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     大正五年三月より(5)

 

弦月の
露台にきたり
かなしみを
すべて去らんとねがひたりしも。

 

ことさらに
鉛をとかしふくみたる
月光のなかに
またいのるなり。

 

星群の微光に立ちて
甲斐なさを
なげくはわれとタンクのやぐら。

 

黒雲を
ちぎりて土にたゝきつけ
このかなしみの
かもめ 落せよ。

 

温室の
雨にくもれるガラスより
紫紺の花蔟
こころあたらし。

 

赤き雲
いのりのなかにわき立ちて
みねをはるかにのぼり行きしか。

 

われもまた
白樺となりねぢれたるうでをささげて
ひたいのらなん。

 

でこぼこの熔岩流にこしかけて
かなしきことを
うちいのるかな。

 

ひとひらの
雪をとり来て母うしの
にほひやさしき
ビスケット噛む。

 

岩手やま
やけ石原に鐘なりて
片脚あげて立てるものあり。

 

しかみづらの
山の横つちよに
やるせなく
白き日輪うかびかゝれり。