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     大正八年八月より(2)

 

   夜をこめて行くの歌

 

みかづきは幻師のごとくよそほひて
きらびやかなる虚空をわたる。

 

みがかれし
空はわびしく濁るかな
三日月幻師
あけがたとなり。

 

みかづきの
ひかりつめたくわづらひて
きらびやかなる
夜ははてんとす。

 

すみやかに
鶏頭山の赤ぞらを
くもよぎり行きて
夜はあけにけり。

 

三日月よ
幻師のころも
ぬぎすてて
さやかにかかるあかつきのそら。

 

ものはみなよるの微光と水うたひ
あやしきものをわれ感じ立つ。

 

ほしもなくいざり火もなく
きたかみの
こよひは
水の音のみすなり。

 

  ※ 北上川第四夜

 

黒き指はびこりうごく
北上の
夜の大ぞらをわたる風はも。

 

黒雲の
北上川の橋の上に
刧初の風ぞわがころも吹く。

 

黒雲の
北上川の風のなかに
網うつ音の
きこえきたりぬ。