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     大正五年三月より(7)

 

山脈の
まひるのすだま
ほのじろきおびえを送る六月の汽車

 

おきな草
丘のなだらの夕陽に
あさましきまでむらがりにけり。

 

白樺の
かゞやく幹を剥ぎしかば
みどりの傷はうるほひ出でぬ。

 

風は樹を
ゆすりて云ひぬ
「波羅羯諦」
あかきはみだれしけしのひとむら。

 

青ガラス
のぞけばさても
六月の
実験室のさびしかりけり。

 

あをあをと
なやめる室にたゞひとり
加里のほのほの白み燃えたる。

 

はややめよ
かゝるかなしみ
朝露は
きらめきいでぬ
朝露の火は。

 

青山の裾めぐり来て見かへれば
はるかにしろく
波だてる草

 

風ふきて
木々きらめけばうすあかき
牛の乳房も
おなじくゆれたり。

 

黝くして
感覚にぶき
この岩は
夏のやすみの夕暮を吸ふ。

 

愚かなる
流紋岩の丘に立ち
けふも暮れたり
くもはるばると。