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ゆきわた

ゆきわたり(小狐こぎつね紺三郎こんざぶらう) (一)

 ゆきがすつかりこほつてまるで大理石だいりせきのやうにかたくなりました。

 そらつめたいなめらかなあをいしいた出来できてゐるらしいのです。おさまがまつしろえてゆきをぎらぎららしました。

 はみんなザラメをけたやうにしもでピカピカしてゐます。

かたゆきかんこ、ゆきしんこ。』とさけびながら、四らうとかんとはちひさなゆきぐつをはいてキツクキツクキツク、野原のはらました。

 こんな面白おもしろが、またとあるでせうか。いつもはあるけないきびはたけなかでも、すすきで一ぱいだつた野原のはらうへでも、すきなはうへどこまででもけるのです。たひらなことはまるで一まいいたうへのやうです。そしてそれが沢山たくさんちひさなかゞみのやうにキラキラキラキラひかるのです。

かたゆきかんこ、ゆきしんこ。』

 二人ふたりもりちかくまでました。おほきなかしは硝子がらすでこしらえたやう立派りつぱ氷柱つらゝ沢山たくさんげておもさうにじつと身体からだげてゐました。

かたゆきかんこ、ゆきしんこ。きつねあ、よめいほしい、ほしい。』と二人ふたりもりいてたかさけびました。

 するともりなかから
ゆきしんしん、かたゆきかんかん。』とひながら、キシリキシリとゆきをふんでしろきつねました。

 四らうすこしぎよつとしてかんをうしろにかばつて、しつかりあしをふんばつてさけびました。

きつねこんこんしろきつね、およめほしけりや、とつてやろよ。』

 するときつねがまだわかいくせにぎんはりのやうなおひげをピンと一つひねつてひました。

『四らうはしんこ、かんはかんこ、おらはおよめはいらないよ。』

 四らうわらつてひました。

きつねこんこん、きつね、およめがいらなきやもちやろか。』するときつねあたまを二つ三つつて面白おもしろさうにひました。

『四らうはしんこ、かんはかんこ、きび団子だんごをおれやろか。』

 かんもあんまり面白おもしろいので四らうのうしろにかくれたまゝひくうたひました。

きつねこんこんきつねきつね団子だんごうさぎのくそ。』

すると小狐こぎつねこんらうわらつてひました。

『いゝえ、けつしてそんなことはありません。あなたがたのやうな立派りつぱなおかたうさぎ茶色ちやいろ団子だんごなんかしあがるもんですか。わたしらは全体ぜんたいいままでひとをだますなんてむじつのつみをきせられてゐたのです。』

 四らうがおどろいてたづねました。

『そいじやきつねがひとをだますなんてうそかしら。』

 こんらう熱心ねつしんひました。

うそですとも。けだしもつともひどいうそです。だまされたといふひと大抵たいていさけつたり、臆病おくびやうでくるくるしたりした人です。面白おもしろいですよ。甚兵衛じんべえさんがこのまへ月夜つきよばんわたしたちのおうちまへすわつて一晩ひとばんじやうるりをやりましたよ。わたしらはみんなたのです。』

 四郎さけびました。

甚兵衛じんべえさんならじやうるりじやないや。きつと浪花なにはぶしだぜ。』

 子狐こぎつねこんらうはなるほどといふかほをして、
『えゝ、さうかもしれません。とにかくお団子だんごをおあがりなさい。わたしのさしあげるのは、ちやんとわたしはたけつくつていてくさをとつてつてたゝいてこなにしてつてむしてお砂糖さたうをかけたのです。いかゞですか。一皿ひとさらさしあげませうか。』
ひました。

と四らうわらつて、

こんらうさん、ぼくらは丁度ちやうどいまね、おもちをたべてたんだからおなかがらないんだよ。このつぎにおよばれしようか。』

 子狐こぎつねこんらううれしがつてうでをばたばたしてひました。

『さうですか。そんなら今度こんど幻燈会げんとうくわいのときさしあげませう。幻燈会げんとうくわいにはきつといらつしやい。このつぎゆきこほつた月夜つきよばんです。八からはじめますから、入場券にふぢやうけんをあげてきませう。何枚なんまいあげませうか。』

