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     大正六年五月(2)

 

 中津川三首

 

中津川河藻はな咲きさすらひの
しろきこゝろを夏は来にけり。

 

中津川 川藻に白き花さきて
はてしも知らず 千鳥は遡る。

 

中津川 水涸れなんに夜をこめて
のぼる千鳥の 声きこゆなり。

 

 霧山嶽二首

 

さらさらと
うす陽流るゝ紙の上に
山のつめたきにほひ あやしも

 

うす陽ふるノートの上に
さみだれの
霧やまだけのこゝろきたれり。

 

 

雲みだれ
薄明穹も落ちんとて
毒ヶ森よりあやしき声あり。

 

フラスコに湯気たちこもり露むすび
やまかひの朝の
おもほゆるかな。

 

フラスコに
露うちむすびあつまりて
ひかるを見ればこゝろはるけし。

 

くれちかき
ブンゼン燈をはなるれば
つめくさのはな
月いろにして

 

六月の
ブンゼン燈のよはほのほ
はなれて見やる
ぶなのひらめき。