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かしはばやしの夜

 清作せいさくは、さあ日暮ひぐれだぞ、日暮ひぐれだぞとひながら、ひえもとにせつせとつちをかけてゐました。

 そのときはもう、あかゞねづくりのおさまが、みなみ山裾やますそ群青ぐんじやういろをしたとこにちて、はらはへんにさびしくなり、白樺しらかばみきなどもなにかこないてゐるやうでした。

 いきなり、むかふのかしはばやしのはうから、まるで調子らやうしはづれの途方とほうもないへんこゑで、
欝金うこんしやつぽのカンカラカンのカアン。」とどなるのがきこえました。

 清作せいさくはびつくりしてかほいろをえ、くわをなげすてゝ、足音あしおとをたてないやうに、そつとそつちへはしつてきました。

 ちやうどかしはばやしのまへまでたとき、清作せいさくはふいに、うしろからえりくびをつかまれました。

 びつくりしてりむいてみますと、あかいトルコぼうをかぶり、ねづみいろのへんなだぶだぶのものをて、くつをはいた無暗むやみにせいのたかのするどいかきが、ぷんぷんおこつてつてゐました。

なんといふざまをしてあるくんだ。まるでふやうなあんばいだ。ねづみのやうだ。どうだ、辯解べんかいのことばがあるか。」

 清作せいさくはもちろん辯解べんかいのことばなどはありませんでしたし、面倒臭めんどうくさくなつたら喧嘩けんくわしてやらうとおもつて、いきなりそらいて咽喉のどいつぱい、
あかいしやつぽのカンカラカンのカアン。」とどなりました。するとそのせたかかきは、にはかに清作せいさくくびすぢをはなして、まるでえるやうなこゑわらひだしました。そのおとはやしにこんこんひゞいたのです。

「うまい、じつにうまい。どうです、すこしはやしのなかをあるかうぢやありませんか。さうさう、どちらもまだ挨拶あいさつわすれてゐた。ぼくからさきにやらう。いゝか、いや今晩こんばんは、はらにはちいさくつた影法師かげばふしがばらきですね、と。ぼくのあいさつはかうだ。わかるかい。こんどはきみだよ。えへん、えへん。」とひながらかきはまた急に意地悪いぢわるかほつきになつて、ななめにうへはうからけいべつしたやうに清作せいさくおろしました。

 清作せいさくはすつかりどぎまぎしましたが、ちやうどゆうがたでおなかがいて、くも団子だんごのやうにえてゐましたからあわてゝ、

「えつ、今晩こんばんは。よいおばんでございます。えつ。おそらはこれからぎんのきなでまぶされます。ごめんなさい。」
 といました。

 ところがかきはもうすつかりよろこんで、をぱちぱちたゝいて、それからはねあがつてひました。

「おいきみかう。はやしかう。おれはかしは大王だいわうのおきやくさまになつててゐるんだ。おもしろいものをせてやるぞ。」

 かきはにはかにまじめになつて、あかだのしろだのぐちやぐちやついたきたないばこをかついで、さつさとはやしなかにはいりました。そこで清作せいさくも、くわをもたないでがひまなので、ぶらぶらつてついてきました。

 はやしのなかは浅黄あさぎいろで、肉桂にくけいのやうなにほひがいつぱいでした。ところが入口いりぐちから三本目ぼんめわかかしはは、ちやうど片脚をあげてをどりのまねをはじめるところでしたが二人ふたりたのをてまるでびつくりして、それからひどくはづかしがつて、あげた片脚かたあしひざを、がわるさうにべろべろめながら、横目よこめでぢつと二人ふたりとほりすぎるのをみてゐました。こと清作せいさくとほぎるときは、ちよつとあざわらひました。清作せいさくはどうも仕方しかたないといふやうながしてだまつてかきについてきました。

 ところがどうも、どのかきには機嫌きげんのいゝかほをしますが、清作せいさくにはいやなかほせるのでした。

 一本いっぽんのごつごつしたかしはが、清作せいさくとほるとき、うすくらがりに、いきなり自分じぶんあしをつきして、つまづかせやうとしましたが清作せいさくは、 「よつとしよ。」とひながらそれをはねえました。

 かきは、
「どうかしたかい。」といつてちよつとふりきましたが、またすぐむかふをいてどんどんあるいてきました。

 ちやうどそのときかぜましたので、林中はやしじうかしははいつしよに、
「せらせらせら清作せいさく、せらせらせらばあ。」とうす気味のわるいこゑして清作せいさくをおどさうとしました。