『そんなら五まいれ。』と四らうひました。

『五まいですか。あなたがたが二まいにあとの三まいはどなたですか。』とこんらうひました。

にいさんたちだ。』と四らうこたへますと、

にいさんたちは十一さい以下いかですか。』とこんらうまたたづねました。

『いや小兄ちひにいさんは四年生ねんせいだからね、やつつのよつつで十二さい。』と四らうひました。

 するとこんらうもつともらしくまたおひげをひとつひねつてひました。

『それでは残念ざんねんですがにいさんたちはおことはりです。あなたがただけいらつしやい。特別席とくべつせきをとつてきますから、面白おもしろいんですよ。幻燈げんとうだい一が『おさけをのむべからず。』これはあなたのむら太右衛門たゑもんさんと、清作せいさくさんがおさけをのんでとうとうがくらんで野原のはらにあるへんてこなおまんぢゆうや、おそばをべたところです。わたし写真しやしんなかにうつつてゐますよ。だい二が『わなに注意ちういせよ。』これは私共わたしどものこん兵衛べゑ野原のはらでわなにかかつたのをいたのです。です。写真しやしんではありません。だい三が『けいべつすべからず。』これは私共わたしどものこんすけがあなたのおうちつて尻尾しつぽいた景色けしきです。ぜひおいでください。』

 二人ふたりよろこんでうなづきました。

 きつね可笑をかしさうにくちげて、キツクキツクトントンキツクキツクトントンとあしぶみをはじめてしつぽとあたまつてしばらくかんがへてゐましたがやつとおもひついたらしく、両手りやうてつてひはじめました。

 「ゆきしんこ、かたゆきかんこ、
    野原のはらのまんぢゆうはポツポツポ。
  つてひよろひよろ太右衛門たゑもんが、
    去年きよねん、三十八、たべた。
  ゆきしんこ、かたゆきかんこ、
    野原のはらのおそばはホツホツホ。
  つてひよろひよろ清作せいさくが、
    去年きよねん十三ばいたべた。」

 四らうもかんもすつかりまれてもうきつねと一しよをどつてゐます。

 キツク、キツク、トントン。キツク、キツク、トントン。キツク、キツク、キツク、キツク、トントントン。

らううたひました。

きつねこんこんきつね去年きよねんきつねのこん兵衛べゑが、ひだりのあしをわなに入れ、こんこんばたばたこんこんこん。』

 かんうたひました。

きつねこんこんきつね去年きよねんきつねのこん兵衛べゑが、いたさかなろとしておしりにがつききやんきやんきやん。』

 キツク、キツク、トントン。キツク、キツク、トントン。キツク、キツク、キツク、トントントン。

 そして三にんをどりながらだんだんはやしなかにはいつてきました。あか封蝋ふうろうでこしらえたやうなほうのが、かぜかれてピツカリピツカリとひかり、はやしなかゆきには藍色あいいろかげちて日光につくわうのあたるところはまるでぎん百合ゆりいたやうです。

 すると子狐こぎつねこんらうひました。

鹿しかもよびませうか。鹿しかはそりやふえがうまいんですよ。』

 四らうとかんとはたゝいてよろこびました。そこで三にんは一しよさけびました。

かたゆきかんこ、ゆきしんこ、鹿しかよめいほしいほしい。』

 するとむかうで、
北風きたかぜピーピーかぜらう西風にしかぜドウドウまたらう』とほそいいゝこゑがしました。

 きつねこんらうがいかにもばかにしたやうに、くちとがらしてひました。

『あれは鹿しかです。けれどもあいつは臆病おくびやうですからとてもこつちへさうにありません。けれどももう一ぺんさけんでみませうか。』

そこで三にんまたさけびました。

かたゆきかんこ、ゆきしんこ、しかのよめほしい、ほしい。』

 すると今度こんどはずうつととほくでかぜおとふえこゑか、また鹿しかうたかこんなやうにきこえました。

北風きたかぜピーピー、かんこかんこ
   西風にしかぜどうどう、どつこどつこ。」

きつねまたひげをひねつてひました。

『もうゆきやはらかになるといけませんからおかへりなさい。今度こんど月夜つきよゆきこほつたらきつとおいでください。さつきの幻燈げんとうをやりますから。』

 そこで四らうとかんとは
かたゆきかんこ、ゆきしんこ。』とうたひながらぎんゆきわたつておうちへかへりました。

雪渡ゆきわたり その二(きつね小学校せうがくかう幻燈げんとうげんとうくわい

 おほきな十五夜じふごやのおつきさまがしづかにひがしやまからのぼりました。

 ゆき青白あをじろひかり、そして今日けふいしのやうにかたこほりました。

 四郎しらうきつね紺三郎こんざぶらうとの約束やくそくおもしていもうとのかんにそつとひました。

今夜こんやきつね幻燈げんとうげんとうくわいなんだね。かうか。」

するとかんは、
きませう。きませう。きつねこんこんきつね、こんこんきつね紺三郎こんざぶらう。」とたかさけんでしまひました。

 そこで二番目にばんめにいさんの二郎じらう
「おまへたちはきつねのとこへあそびにくのかい。ぺくきたいな。」とひました。

 四郎しらうつてしまつてをすくめてひました。

大兄おほにいさん。だつて、きつね幻燈げんとうくわい十一才じふいつさいまでですよ、入場券にふぢやうけんいてあるんだもの。」

 二郎じらうひました。

「どれ、ちよつとおせ、ははあ、学校がくかう生徒せいと父兄ふけいにあらずして十二才じふにさい以上いじやう来賓らいひん入場にふぢやうをおことはりまをそろ きつねなんて仲々なかなかうまくやつてるね。ぼくはいけないんだね。仕方しかたないや。おまへたちくんならおもちつてつておやりよ。そら、この鏡餅かゞみもちがいゝだらう。」

