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     大正五年七月(2)

 

     茨島野

 

山の藍
そらのひゞわれ
草の穂と
数へきたらば泣かざらめやは。

 

     東京

 

うたまろの
乗合ぶねの前に来て
なみだながれぬ
富士くらければ。

 

     神田

 

この坂は霧のなかより
おほいなる
舌のごとくにあらはれにけり。

 

     植物園

 

八月も
終はれるゆゑに
小石川
青き木の実の降れるさびしさ。

 

     上野

 

東京よ
これは九月の青りんご
かなしと見つゝ
汽車にのぼれり。

 

     小鹿野

 

さわやかに
半月かゝる 薄明の
秩父の峡のかへりみちかな。

 

     荒川

 

鳳仙花
実をはぢきつゝ行きたれど
峡のながれの碧くかなしも。

 

     三みね。

 

星あまり
むらがれるゆゑ
みつみねの
そらはあやしくおもはゆるかも。

 

     同

 

ほしの夜を
いなびかりする三みねの
山にひとりしなくか こほろぎ。