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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第1010号--2018.06.30-----
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「春と修羅第三集(8)」「〔ひとひはかなくことばをくだし〕」

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-〔話題〕---------------------------------------------------
「〔プラットフォームは眩くさむく〕」
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 今回から年号が変り、昭和2年になります。1927年ですね。

 しばらく東京へ出たりして、作品がなかったようです。そんな中、
この作品ともう一つ、「実験室小景」という二篇がぽつんと2月に
書かれています。

 春以降は作品が増えていますので、このころはまだ病状がよくな
かったのかもしれません。

 いつもなちら二篇同時に掲載するところですが、今回は一篇のみ
となっているのは、まあ私の事情です。

 最初は「その窓はIce-fernで飾り」と書かれていて、「氷の羊歯」
という意味にとれますが、後には「氷羊歯」となっています。

 賢治の作品にはこんな造語も多いのでどういう意味だろうな、と
いう程度の関心で放置していたのですが、実際に「窓ガラスを覆う、
羊歯の模様の氷」というのが発生するのですね。

 その様子と写真が下のブログにあります。ぜひごらんください。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

ガラス一面を覆う羊歯模様の窓氷
https://blogs.yahoo.co.jp/white_rime/21246127.html

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 買い物を進め、棚型の冷凍ケースの前に来ると、とんでもないも
のが目に飛び込んできました。思わず声が出る美しさ!

これは撮りたい!!!

 車に戻り、カメラバッグを担ぎつつ再入店。店員さんに「店内で
写真を撮りたいのですが・・・・」

 商品やその値段を撮るわけではないことを説明し、カメラを構え
ていることを、ほかのお客さんに不審に思われないようにと、撮影
現場へついてきてもらうことに。

 店員さんの「こんなものを撮るの?」という表情をなるべく見な
いようにしながら撮影開始。

 忙しい店員さんを捕まえた状態ですので、撮影に長い時間をとる
わけにもいきません。

 節電のため少し薄暗い店内フラッシュはつけたいけど遠慮し、大
きさを知りたいけれど定規を出すのを躊躇し、全体像、拡大像を撮
るためのレンズを交換もあきらめ、そんな制限の中、さらに多くの
枚数を撮るわけにもいかず、ものすごく頭がもやもやとした状態で
撮ること1分(最初のショットと最後のショットの時刻さ)。

 美しい氷の、ほんの一部しか撮れませんでした。でも、なんとか
なめらかな曲線を描く様子は残せました。

 羊歯の葉のように扇形に広がった氷が、ガラス全面を覆い尽くし
ています。隣の氷と複雑な組み合わせとなっているのがとても不思
議です。

 どのようにしてこんな美しい氷ができたか、その場で一時間くら
い観察して考えたかったです。

 一応、予想はしていますが・・・もう一度こんな氷を見てみたい
ので、再現実験したいところです。

 スーパーで、こんなにハイテンションになったのは初めてですよ。

 ちなみに、撮った写真は、商品が見えていないか、その場で店員
さんにチェックしてもらいました。こうしておけば、自分もお店も
安心です。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

-〔春と修羅第三集(8)〕----------------------------------

「〔プラットフォームは眩くさむく〕」

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■「〔プラットフォームは眩くさむく〕」
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(本文=下書稿5推敲後)
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一〇〇一
     〔プラットフォームは眩くさむく〕
                     一九二七、二、一二、

プラットフォームは眩くさむく
緑に塗られたシグナルや
きららかに飛ぶ氷華のなかを
あゝ狷介に学士は老いて
いまは大都の名だたる国手
昔の友を送るのです
……そのきらゝかな氷華のはてで
小さな布の行嚢や
魚の包みがおろされますと
笛はおぼろにけむりはながれ
学士の影もうしろに消えて
しづかに鎖すその窓は
鉛のいろの氷晶です
  かがやいて立つ氷の樹
  蒼々けぶる山と雲
  一つら過ぎゆく町のはづれに
  日照はいましづかな冬で
  車室はあえかなガラスのにほひ
  髪をみだし黒いネクタイをつけて
  朝の光にねむる写真師
  東の窓はちいさな塵の懸垂と
  そのうつくしいティンダル効果
  客はつましく座席をかへて
  双手に二月のパネルをひらく
しづかに東の窓にうつり
いちゐの囲み池をそなへた小さな医院
その陶標の門をば斜め
客は至誠を面にうかべ
体を屈して殊遇を謝せば
桑にも梨にもいっぱいの氷華

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(下書稿5推敲前)
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一〇〇一
                     一九二七、二、一二、




   プラットフォームは眩くさむく
   緑に塗られたシグナルや
   きららかに飛ぶ氷華のなかで
   あゝ偏狭に学士は老いて
   さびしく人を見送って立つ




   わづかばかりの朝刊や
   郵便物がとりおろされて
   つめたくおぼろな笛がなり
   学士の影はうしろに消えて
   しづかに鎖すその窓は
   鉛のいろの氷羊歯