 四郎しらうとかんはそこでちひさな雪沓ゆきぐつをはいておもちをかついでそとました。

 兄弟きやうだい一郎いちらう二郎じらう三郎さぶらう戸口とぐちて、
つておいで。大人おとなきつねにあつたらいそいでをつぶるんだよ。そらぼくはやしてやらうか。かたゆきかんこ、ゆきしんこ、きつねよめいほしいほしい。」とさけびました。

 おつきさまはもうしづかなみづうみのやうなそらたかのぼもり青白あをじろいけむりにつゝまれてゐます。二人ふたりはもうそのもり入口いりぐちました。

 するとむねにどんぐりのきしやうをつけたしろちひさなきつねつてひました。

今晩こんばんは。おはやうございます。入場券にふぢやうけんはおちですか。」

つてゐます。」二人ふたりはそれをしました。

「さあ、どうぞあちらへ。」きつねもつともらしくからだをげてはやしおくをしへました。

 はやしなかにはつきひかりあをぼう何本なんぼんなゝめにんだやうにしてりました。そのなかのあき二人ふたりました。

 るともうきつね学校がくかう生徒せいと沢山たくさんあつまつてくりかはをぶつつけつたりすまふをとつたりことにおかしいのはちいさなちいさな鼠位ねづみぐらゐきつねおほきな子供きつね肩車かたぐるまつておほしさまらうとしてゐるのです。

 みんなのまへえだしろ一枚いちまい敷布しきふがさがつてゐました。

 不意ふいにうしろで
今晩こんばんは、よくおいでゞした。先日せんじつ失礼しつれいいたしました。」といふこゑがしますので四郎しらうとかんとはびつくりしていてると紺三郎こんざぶらうです。

 紺三郎こんざぶらうなんかまるで立派りつぱ燕尾服えんびふく水仙すゐせんはなむねにつけてまつしろなはんけちでしきりにそのとがつたおくちいてゐるのです。

 四郎しらう一寸ちよつと辞義じぎをしてひました。

「このあひだ失敬しつけい。それから今晩こんばんはありがたう。このおもちをみなさんであがつてください。」

 きつね学校がくかう生徒せいとはみんなこつちをてゐます。

 紺三郎こんざぶらうむねを一ぱいつてすましてもちけとりました。

「これはどうもおみやげをいたゞいてみません。どうかごゆるりとなすつてください。もうすぐ幻燈げんとうははじまります。わたし一寸ちよつと失礼しつれいいたします。」

 紺三郎こんざぶらうはおもちつてむかふへきました。

 きつね学校がくかう生徒せいとこゑをそろへてさけびました。

かたゆきかんこ、ゆきしんこ、かたいおもちはかつたらこ、しろいおもちはべつたらこ。」

 まくよこに、
寄贈きぞう、おもち沢山たくさんひと四郎しらうひとのかん」とおほきなふだました。きつね生徒せいとよろこんでをパチパチたゝきました。

 そのときピーツとふえりました。

 紺三郎こんざぶらうがエヘンエヘンとせきばらひをしながらまくよこから丁寧ていねいにお辞儀じぎをしました。みんなはしんとなりました。

今夜こんやうつくしい天気てんきです。おつきさまはまるで真珠しんじゆさらのやうです。おほしさまは野原のはらつゆがキラキラかたまつたやうです。さて只今たゞから幻燈げんとうげんとうくわいをやります。みなさんはまたゝきやくしやみをしないでをまんまろにひらいてていて下ください。

 それから今夜こんや大切たいせつ二人ふたりのおきやくさまがありますからどなたもしづかにしないといけません。けつしてそつちのはうくりかはげたりしてはなりません。開会かいくわいです。」

 みんなよろこんでパチパチたゝきました。そして四郎しらうがかんにそつとひました。

紺三郎こんざぶらうさんはうまいんだね。」

 ふえがピーとりました。

『おさけをのむべからず』おほきなまくにうつりました。そしてそれがえて写真しやしんがうつりました。一人ひとりのおさけつた人間にんげんのおぢいさんがなにかおかしなまるいものをつかんでべやうとしてゐる景色けしきです。

みんなはあしぶみをしてうたひました。

 キツクキツクトントンキツクキツクトントン

  ゆきしんこ、かたゆきかんこ、
      野原のはらのまんじゆうはポツポツポ
  つてひよろひよろ太右衛門たゑもん
      去年きよねん三十八さんじふはちたべた。

