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     大正五年三月より(6)

 

雲ひくき
裾野のはてを
山焼けの赤きそら截る強き鳥あり。

 

わがために
待合室に灯をつけて
駅夫は問ひぬいづち行くやと。

 

とりて来し
白ききのこを見てあれば
なみだながれぬ
寄宿のゆふべ。

 

たゞさへも
くらむみそらに
きんけむし
ひたしさゝげぬ
木精の瓶

 

かくこうの
まねしてひとり行きたれば
ひとは恐れてみちを避けたり。

 

雲かげの行手の丘に
風ふきて
さわぐ木立のいとゞあはたゞし。

 

かたくりは
青き実となる
うすらやみの
脳のなかなる五月の峡に。

 

曲馬師の
よごれて延びしももひきの
荒縞ばかりかなしきはなし

 

この暮は
土星のひかりつねならず
みだれごころをあはれむらしも。

 

ひるすぎの
といきする室の十二人
イレキを含む
     はく金の雲

 

いまはいざ
僧堂に入らん
あかつきの般若心経
夜の普門品