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     大正十年四月(4)

 

      旅中草稿

 

父とふたりいそぎて伊勢に詣るなり、雨と呼ばれしその前のよる。

 

赭ら顔、黒装束のそのわかものいそぎて席に帰り来しかな。

 

コロイドの光の上に張り亘る夜の穹窿をあかず見入るも。

 

品川をすぎてその若ものひそやかに写真などをとりいだしたるかも。

 

      東京。

 

エナメルのそらにまくろきうでをささげ、花を垂るるは桜かあやし。

 

青木青木はるか千住の白きそらをになひて雨にうちよどむかも。

 

かゞやきのあめにしばらくちるさくらいづちのくにのけしきとや見ん。

 

ここはまた一むれの墓を被ひつゝ梢暗みどよむときはぎのもり。

 

咲きそめしそめゐよしのの梢をたかみひかりまばゆく翔ける雲かな

 

雲ひくく 桜は青き夢のつら 汝は酔ひしれて泥洲にをどり。

 

汝が弟子は酔はずさびしく芦原にましろきそらをながめたつかも