 キツクキツクキツクトントントン

 写真しやしんえました。四郎しらうはそつとかんひました。

「あのうた紺三郎こんざぶらうさんのだよ。」

 べつ写真しやしんがうつりました。一人ひとりのおさけつたわかものがほおのでこしらえたおわんのやうなものにかほをつつんでなにべてゐます。紺三郎こんざぶらうしろはかまをはいてむかふでてゐるけしきです。

 みんな足踏あしぶみみをしてうたひました。

 キツクキツクトントン、キツクキツク、トントン、

  ゆきしんこ、かたゆきかんこ、
     野原のはらのおそばはポツポツポ、
  つてひよろひよろ清作せいさく
     去年きよねん十三じふさんばいべた。

 キツク、キツク、キツク、キツク、トン、トン、トン。

 写真しやしんえて一寸ちよつとやすみになりました。

 可愛かあいらしいきつねをんな黍団子きびだんごをのせたおさらふたつてました。

 四郎しらうはすつかりよわつてしまいました。なぜつてたつたいま太右衛門たゑもん清作せいさくとのわるいものをらないでべたのをてゐるのですから。

 それにきつね学校がくかう生徒せいとがみんなこつちをいて「ふだろうか。ね。ふだろうか。」なんてひそひそはなつてゐるのです。かんははづかしくておさらつたまゝまつになつてしまいました。すると四郎しらう決心けつしんしてひました。

「ね。べやう。おべよ。ぼく紺三郎こんざぶらうさんがぼくらをだますなんておもはないよ。」そして二人ふたり黍団子きびだんごをみんなべました。そのおいしいことはつぺたもちさうです。きつね学校がくかう生徒せいとはもうあんまりよろこんでみんなをどりあがつてしまいました。

 キツクキツクトントン、キツクキツクトントン。

 「ひるはカンカンのひかり
  よるはツンツンつきあかり、
  たとへからだを、さかれても
  きつね生徒せいとはうそふな。」

 キツク、キツクトントン、キツクキツクトントン。

 「ひるはカンカンのひかり
  よるはツンツンつきあかり
  たとへこゞえてたほれても
  きつね生徒せいとはぬすまない。」

 キツクキツクトントン、キツクキツクトントン。

 「ひるはカンカンのひかり
  よるはツンツンつきあかり
  たとえからだがちぎれても
  きつね生徒せいとはそねまない。」

 キツクキツクトントン、キツクキツクトントン。

 四郎しらうもかんもあんまりうれしくてなみだがこぼれました。

 ふえがピーとなりました。

『わなをけいべつすべからず』とおほきながうつりそれがえてがうつりました。きつねのこん兵衛べゑがわなに左足ひだりあしをとられた景色けしきです。

 「きつねこんこんきつね去年きよねんきつねのこん兵衛べゑ
  ひだりあしをわなにれ、こんこんばたばた
                こんこんこん。」
とみんながうたひました。

 四郎しらうがそつとかんひました。

ぼくつくつたうただねい。」

 えて『けいべつすべからず』といふがあらはれました。それもえてがうつりました。きつねのこんすけいたおさかならうとしてしつぽにがついたところです。

 きつね生徒せいとがみなさけびました。

 「きつねこんこんきつね去年きよねんきつねのこんすけ
  いたさかなろとしておしりにがつき
               きやんきやんきやん。」

 ふえがピーとまくあかるくなつて紺三郎こんざぶらうまたひました。

「みなさん。今晩こんばん幻燈げんとうはこれでおしまひです。今夜こんやみなさんはふかこゝろめなければならないことがあります。それはきつねのこしらえたものをかしこいすこしもはない人間にんげんのおさんがたべべてくだすつたといふことです。そこでみなさんはこれからも、大人おとなになつてもうそをつかずひとをそねまずわたしどもきつね今迄いままでわる評判ひやうばんをすつかりくしてしまふだらうとおもひます。閉会へいくわいです。」きつね生徒せいとはみんな感動かんどうしてワーツとちあがりました。そしてみんなキラキラキラキラなみだをこぼしたのです。

 紺三郎こんざぶらう二人ふたりまへて、丁寧ていねいにおじぎをしてひました。

「それでは。さようなら。今夜こんやのごおんけつしてわすれません。」二人ふたりもおじぎをしてうちのはうかへりました。きつね生徒せいとひかけて二人ふたりのふところやかくしにどんぐりだのくりだのあをびかりのいしだのをれて、
「そら、あげますよ。」「そら、つてください。」なんてつてかぜやうかへつてきます。

 紺三郎こんざぶらうわらつててゐました。

 二人ふたりもり野原のはらきました。

 その青白あをじろゆき野原のはらのまんなか三人さんにんくろかげむかふからるのをました。それはむかひににいさんたちでした。