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畑のへり(初期形)

 あさがすっかりられましたので、はたけのへりに一列いちれつにならんだたうもろこしは、たいへん目立めだってまゐりました。

 むねのすきとほった飴色あめいろ甲虫かふちゆうだの、きれいな朱と黒のうるしでぬったやうなてんたうむしも飛んで来ました。

 たうもろこしには、もう頂上ちやうじやうにひらひらしたち、おほきなちゞれたのつけねに青いさやができてゐました。

 そしてかぜにざわざわりました。

 一疋いつぴきかへるりあとのはたけむかふまでんでて、いきなり、このたうもろこしのれつて、びっくりしてひました。

「おや、へんな動物どうぶつってゐるぞ。からだはせてひょろひょろだが、ちゃんとれつんでゐる。ことによるとこれはカマジンこく兵隊へいたいだぞ。どれ、よくてやらう。」

 そこでかへる上等じやうとうとほめがねをして、その兵隊へいたいをのぞいてました。

 蛙のとほめがねはものの中の方もはんぶんぐらゐへんてこに見えるのでした。

 蛙はぎゃあと叫んで遠めがねも何もほうり出して一目散に遁げだしました。

 七十枚しちじふまいばかりのしろあをじろいつやつやしたかみをもって、十五六枚じふごろくまいのみ緑色みどりいろのマントをあしからあたまほうさかさにたせいのたかをんな幽霊いふれいが、一人ひとり兵隊へいたい五六疋ごろつぴきづつとりついてゐるのです。

 すると途中とちう南蛮鉄なんばんてつのよろひを一疋いつぴき熊蟻くまありひました。熊蟻くまありはふだんからかへる馬鹿ばかにして、おまへさんの病気びやうきのときはいつでもわたしが看病かんびやうしてやらう、なんとふのです。かへる自分じぶん病気びやうきになって、からだのうごかなくなったとき熊蟻くまあり二三百疋にさんびやつぴきもやってて、気味きみわる看病かんびやうをはじめることかんがへると、もうぐるぐるするくらゐいやになるのでした。ところ今日けふ熊蟻くまありは、じろじろかへるながらひました。

かへるさん、なに大変たいへんおこったやうですね。どこかに火事くわじでもあるのですか。」

「どうしてどうして、まつた大変たいへんだ。カマジンこく兵隊へいたいがたうたうやってた。みんな五六疋ごろつぴきづつ幽霊いふれいかたにのっけてゐる。七十しちじふあるぞ。あの幽霊いふれいにかぢられたら、もうとてもたまらんぜ。かあいそうに、あさはもうみんなばりばりぢられた。みんなまっすぐな、いいわかものだったのになあ。ばりばりほねまでぢられたとは本当ほんたうひとごとともおもはれんなあ。」

 熊蟻くまありはにがわらひをしながらたづねました。

「そんな物騒ぶつさうなやつらが、全体ぜんたいどこへてるんですか。」

あさばたけのむかがはさ。」

 熊蟻くまありはケッケッケッとわらひました。

「それは幽霊いふれいでもなんでもありませんよ。たうもろこしさんですよ。そんなにひとわるくありませんよ。むすめさんたちはみんな緑色みどりいろのマントを着ていましたらう。」

緑色みどりいろのマントはてゐたさ。しかしあんなマントの着様きやう一体いつたいあるもんかな。あしからあたまほうさかさまてゐるんだ。それにマントを十六枚じふろくまいかさねてるなんて、いたことこともない贅沢ぜいたくだ。おごりの頂上ちやうじやうだ。」

「ははあ、しかしなかはさまざまですよ。たとへばうさぎなんとふものはみゝてんまでとゞいてゐます。ぶたなんといふものはくちなかにとんぼのやうなすきとほったはね十枚じふまいありますよ。また人間にんげんといふものをごぞんじですか。人間にんげんといふものはあたまうへほう十六本じふろつぽんがついてゐますよ。そんなこともあるんですからな。それにたうもろこしさんのながいつやつやしたかみ評判ひやうばんなもんですよ。」

「よしてれよ。七十枚しちじふまいしろからつやつやしたながかみがすぐえてゐるなんてかんがへてもむねわるくなる。」

「そんなことはありませんよ。まあわたくし一諸いつしよにおいでなさい。あなたにおさけ一杯いつぱいもらってあげませう。おいでなさい。」

 かへるはおさけいて、青白あをじろいのどをくびりくびりと鳴らしました。

かうかう。よろしくたのむぜ。」

 それでありかへるとはたうもろこしのしたました。すると丁度ちやうどたうもろこしのむすめかちはザワザワザワザワ喧嘩けんくわのまっ最中さいちうでした。

なんだい。ちゞれ赤毛あかげ。おまへたちの何枚なんまいあるんだい。七十五枚しちじふごまいあるかい。そして真珠しんじゆのやうにひかってるかい。」

なんだい。青白毛あをじろけ。おまへたちはマントが十五枚じふごまいあるかい。そしてそろってるかい。」

 かぜいてたのを幸にたうもろこしはもうつかみひです。そこでありがいきなり青白あをじろい方の幹にかけのぼって演説をはじめました。

「みなさん。これは争ふべきことでございませうか。みなさんの髪の毛はなるほど色がちがふかもしれません。けれどもそのひ立ちやけだかい心はみな同じです。それだからみなさんは仲をよくしなければならないのでございませう。みなさんは今はみどりです。しかるにだんだん黄色になり茶色になるのでございます。そこでも一人みなさまがたのお友達で温厚篤実の紳士のかた紹介しやうかいいたしませう。おさけのしたくをなさい。」

 そこでたうもろこしのおっかさんはみき傷口きづぐちからあまいお酒を沢山たくさん出しました。

 ありはそれをんでぐでんぐでんによっぱらってからひました。「そのひとかへるさんとふのですよ。かへるさん。ちょとおいで。」そしてかへるまねきしました。

 かへるはもうさっきからおさけにほひをきいて、のどがくびりくびりしてゐたので、いきなりしました。するとたうもろこしは、 「あらいやだ。あんなきたない、くちおほきなやつがわたしらの仲間なかまだなんて。」とひながらからだをひどくゆすぶりましたので、ありはふりおとされていつさんにげてしまひました。

 そのとき人間にんげんをんなはたけにやってました。そして一本いっぽんのたうもろこしのあかをむしって、くちれて、そらへふっときました。

 はきらきらひかってちてました。かへるはよくのびあがってをんなあたまをながめますと、加減かげんか、なにあたまうへでふらふらうごくものがあります。そこでかへるひました。

「ははあ、あるぞ、あるぞ。おほきなだな。十六本じふろつぽんともうようよしてる。どうもこれはすてきなもんだ。」

 おとこざるを肩にって、むかふからさけびながらやってまゐりました。

出来できてるかい。もうみんなとってもいゝだらう。そらおまへもお取りよ。」

 兄妹きやうだいはバリバリとたうもろこしをりました。をんなのとゞかないところは、おとこりました。けれどもうへほうは、大分だいぶのこりました。

 たうもろこしは大変たいへんさびしくなりましたがやはりをひらひらそらにうごかしました。

 かへる人間にんげんあたまましたので、もうすっかり安心あんしんして、ぴょんぴょんびあがって、たうもろこしのおさけをたらふくんで、十二分じふにぶんにめいていして、大満足だいまんぞくでうちへかへりました。