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     大正六年四月(3)

 

野の面を
低く雲行き
桑ばたけ
明き入江にのぞめるごとし。

 

山山の
肩より肩にながるゝは
暮のよろこび
さとりのねがひ。

 

箱ヶ森
みねの木立にふみ迷ひ
さびしき河をふりかへり見る。

 

箱ヶ森
たやすきことと来しかども
七つ森ゆゑ
得越えかねつも。

 

箱ヶ森
あまりにしづむながこゝろ
いまだに海にのぞめるごとく。

 

おきな草
とりて示せど七つ森
雲のこなたに
むづかしきおも

 

七つ森
青鉛筆を投げやれば
にはかに
機嫌を直してわらへり。

 

薄明の
寒天のなかにつゝまるゝ
白雲と河と
七つの丘と。

 

チュウリップ
かゞやく酒は湧きたてど
そのみどりなる柄はふるはざり

 

きれぎれに歌ふきらぼし
よせきたり
砕くる波の青き燐光。

 

濾し終へし
濾斗の脚のぎんななこ
いとしと見つゝ
今日も暮れぬる。