   東の窓はちいさな塵の懸垂と
   そのうつくしいティンダル効果



   日照はいましづかな冬で
   でんしんばしらや建物や鳩



   かがやいて立つ氷の樹
   蒼々けぶる山と雲
   髪をみだし黒いネクタイをつけて
   朝の光にねむる写真師



   桑にも梨にもいっぱいの氷華
   光と雲に交叉する電線

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(下書稿4)
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一〇〇一
     汽車
                     一九二七、二、一二、

さあどうぞ、
どうぞおさきへ
プラットフォームは眩くさむく
緑に塗られたシグナルや
きららかに飛ぶ氷華のなかに
わづかばかりの朝刊や
郵便物がとりおろされる
    かういふ八百長礼賛も
    もう二月でおしまひだ
    しかしなんとこの生活のなつかしさよ
車のなかはちいさな塵の懸垂と
そのうつくしいティンダル効果
  あゝ空いてゐる
  えゝどっちでも
  はははばくが趨光的ですか
  するとあなたは背光性
  さあどうだかな
日照はいましづかな冬で
でんしんばしらや建物や鳩
  どのひとですか
  あゝ窓に見送りの
  え あの人はお医者です
  道又医院、あるでせう、あの坂の上、
  古い東京医学校
  今の大学前身とかの出ださうで
あゝ偏狭に学士は老いて
さびしく人を見送って立ち
その影消えて鎖した窓は
夜の残りの氷羊歯、
  えゝ持ってます
かがやいて立つ氷の樹
蒼々けぶる山と雲
髪をみだし黒いネクタイをつけて
朝の光にねむる写真師
  いやさうですよ
  一年中に十ぺんくらゐ
  汽車に用事のあるとかいった生活は、
  なかなか見切りがつかんですなあ
酒など醸す雪屋根に
あちこち高い梨の木も
今日は多量の氷華をつける
  帰りは五時のつもりです
  ははあ
  それではまたごいっしょに

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(下書稿3)
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一〇〇一
     汽車
                     一九二七、二、一二、

プラットフォームは眩くさむく
緑に塗られたシグナルや
きららかに飛ぶ氷華のなかに
わづかばかりの朝刊や
郵便物がとりおろされる
笛がなり笛がなり
あゝ偏狭に学士は老いて
さびしく人を見送って立ち
その影消えて鎖した窓は
夜の残りの氷羊歯から飾られる
車のなかはちいさな塵の懸垂と
そのうつくしいティンダル効果
  日照はいましづかな冬で

    かがやいて立つ氷の樹
    蒼々けぶる山と雲
    髪をみだし黒いネクタイをつけて
    朝の光にねむる写真師

……これが小さくてよき梨を産するあの町であるか……
……はい閣下 今日は多量の氷華を産出して居りまする……
……それらの樹群はかのよき梨の母体であるか……
……はい閣下 あれは夏にはニッケル鋼のかゞみを吊す
  はんの木立でございます……
……酒屋がたくさんあるやうぢゃねえ……
……はい閣下 凛烈芳を競ふ酒旗の風であります……
……ははあ……、

アカシヤの木の乱立と
光と雲に交叉する電線

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(下書稿2)
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一〇〇一
     汽車
                     一九二七、二、一二、

プラットフォームは眩くさむく
緑に塗られたシグナルや
きららかに飛ぶ氷華のなかに

ひとは偏狭に老いやうし
近づく汽車のその窓は
    氷羊歯アイスフォーンで飾られもしやう

車のなかはちいさな塵の懸垂と
そのうつくしいティンダル効果
  日照はいましづかな冬で
でんしんばしらや建物や鳩

    かがやいて立つ氷の樹
    青々けぶる山と雲
    髪をみだし
    黒いネクタイをつけて
    朝の光にねむる写真師

……これが小さくてよき梨を産するあの町であるか……
……はい閣下 今日は多量の氷華を産出して居りまする……
……それらの樹群はかのよき梨の母体であるか……
……はい閣下 あれは夏にはニッケル鋼のかゞみを吊す
  はんの木立でございます……
……この町の成績はどうぢゃ……
……はい閣下 きはめて堅実でありましたが
  挽馬のなかにしっぽのないものがございました……
アカシヤの木の乱立と
光と雲に交叉する電線

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(下書稿1)
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一〇〇一
     汽車
                     一九二七、二、一二、

      プラットフォームは眩くさむく
      緑いろした電燈の笠
      きららかに飛ぶ氷華のなかに
      ひとは偏狭に老いやうし
      汽車近づけば
      その窓はIce-fernで飾りもしやう

