/enen-tokyo/entry-11413610500.html

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 宮沢賢治の春と修羅の初版本です。

 けっこう保存状態はよいですが、箱などは乱暴に扱うと切れそう
な感じです。大正13年4月20日に自費出版されました。部数は初版
1000部、定価は2円40銭でした。実際に売れたのは100部もなかった
と言われています。賢治は大半の刊本を知人などに贈呈することに
なりました。

 神保町の古本屋でたまにみかけます。でも2冊しかみたことはあ
りません(中野書店古書部と一誠堂)。1000部のうち現在はどれく
らい残っているのでしょうか。無名の人から本をもらっても私たち
は普通は捨ててしまうか、物置に積んどくか。。。ですよね。きれ
いに保存していた人には敬服します。

 値段の検索で私のブログ見ている人が多いので値段書きますね。

 ただ、私の物は知り合いからゆずってもらったので値段は参考に
ならないと思います。

(1)値段は「日本の古書店」で検索すると85万円が2店舗ありま
すね。現状態はわかりませんが。

(2)神保町で見た状態のよいものは150万円前後でした。2冊とも
とてもきれいでした。

(3)ヤフーオークションでも5〜6年に1回出品さてますが50万
円くらいですね。2013年3月8日にオークションみたら1件本物初版
が出品されてました。でも書き込みありで箱もぼろぼろでした。こ
れで70万円スタートは高すぎかなと思います。

ご参考になりましたか?

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

--〔1924年-2〕----------------------------------------------
28歳(大正十三年)
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4月
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4日、「二九 休息」

5日、入学式。根子義盛、川村義郎、松田清見ら5回生45名入学。

なお本年度生徒数は1年45名、2年36名、計81名である。授
業料一カ月1円50銭、寄宿生は1年5名、2年2名、計7名。寄
宿費1カ月11円。

6日、「三五 測候所」「四〇 烏」「四五 海蝕台地」「四六山
火」

10日、「五二 嬰児」「五三 休息」

19日、「六九 〔どろの木の下から〕」「一七一 〔いま来た角
に」

20日、本日付で心象スケッチ『春と修羅』を刊行。四六版箱入布
装320頁。定価2円40銭。発行所 東京京橋区南鞘町一七番地
関根書店。発行人 関根喜太郎。印刷者 岩手県花巻川口町一〇九
番地 古田忠太郎。発行部数一〇〇〇部。 題字 尾山篤二郎。自
費出版。

「七三 有明」「七四 〔東の雲ははやくも蜜のいろに燃え〕」
「七五 北上山地の春」

 この日、外山の岩手県種畜場で種馬検査が行われ、賢治もこれを
視察したと推定される。

21日、午後『春と修羅』を斎藤宗次郎の新聞書籍販売店に持参し、
「コンナモノヲ出シマシタ ドーカ批評シテクナンセ」と寄贈。

27日、「七八 春」

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5月
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1日、「東京日日新聞」四面「新刊」(新刊紹介)欄に『春と修羅』
が紹介される。はじめての紹介記事である。

4日、「八六 山火」

6日、「九〇 〔祠の舞えちしゃのいろした草はらに〕」

8日、「九三 〔日脚がぼうとひろがれば〕」

16日、「九九 〔鉄道線路と国道が〕」

18日、「一〇六 〔日はトパーズのかけらをそゝぎ〕」

 午後10時白藤慈秀と共に生徒を引率し、北海道修学旅行へ出発。
帰着後「修学旅行復命書」を提出。

19日、「一一六 津軽海峡」「一一八 函館港春夜光景」

 青森より連絡船で函館。過リン酸工場と五稜郭を見学し、公園で
自由解散して小憩後、再び乗車、小樽へ向かう。一行は二晩車中で
過ごすのである。

20日、午前9時小樽駅着。小樽高等商業学校参観。10時半辞し
小樽公園で40分解散。午後0時半小樽駅出発。1時40分札幌駅
着。駅前の山形屋旅館に宿泊を約し北海道帝国大学付属植物園に到
る。同園博物館を参観、夕刻まで休憩。夜、白藤慈秀は市内に講演
の約束があってそちらへ赴き、賢治は希望者を引率し中島公園へ出
かけ、生徒ははじめてボートにのる。後、公園音楽堂で合唱し、狸
小路を過ぎて、9時半帰宿。

