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     大正六年四月(1)

 

やまなみの
の藍にひかり湧きて
とざすこゝろにひるがへり来る。

 

これはこれ
水銀の海のなぎさにて
あらはれ泣くは
阿部のたかしら。

 

ベムベロはよき名ならずや
ベムベロの
みぢかき銀の毛はうすびかり。

 

夕霧の
霧山だけの柏ばら
かしはの雫降りまさりつつ。

 

雲とざす
きりやまだけの柏ばら
チルチルの声かすかにきたり。

 

こはいかに
雪のやまなみ
たちならぶ家々の影みなここにあり。

 

雪くらく
そらとけじめもあらざれば
山のはの木々は宙にうかべり。

 

水いろの
そらのこなたによこたはり
まんぢゆうやまのくらきかれ草

 

うつろとも
雲ともわかぬ青びかり
陰いろの丘の肩にのぞめり。

 

わがうるはしき
ドイツたうひよ
(かゞやきの
そらに鳴る風なれにもきたり。)

 

鉄のゲル
紅くよどみて
水はひかり
五時ちかければやめて帰らん。

 

鉄のゲル、そつと気泡を吐きたれば
かなしき草につゆ置くごとし。