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     大正八年八月より(1)

 

くらやみの
土蔵のなかに
きこえざる
悪しきわめきをなせるものあり。

 

中留の
物干台のはりがねは
暮れぞらに溶けて
細り行くらし。

 

雲母摺りの
ひかりまばゆき大空に
あをあを燃ゆる
かなしきほのほ。

 

雲きれら
うかびひかりぬ
雨すぎて
さやかに鎖ざす 寒天のそら。

 

暮れ方の
まぼろし坂をかゞやかに
油瓶来る
黄の油瓶

 

北上川第一夜

 

銀の夜を
そらぞらしくもながれたる
北上川のみをつくしたち。

 

ほしめぐる
みなみのそらにうかび立つ
わがすなほなる
電信ばしら。

 

銀の夜を
虚空のごとくながれたる
北上川の遠きいざり火。

 

銀の夜を
北上川にあたふたと
あらはれ燃ゆる
あやしき火あり。

 

北上川
そらぞらしくもながれ行くを
みをつくしらは
夢の兵隊。