21日、午前7時山形屋を出、札幌麦酒会社へ行く。ついで帝国製
麻会社で講演をきき茶菓の接待を受ける。奇数日は社則で参観を許
さないのである。10時半北海道帝国大学に至り、総長 佐藤昌介
(花巻出身なので旅行出発を延期して待っていてくれた)の歓迎を
うけた。賢治は答礼し、生徒は学生食堂で菓子・牛乳を供される。
ついで中島公園の植民館で農具を見学。停車場へ向かう途中北海道
石灰会社の建物を見、石灰岩抹の製造、使用を考え、ガイドをつと
めてくれた北大の学生に感謝の「行進歌」を合唱し、午後4時3分
またもや車中の人となる。石狩川を見、樽前火山を望み、8時苫小
牧駅前の富士館に宿泊。

22日、「一二三 馬」「一二六 牛」

 苫小牧の製紙工場を見学し、白老、室蘭を経て帰途につく。白藤
慈秀の日記によれば白老午後3時発、室蘭4時着、5時室蘭発だが、
室蘭−青森間連絡船時刻表では室蘭5時ちょうど発で青森へは翌朝
4時20分着となっている。

23日、「一三三 〔つめたい海の水銀が〕」「一三九 夏」
 東北本線時刻表では青森午前6時15分発、花巻着午後1時49
分である。

25日、「一四五 比叡(幻聴)」

3月に花巻農学校を卒業した川村(のち長坂と改姓)俊雄の生計の
一助とするため、童話の原稿を筆写させる。川村筆写稿として現存
するものは「黄いろのトマト」の一部、「紫紺染について」の一部
および「〔ポランの広場〕」だが、筆耕料は川村の記憶によれば1
枚5銭であった。

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6月
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1日、本日付発行の短歌雑誌「自然」(尾山篤二郎主宰)6月号
「最近の書架から」(署名「尾山生」)の中で、『春と修羅』が
批評紹介される。

21日、「二七 鳥の遷移」

 生徒をつれ、翌22日にかけて岩手山登山。

22日、「一五二 林学生」

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4月、田中智学衆議院選挙に立候補、落選
5月、米国排日移民法
7月、パリオリンピック
県下旱天40日に及び各地に水喧嘩起こる
9月、孫文、第二次北伐開始を宣言
10月、盛岡市願教寺炎上、文部省、学校演劇を禁止
11月、横黒線(現JR北上線、横手−黒沢尻)全通

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谷崎潤一郎「痴人の愛」
武者小路実篤「新しき村の今後」
漫画映画「ノンキナトウサン」
西条八十「西条八十童謡全集」
築地小劇場開場
石川善助・尾形亀之助・中野秀人他編詩集「左翼戦線詞華集」
白井喬二「富士に立つ影」
佐藤惣之助「水を歩みて」
中条百合子「伸子」
トーマス・マン「魔の山」
室伏高信「土に還る」
アンドレ・ブルトン「シュルレアリスム宣言」

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政次郎 50歳 七月 暁烏敏来花
イチ 47歳 
シゲ 23歳 11月26日、長男純蔵出生
清六 20歳 5月、徴兵検査甲種合格、12月1日、弘前歩兵第
31連隊入隊(一年志願兵)
クニ 17歳 3月、花巻高女補習科卒業
瀬川コト 28歳 2月4日、仙台、東北帝国大学附属病院で没

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七五
     北上山地の春
                     一九二四、四、二〇、

    1

雪沓とジュートの脚絆
白樺は焔をあげて
熱く酸っぱい樹液を噴けば
こどもはとんびの歌をうたって
狸の毛皮を収穫する
打製石斧のかたちした
柱の列は煤でひかり
高くけはしい屋根裏には
いま朝餐の青いけむりがいっぱいで
大伽藍の穹隆のやうに
一本の光の棒が射してゐる
そのなまめいた光象の底
つめたい春のうまやでは
かれ草や雪の反照
明るい丘の風を恋ひ
馬が蹄をごとごと鳴らす

    2

浅黄と紺の羅紗を着て
やなぎは蜜の花を噴き
鳥はながれる丘丘を
馬はあやしく急いでゐる
 息熱いアングロアラヴ
 光って華奢なサラーブレッド
風の透明な楔形文字は
ごつごつ暗いくるみの枝に来て鳴らし
またいぬがやや笹をゆすれば
 ふさふさ白い尾をひらめかす重輓馬
 あるひは巨きなとかげのやうに
 日を航海するハックニー
馬はつぎつぎあらはれて
泥炭岩の稜を噛む
おぼろな雪融の流れをのぼり
孔雀の石のそらの下
にぎやかな光の市場
種馬検査所へつれられて行く

