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     大正十年四月(3)

 

      法隆寺

 

摂政と現じたまへば十七ののりいかめしく国そだてます。

 

いかめしく十七珠を織りなすはとはのほとけのみむねやうけし。

 

おほみことなくてはたえの瓔珞をうけまさざりし、さ仰ぎまつる。

 

法隆寺はやとほざかり雨ぐもはゆふべとともにせまりきたりぬ。

 

      奈良公園

 

月あかりまひるの中に入り来るは馬酔木の花のさけるなりけり。

 

あぜみ咲きまひるのなかの月あかりこれはあるべきことにはあらねど。

 

      春日裏坂六首

 

よりつつみをになひそのをよぎり春日の裏になれは来るかも。

 

ここの空気は大へんよきぞそこにてなれ、鉛の鹿のゼンマイを巻き。

 

その鹿のゼンマイを巻きよろこばんことふさはしきなれにしあるを。

 

おおそれにて鉛の鹿は跳ぬる踊るなれは朝をうちやすらへよ。

 

さかしらのをとなに物を売るなれをいとゞほとけはいとしみまさん。

 

      さる沢

 

さる沢のやなぎは明くめぐめども、いとほし、夢はまことならねば

 

さる沢のやなぎはめぐむこたびこそ この像法の夢をはなれよ。

 

さる沢の池のやなぎよことし又むかしの夢の中にめぐむか。