 ところが清作せいさくは、かへつてじぶんでくちをすてきにおほきくしてよこはうへまげて、
「へらへらへら清作せいさく、へらへらへら、ばばあ。」とどなりつけましたので、かしははみんなぎもをぬかれてしいんとなつてしまひました。かきはあつはゝ、あつはゝとびつこのやうなわらひかたをしました。

 そして二人ふたりはずうつとあひだとほつて、かしは大王だいわうのところにました。

 大王だいわう大小だいしやうとりまぜて十九じふくほんと、一ぽんふとあしとをもつてりました。まはりにはしつかりしたけらいのかしはどもが、まじめにたくさんがんばつてゐます。

 かきはばこをカタンとおろしました。すると大王だいわうはまがつたこしをのばして、ひくこゑかきにひました。

「もうおかへりかの。つてましたぢや。そちらはあたらしい客人きやくじんぢやな。が、そのひとはよしなされ。前科者ぜんくわものぢやぞ。前科ぜんくわ九十八犯くじふはつぱんぢやぞ。」

 清作せいさくおこつてどなりました。

「うそをつけ、前科者ぜんくわものだと。おら正直しやうぢきだぞ。」

 大王だいわうもごつごつのむねつておこりました。

「なにを。証拠しやうこはちやんとあるぢや。また帳面ちやうめんにもつとるぢや。さまのわるをののあとのついた九十八くじふはちあしさきがいまでもこのはやしなかにちやんとのこつてゐるぢや。」

「あつはつは。おかしなはなしだ。九十八くじふはちあしさきといふのは、九十八くじふはち切株きりかぶだらう。それがどうしたといふんだ。おれはちやんと、山主やまぬし藤助とうすけさけを二しやうつてあるんだ。」

「そんならおれにはなぜさけはんか。」

ふいはれがない。」

「いや、ある、沢山たくさんある。へ。」

ふいはれがない。」

 かきはかほをしかめて、しよんぼりつてこの喧嘩けんくわをきいてゐましたがこのとき、にはかにはやしあひだから、ひがしはうゆびさしてさけびました。

「おいおい、喧嘩けんくわはよせ。まんまる大将たいしやうわらはれるぞ。」

 るとひがしのとつぷりとしたあを山脈さんみやくうへに、おほきなやさしいもゝいろのつきがのぼつたのでした。おつきさまのちかくはうすいみどりいろになつて、かしはわかはみな、まるでびあがるやうに両手りやうてをそつちへしてさけびました。

「おつきさん、おつきさん、おつつきさん、
 ついお見外みそれして すみません
 あんまりおなりが ちがふので
 ついお見外みそれして すみません。」

 かしは大王だいわうしろいひげをひねつて、しばらくうむうむとひながら、ぢつとおつきさまをながめてから、しづかにうたひだしました。

「こよいあなたは ときいろの
 むかしのきもの つけなさる
 かしはばやしの このよひは
 なつのをどりの だいさんや

 やがてあなたは みづいろの
 けふのきものを つけなさる
 かしはばやしの よろこびは
 あなたのそらに かゝるまゝ。」

 かきがよろこんでたゝきました。

「うまいうまい。よしよし。なつのをどりの第三夜だんさんや。みんな順々じゆんじんにこゝにうたふんだ。じぶんの文句もんくでじぶんのふしでうたふんだ。一等賞とうしやうから九等賞とうしやうまではぼくがおほきなメタルをいて、明日あしたえだにぶらさげてやる。」

 清作せいさくもすつかりかれてひました。

「さあい。へたなはうの一とうから九とうまでは、あしたおれがスポンとつて、こわいとこへれてつてやるぞ。」

 するとかしは大王だいわうおこりました。

なにふか。無礼者ぶれいもの。」

なに無礼ぶれいだ。もう九本くほんるだけは、とうに山主やまぬし藤助とうすけさけつてあるんだ。」

「そんならおれにはなぜはんか。」

ふいはれがない。」

「いやある、沢山たくさんある。」

「ない。」

 かきがかほをしかめてをせわしくつてひました。

「またはじまつた。まあぼくがいゝやうにするからうたをはじめやう。だんだんほしてきた。いゝか、ぼくがうたふよ。賞品しやうひんのうただよ。

 一とうしやうは 白金はくきんメタル
 二とうしやうは きんいろメタル
 三とうしやうは すゐぎんメタル
 四とうしやうは ニツケルメタル
 五とうしやうは とたんのメタル
 六とうしやうは にせがねメタル
 七とうしやうは なまりのメタル
 八とうしやうは ぶりきのメタル
 九とうしやうは マツチのメタル
 十とうしやうから百とうしやうまで
 あるやらないやらわからぬメタル。」