    3

かぐはしい南の風は
かげらふと青い雲おうを載せて
なだらのくさをすべって行けば
かたくりの花もその葉の班も燃える
黒い厩肥の籠をになって
黄や橙のかつぎによそひ
いちれつみんなはのぼってくる

みんなはかぐはしい丘のいたゞき近く
黄金のゴールを梢につけた
大きな栗の陰影に来て
その消え残りの銀の雪から
燃える頬やうなじをひやす

しかもわたくしは
このかゞやかな石竹いろの時候を
第何ばん目の辛酸の春に数へたらいゝか

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九三
     曠原淑女
                     一九二四、五、八、

日ざしがほのかに降ってくれば
またうらぶれの風も吹く
にはとこやぶのうしろから
二人のおんながのぼって来る
けらを着 粗い縄をまとひ
萱草の花のやうにわらひながら
ゆっくりふたりがすすんでくる
その蓋のついた小さな手桶は
今日ははたけへのみ水を入れて来たのだ
今日でない日は青いつるつるの蓴菜を入れ
欠けた朱塗の椀を浮かべて
朝の爽やかなうちに町へ売りにも来たりする
鍬を二梃たゞしくけらにしばりつけてゐるので
曠原の淑女よ
あなたがたはウクライナの
舞手のやうに見える
  ……風よたのしいおまへのことばを
    もっとはっきり
    この人たちにきこえるやうに云ってくれ……

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一一八
     函館港春夜光景
                     一九二四、五、一九、

地球照ある七日の月が、
海峡の西にかかって、
岬の黒い山々が
雲をかぶってたゞずめば、
そのうら寒い螺鈿の雲も、
またおぞましく呼吸する
そこに喜歌劇オルフィウス風の、
赤い酒精を照明し、
妖蠱奇怪な虹の汁をそゝいで、
春と夏とを交雑し
水と陸との市場をつくる
  ……………………きたわいな
  つじうらはっけがきたわいな
  オダルハコダテガスタルダイト、
  ハコダテネムロインデコライト
  マオカヨコハマ船燈みどり、
  フナカハロモエ汽笛は八時
  うんとそんきのはやわかり、
  かいりくいっしょにわかります
海ぞこのマクロフィスティス群にもまがふ、
巨桜の花の梢には、
いちいちに氷質の電燈を盛り、
朱と蒼白のうっこんかうに、
海百合の椀を示せば
釧路地引の親方連は、
まなじり遠く酒を汲み、
魚の歯したワッサーマンは、
狂ほしく灯影を過ぎる
  ……五がつはこだてこうえんち、
    えんだんまちびとねがひごと、
    うみはうちそと日本うみ、
    りゃうばのあたりもわかります……
夜ぞらにふるふビオロンと銅鑼、
セミサンにもつれる笛や、
繰りかへす螺のスケルツォ
あはれマドロス田谷力三は、
ひとりセビラの床屋を唱ひ、
高田正夫はその一党と、
紙の服着てタンゴを踊る
このとき海霧はふたたび襲ひ
はじめは翔ける火蛋白石や
やがては丘と広場をつゝみ
月長石の映えする雨に
孤光わびしい陶磁とかはり、
白のテントもつめたくぬれて、
紅蟹まどふバナナの森を、
辛くつぶやくクラリネット
 
風はバビロン柳をはらひ、
またときめかす花梅のかほり、
青いえりしたフランス兵は
桜の枝をさゝげてわらひ
船渠会社の観桜団が
瓶をかざして広場を穫れば
汽笛はふるひ犬吠えて
地照かぐろい七日の月は
日本海の雲にかくれる

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修学旅行復命書(抜粋)

 植民館に赴く。中に開墾順序の模型あり。陰惨荒涼たる林野先づ
開拓使庁官によりて毎五町歩宛区劃を設定せられ、当時内地敗残の
移住民、各一戸宛此処に地を与へらる。然も始め呆然として為すな
く、技術者来り教ふるに及んで漸く起ちて斧刀を振ひ耒耜を把る。
近隣互に相励まして耕稼を行ふ。圃地次第に成り陽光漸く遍く交通
開け学校起り遂に楽しき田園を形成するまで誰か涙なくして之を観
るを得んや。恐らくは本模型の生徒将来に及ぼす影響極て大なるべ
し。望むらくは本県亦物産館の中に理想的農民住居の模型数箇を備
へ将来の農民に楽しく明るき田園を形成せしむるの目標を与へられ
んことを。階上にては各種本道内に用ひらるゝ農具陳列せらる。こ
れ殆んど日本各地の旧農具の集成なり。他に本道物産を陳列するあ
り。中に諸種農産製造品及所謂名物に関して町出身の生徒に注意す。
蓋し花巻に独創的産物なく然も近時温泉地方の発達に伴ひてその需
要大なるものあればなり。西伯利亜風の蜜漬の胡桃、みづの辛子漬、
菊芋の富錦など製造さへ成らば販路更に大ならんのみ。植民館を辞
し停車場に向ふ。途中

