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     大正六年四月(2)

 

かたくりの
葉のは消えつあらはれつ
雪やまやまのひかりまぶしむ。

 

朝の厚朴ほう
たゝえて谷に入りしより
暮れのわかれはいとゞさびしき。

 

群青の
そらに顫ふは
のはなの
かほりと黒き蜂のうなりと。

 

かむばしき
はねの音のみ木にみちて
すがるの黒きすがたは見えず。

 

連山の
雪にほやかに空はれて
すがるむれたりひかるこのはな。

 

会はてぬ
ラッパ剥げたる蓄音器
さびしみつまた
丘をおもへり。

 

ひしげたる
蓄音器のまへにこしかけて
ひるの競馬をおもひあるかな。

 

花さける
さくらのえだの雨ぞらに
ゆらぐはもとしまれにあらねど。

 

さくらばな
日詰の駅のさくらばな
風に高鳴り
こゝろみだれぬ。

 

さくらばな
あやしからずやたゞにその
枝風になりてかくもみだるは。

 

パラフヰンの
まばゆき霧を負ひたれば
一本松の木とはみわかず。