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     大正六年七月より(5)

 

岩鐘がんしゃう
きわだちくらき肩に居て
夕の雲は
銀のあいさつ。

 

いたましく
川は削りぬ
たそがれの白雲浴ぶる山の片面を。

 

雲ひくき
青山つゞきさびしさは
百合のにほひに
とんぼ返りす。

 

石原の
まひるをならぶ人と百合
碧目のはちはめぐりめぐりて

 

山川の
すなに立てたるわが百合に
蜂来て赤き花粉になへり。

 

かゞやける
花粉をとりて飛びしかど
小蜂よいかにかなしかるらん。

 

いつぱいに
花粉をになひわが四つの
百合をめぐりぬ碧目のこばち

 

この度は
薄明穹につらなりて
高倉山の黒きたかぶり。

 

月光の
すこし暗めば
こゝろ急く硫黄のにほひ
みちにこめたり。

 

夜だか鳴き
オリオンいでて
あかつきも ちかく
お伊勢の杜をすぎたり。