車のなかはちいさな塵の懸垂と
そのうつくしいティンダル効果
  日照はいましづかな冬で
でんしんばしらや建物や鳩

    かがやいて立つ氷の樹
    青々けぶる山と雲
    髪をみだし
    黒いネクタイをつけて
    朝の光にねむる写真師

……これが小さくてよき梨を産するあの町であるか……
……はい閣下 今日は多量の氷華を産出して居りまする……
……それらの樹群はかのよき梨の母体であるか……
……はい閣下 あれは夏にはニッケル鋼の鏡を吊す
  はんの木立でございます……
……この町の訓練の成績はどうぢゃ……
……はい閣下 寒冷ながら
  水は風より より濃いものと存じます……

    けむりは凍えていくつにもちぎれて
    杉の林に落ち込むし
    アカシヤの木の乱立と
    女のそのうつくしいプロファイル
  もう幾百 目もあやに
  光と雲に交叉する電線と(以下空白)


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-〔文語詩稿未定稿(088)〕----------------------------------
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■「〔ひとひはかなくことばをくだし〕」
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(本文=下書稿2推敲後)
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     〔ひとひはかなくことばをくだし〕

ひとひはかなくことばをくだし
ゆふべはいづちの組合にても
一車を送らんすべなどおもふ
さこそはこゝろのうらぶれぬると
たそがれさびしく車窓によれば
外の面は磐井の沖積層を
草火のけぶりぞ青みてながる

屈撓余りに大なるときは
挫折の域にも至りぬべきを
いままた怪しくせなうち熱り
胸さへ痛むはかっての病
ふたゝび来しやとひそかに経れば
芽ばえぬ柳と残りの雪の
なかばはいとしくなかばはかなし

あるひは二列の波ともおぼえ
さらには二列の雲とも見ゆる
山なみへだてしかしこの峡に
なほかもモートルとゞろにひゞき
はがねのもろ歯の石噛むま下
そこにてひとびとあしたのごとく
けじろき石粉をうち浴ぶらんを

あしたはいづこの店にも行きて
一車をすゝめんすべをしおもふ
かはたれはかなく車窓によれば
野の面かしこははや霧なく
雲のみ平らに山地に垂るゝ

------------------------------------------------------------
(下書稿2推敲前)
------------------------------------------------------------

ひとひを卑しく身をへりくだし
あしたはいづちの組合にても
一車を送らんすべなきやなど
さこそはこゝろのうらぶれぬると
たそがれさびしく車窓によれば
外の面は磐井の沖積層を
けむりぞねのかに青みてながれ

屈撓余りに大なるときは
挫折の域にも至りぬべきを
いままた怪しくせなうち熱り
胸さへ痛むはかっての病
ふたゝび来しやをひそかにおもひ
薄明はかなきこの川ぎしに
芽ばえぬ柳と残りの雪の
なかばはいとしくなかばはかなし

あるひは二列の波ともおぼえ
さらには二列の雲とも見ゆる
山なみへだてしこの峡に
なほかもモートルとゞろにひゞき
はがねのもろ歯の石噛むま下
そこにてひとびとあしたのごとく
そこにてひとびとまひるのごとく
けじろき石粉にうちまみれつゝ
シャブロや叺やうち守るらんを
あゝげに恥なく生きんはいつぞ

あしたはいづこの店にも行きて
一車をすゝめんすべなどおもひ
かはたれはかなく車窓によれば
野の面こゝこははや霧なく
雲のみ平らに山地に垂るゝ

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(下書稿1王冠印手帳79〜88頁))
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(A)

あしたはいづこの組合へ
一車を向けんなど思ふ
さこそはこゝろうらぶれたりと
たそがれさびしく汽車にて行けば
あゝいま北上沖積層を
けぶりはほのかに青みてながる
あるひは二列の雲とも見ゆる
山なみ越えたるかしこの下に
なほかもモートルとゞろにめぐり
はがねのもろ歯の石噛むひゞき
ひとびとましろき石粉にまみれ
シャベルを叺をうちもるらんを
あゝげに恥なく生きんはいつぞ
妻なく家なくたゞなるむくろ
生くべくなほかつたの世はけはし
柱は行きすぐたそがるゝ草
野の面こゝこははや霧なくて
雲のみ平らに山地に垂れぬ

(B)

卑しくも身をへりくだし
ひとひつかれしとして
夜汽車のなかにまどろめば
せなまた怪しく熱して
病ふたゝび来しやと思ひ
たそがれて行く川べりの
柳のむらや消えのこる
野の面の雪をなつかしみ見る
そのとき黒ずめる暮のほこ杉
一列をなして窓を過ぎたり

--〔後記〕--------------------------------------------------

 抗ガン剤も一年を越えて、なかなか難しいところに来ています。
メールマガジンの発信も続けられる限りは続けますが、「突然の休
信」があるかもしれませんので、あらかじめご了承ください。

 基本的な体力はまだ残っていると思いますが、途中調子が悪くな
ることがあるかもしれない、という程度のことですので、あまりの
心配はご無用です。

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