 かしは大王だいわう機嫌きげんなほしてわははわははとわらひました。

 かしはどもは大王だいわう正面しやうめんおほきなをつくりました。

 おつきさまは、いまちやうど、みづいろのものとりかへたところでしたから、そこらはあさみづそこのやう、のかげはうすくあみになつてちました。

 かきは、あかいしやつぽもゆらゆらえてえ、まつすぐにつて手帳てちやうをもち鉛筆えんぴつをなめました。

「さあ、はやくはじめるんだ。はやいのはてんがいゝよ。」

 そこでちいさなかしはが、一ほんひよいつとのなかからびだして大王だいわうれいをしました。

 つきのあかりがぱつとあをくなりました。

「おまへのうたはだいはなんだ。」かきはもつともらしくかほをしかめてひました。

うまうさぎです。」

「よし、はじめ。」かきは手帳てちやういてひました。

うさぎのみゝはなが……。」

「ちよつとつた。」かきはとめました。「鉛筆えんぴつれたんだ。ちよつとけづるうちつてくれ。」

 そしてかきはじぶんの右足みぎあしくつをぬいでそのなか鉛筆えんぴつけづりはじめました。かしはは、とほくからみな感心かんしんして、ひそひそはなひながらりました。そこで大王だいわうもたうたうひました。

「いや、客人きやくじん、ありがたう。はやしをきたなくせまいとの、そのおこゝろざしはじつにかたじけない。」

 ところがかきは平気へいき
「いゝえ、あとでこのけづりくづをつくりますからな。」
 と返事へんじしたものですからさすがの大王だいわうも、すこし工合ぐあひわるさうによこき、かしはもみなきやうをさまし、つきのあかりもなんだかしろつぽくなりました。

 ところがかきは、けづるのがすんでちあがり、愉快ゆくわいさうに、「さあ、はじめてれ。」とひました。

 かしははざわめき、月光げつくわうあをくすきとほり、大王だいわう機嫌きげんなほしてふんふんとひました、

 わかむねをはつてあたらしくうたひました。

「うさぎのみゝはながいけど
 うまのみゝよりながくない。」

「わあ、うまいうまい。あゝはゝ、あゝはゝ。」みんなはわらつたりはやしたりしました。

「一とうしやう、白金はくきんメタル。」とかきが手帳てちやうにつけながらたかさけびました。

「ぼくのはきつねのうたです。」

 また一ぽんわかかしはがでてきました。月光げつくわうはすこしみどりいろになりました。

「よろしいはじめつ。」

「きつね、こんこん、きつねのこ、
 つきよにしつぽがえだした。」

「わあ、うまいうまい。わつはゝ、わつはゝ。」

だい二とうしやう、きんいろメタル。」

「こんどはぼくやります。ぼくのはねこのうたです。」

「よろしいはじめつ。」

「やまねこ、にやあご、ごろごろ
 さとねこ、たつこ、ごろごろ。」

「わあ、うまいうまい。わつはゝ、わつはゝ。」

だい三とうしやう、水銀すゐぎんメタル。おい、みんな、おほきいやつもるんだよ。どうしてそんなにぐずぐずしてるんだ。」かきがすこ意地いぢわるいかほつきをしました。

「わたしのはくるみののうたです。」

 すこしおほきなかしはがはずかしさうにてきました。

「よろしい、みんなしづかにするんだ。」

 かしははうたひました。

「くるみはみどりのきんいろ、な、
 かぜにふかれて、 すいすいすい、
 くるみはみどりの天狗てんぐのあふぎ、
 かぜにふかれて、 ばらんばらんばらん、
 くるみはみどりのきんいろ、な、
 かぜにふかれて、 さんさんさん。」

