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     大正六年七月より(10)

 

ひゞ入りて
凍る黄ばらのあけぞらを
いきをもつかず かける鳥はも。

 

目をとぢし
うすらあかりに
しらしらとわきたつ雲はかなしみの雲。

 

やうやくに
峯にきたればむら雲の
ながれを早みめぐむくろもじ。

 

けはしくも
刻むこゝろのみねみねに
うすびかり咲くひきざくらかも。

 

ここはこれ
惑ふ木立のなかならず
しのびをならふ
春の道場。

 

夜はあけて
馬はほのぼの汗したり
うす青ぞらの
電柱の下。

 

夜をこめて
硫黄つみこし馬はいま
あさひにふかく
ものをおもへり。

 

これはこれ
夜の間にたれかたびだちの
かばんに入れし薄荷糖なり。

 

あまぐもは
氷河のごとく地を掻けば
森は無念の 群青を呑み。