北海道石灰会社石灰岩抹を販るあり。これ酸性土壌地改良唯一の物
なり。米国之を用ふる既に年あり。内地未だ之を製せず。早くかの
北上山地の一角を砕き来りて我が荒涼たる洪積不良土に施与し草地
に自らなるクローバーとチモシイとの波をつくり耕地に油々漸々た
る禾穀を成ぜん。

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--〔文語詩稿一百編(85)〕----------------------------------
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(本文)
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     〔すゝきすがるゝ丘なみを〕

すゝきすがるゝ丘なみを、 にはかにわたる南かぜ、
窪てふ窪はたちまちに、 つめたき渦を噴きあげて、
古きミネルヴァ神殿の、 廃址のさまをなしたれば、
ゲートルきりと頬かむりの、 闘士嘉吉もしばらくは、
萱のつぼけを負ひやめて、 面あやしく立ちにけり。

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(定稿推敲前)
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すゝきすがるゝ丘なみを、 にはかにわたる南かぜ、
窪てふ窪はたちまちに、 つめたき渦を噴きあげつ、
つめたき渦を噴きあげたれば、古きミネルヴァ神殿の、
廃址のさまをなしたれば、 ゲートルきりと頬かむりの、
闘士嘉吉もしばらくは、  萱のつぼけを負ひやめて、
面あやしく立ちにけり。

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(下書稿2)
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すゝきすがるゝ丘なみを
にはかにわたるみなはかぜ
窪てふ窪はたちまちに
つめたき渦を噴きあげつ
古きミネルヴァ神殿の
廃址のさまをなしたれば
ゲートルきりと頬かむりの
闘士嘉吉もしばらくは
萱のつぼけを負ひやめて
面あやしく立ちにけり

------------------------------------------------------------
(下書稿1推敲後)
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すゝきすがるゝ丘なみを
にはかにわたるみなはかぜ
窪てふ窪はたちまちに
冷気の渦を噴きあげつ
古きミネルヴァ神殿の
廃址のさまをなしたれば
ゲートルきりと頬かむりの
闘士嘉吉もしばらくは
萱のつぼけを負ひやめて
面あやしく立ちにけり

------------------------------------------------------------
(下書稿1推敲前)
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すゝきすがるゝ丘なみを
にはかにわたるみなはかぜ
窪てふ窪はたちまちに
つめたき渦を噴きあげつ
古きミネルヴァ神殿の
廃址のさまをなしたれば
ゲートルばきの頬かむりの
さすがの戦士幸蔵も
萱のつぼけを負ひやめて
しばしあやしみ立ちにけり


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(先駆形口語詩「事件」)
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     事件

Sakkyaの雪が 澱んでひかり
野はらでは松がねむくて
鳥も飛ばない昼すぎのこと
いきなり丘の枯草を
南の風が渡って行った
すると窪地に澱んでゐた
つめたい空気の界面に
たくさん渦が柱に立って
さながらミネルヴァ神殿の
廃址のやうになったので
窪みのへりでゲートルもはき
頬かむりもした幸蔵が
萱のつぼけをとる手をやめて
おかしな顔でぼんやり立った

--〔後記〕--------------------------------------------------

 今回掲載した詩のうち「曠原淑女」は前回に続いて、全集に載っ
ていないものです。昔教科書に載っていたこともあり、賢治の詩の
中でも有名なものなので、古い形で掲載しています。

 「北上山地の春」は種馬検査を見たときのもの。種馬というと牡
馬のようですが、実は牝馬を検査して、良質の馬を得られるかどう
かを見ていたそうです。合格すると、よい種馬を付けてもらえるの
です。生れた子馬は軍馬に育てられます。

 息熱いアングロアラヴ
 光って華奢なサラーブレッド
 ふさふさ白い尾をひらめかす重輓馬
 日を航海するハックニー

 これらは馬の品種ですが、おそらく牡馬の方を描写したものです。

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