「いゝテノールだねえ。うまいねえ、わあわあ。」

だい四とうしやう、ニツケルメタル。」

「ぼくのはさるのこしかけです。」

「よし、はじめ。」

 かしはこしにあてました。

「こざる、こざる、
 おまへのこしかけぬれてるぞ、
 きり、ぽつしやん、ぽつしやん、ぽつしやん、
 おまへのこしかけくされるぞ。」

「いゝテノールだねえ、いゝテノールだねえ、うまいねえ、うまいねえ、わあわあ。」

だい五とうしやう、とたんのメタル。」

「わたしのはしやつぽのうたです。」それはあの入口いりぐちから三ばんでした。

「よろしい。はじめ。」

「うこんしやつぽのカンカラカンのカアン
 あかいしやつぽのカンカラカンのカアン。」

「うまいうまい。すてきだ。わあわあ。」

だい六とうしやう、にせがねメタル。」

 このときまで、しかたなくをとなしくいてゐた清作せいさくが、いきなりさけびだしました。

「なんだ、このうたにせものだぞ。さつきひとのうたつたのまねしたんだぞ。」

「だまれ、無礼ぶれいもの、そのはうなどのくちすところでない。」かしは大王だいわうがぶりぶりしてどなりました。

「なんだと、にせものだからにせものとつたんだ。生意気なまいきいふと、あしたおのをもつてきて、かたつぱしからつてしまふぞ。」

「なにを、こしやくな。そのはうなどの分際ぶんざいでない。」

「ばかをへ、おれはあした、山主やまぬし藤助とうすけにちやんと二しやうさけつてくるんだ。」

「そんならなぜおれにははんか。」

ふいはれがない。」

へ。」

「いはれがない。」

「よせ、よせ、にせものだからにせがねのメタルをやるんだ。あんまりさう喧嘩けんくわするなよ。さあ、そのつぎはどうだ。るんだるんだ。」

 おつきさまのひかりあをくすきとほつてそこらはみづうみそこのやうになりました。

「わたしのは清作せいさくのうたです。」

 またひとりのわか頑丈がんじやうさうなかしはました。

なんだと、」清作せいさくまへてなぐりつけやうとしましたらかきがとめました。

「まあ、ちたまえ。きみのうただつて悪口わるぐちともかぎらない。よろしい。はじめ。」かしはあしをぐらぐらしながらうたひました。

清作せいさくは、一等卒いっとうそつふく
 野原のはらつて、ぶだうをたくさんとつてきた。
 とうだ。だれかあとをつゞけてくれ。」

「ホウ、ホウ。」かしははみんなあらしのやうに、清作せいさくをひやかしてさけびました。

だい七とうしやう、なまりのメタル。」

「わたしがあとをつけます。」さつきののとなりからすぐまた一本いつぽんかしはがとびだしました。

「よろしい、はじめ。」

 かしはのはちらつと清作せいさくはうて、ちよつとばかにするやうにわらひましたが、すぐまじめになつてうたひました。

清作せいさくは、葡萄ぶだうをみんなしぼりあげ
 砂糖さとうれて
 びんにたくさんつめこんだ。
  おい、だれかあとをつゞけてくれ。」

「ホッホウ、ホッホウ、ホッホウ、」かしはどもはかぜのやうなへんこゑをだして清作せいさくをひやかしました。

 清作せいさくはもうとびだしてみんなかたつぱしからぶんなぐつてやりたくてむずむずしましたが、かきがちやんとまへちふさがつてゐますので、どうしてもられませんでした。

第八等だいはっとう、ぶりきのメタル。」

「わたしがつぎをやります。」さつきのとなりから、また一本いつぽんかしはがとびだしました。

「よし、はじめつ。」

清作せいさくが、納屋なやにしまつた葡萄酒ぶだうしゆ
 順序じゆんじよたゞしく
 みんなはじけてなくなつた。」

「わつはつはつは、わつはつはつは、ホッホウ、ホッホウ、ホッホウ。がやがやがや……。」

「やかましい。きさまら、なんだつてひとのさけのことなどおぼえてやがるんだ。」清作せいさくさうとしましたら、かきにしつかりつかまりました。

第九だいくとうしやう。マッチのメタル。さあ、つぎだ、つぎだ、るんだよ。どしどしるんだ。」

 ところがみんなは、もうしんとしてしまつて、ひとりもるものがありませんでした。

「これはいかん。でろ、でろ、みんなでないといかん。でろ。」かきはどなりましたが、もうどうしてもだれませんでした。

 仕方しかたなくかきは、
「こんどはメタルのうんといゝやつをすぞ。はやろ。」とひましたら、かしはどもははじめてざわつとしました。

 そのときはやしおくはうで、さらさらさらさらおとがして、それから、
「のろづきおほん、のろづきおほん、
 おほん、おほん、
 ごぎのごぎのおほん、
 おほん、おほん、」とたくさんのふくらふどもが、おつきさまのあかりにあをじろくはねをひるがへしながら、するするするするてきて、かしはあたまうへうへかたやむねにいちめんにとまりました。

 立派りつぱきんモールをつけたふくらふの大将たいしやうが、上手じやうづおともたてないでんできて、かしは大王だいわうまへました。そのまつのくまが、じつに奇体きたいえました。よほど年老としよりらしいのでした。

今晩こんばんは、大王だいわうどの、また高貴かうき客人きやくじんがた、今晩こんばんはちやうどわれわれのはうでも、かたつかじゆつとの大試験だいしけんであつたのぢやが、たゞいまやつとおはりましたぢや。

 ついてはこれから聯合れんがふで、大乱舞会だいらんぶくわいをはじめてはどうぢやらう。あまりにもたえなるうたのしらべが、われらのまどゐのなかにまでひゞいてたによつて、このやうにまかりましたのぢや。」「たえなるうたのしらべだと、畜生ちくしやう。」清作せいさくが叫びました。

 かしは大王だいわうがきこえないふりをしておほきくうなづきました。

「よろしうござる。しごく結構けつこうでござらう。いざ、早速さつそくとりはじめるといたさうか。」

「されば、」ふくろふ大将たいしやうはみんなのはういてまるで黒砂糖くろさとうのやうなあまつたるいこゑでうたひました。

「からすかんざゑもんは
 くろいあたまをくうらりくらり、
 とんびとうざゑもんは
 あぶら一しやうでとうろりとろり、
 そのくらやみはふくろふの
 いさみにいさむものゝふが
 みゝづをつかむときなるぞ
 ねとりをおそふときなるぞ。」

 ふくらうどもはもうみんなばかのやうになつてどなりました。

「のろづきおほん、
 おほん、おほん、
 ごぎのごぎおほん、
 おほん、おほん。」

 かしはの大王だいわうまゆをひそめてひました。

「どうもきみたちのうたは下等かとうぢや。君子くんしのきくべきものではない。」ふくろふの大将たいしやうはへんなかほをしてしまひました。するとあかしろじゆをかけたふくろふの副官ふくくわんわらつてひました。

「まあ、こんやはあんまりおこらないやうにいたしませう。うたもこんどは上等じやうとうのをやりますから。みんな一しよにおどりませう。さあはうとりはう用意よういいゝか。

 おつきさんおつきさん まんまるまるゝゝん
 おほしさんおほしさん ぴかりぴりるゝん
 かしははかんかの   かんからからゝゝん
 ふくろはのろづき   おつほゝゝゝゝゝん。」

 かしはの両手りやうてをあげてそりかへつたり、あたまあしをまるで天上てんじやうげあげるやうにしたり、一生いつしやうけんめいをどりました。それにあはせてふくろふどもは、さつさつとぎんいろのはねを、ひらいたりとぢたりしました。じつにそれがうまくつたのでした。つきひかり真珠しんじゆのやうに、すこしおぼろになり、かしは大王だいわうもよろこんですぐうたひました。

あめはざあざあ ざつざゞゞゞゞあ
 かぜはどうどう どつどゞゞゞゞう
 あられぱらぱらぱらぱらつたゞあ
 あめはざあざあ ざつざゞゞゞゞあ。」

「あつだめだ、きりちてきた。」とふくらふの副官ふくくわんたかさけびました。

 なるほどつきはもう青白あをじろきりにかくされてしまつてぼうつとまるえるだけ、そのきりはまるでのやうにはやしなかりてくるのでした。

 かしははみんなをうしなつて、片脚かたあしをあげたり両手りやうてをそつちへのばしたり、をつりあげたりしたまゝ化石くわせきしたやうにつつつてしまひました。

 つめたいきりがさつと清作せいさくかほにかゝりました。かきはもうどこへつたかあかいしやつぽだけがほうりしてあつて、自分じぶんはかげもかたちもありませんでした。

 きりなかじゆつのまだできてゐないふくらふの、ばたばたげておとがしました。

 清作せいさくはそこではやしました。かしははみんなをどりのまゝのかたち残念ざんねんさうに横眼よこめ清作せいさく見送みおくりました。

 はやしてからそらますと、さつきまでおつきさまのあつたあたりはやつとぼんやりあかるくて、そこをくろいぬのやうなかたちくもがかけてき、はやしのずうつとむかふの沼森ぬまもりのあたりから、
いしやつぽのカンカラカンのカアン。」とかきが力いつぱいさけんでゐるこゑがかすかにきこえました。