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     大正五年三月より(1)

 

日はめぐり
幡はかゞやき
紫宸殿たちばなの木ぞたわにみのれる。

 

山しなの
たけのこやぶのそらわらひ
うすれ日にしてさびしかりけり。

 

たそがれの奈良の宿屋のののきちかく
せまりきたれる銀鼠ぞら。

 

にげ帰る
鹿のまなこの燐光と
なかばは黒き五日の月と。

 

かれ草の
丘あかるかにつらなるを
あわたゞしくも行くまひるかな。

 

そらはれて
くらげはうかび
わが船の
渥美をさしてうれひ行くかな。

 

明滅の
海のきらめき しろき夢
知多のみさきを船はめぐりて。

 

青うみの
ひかりはとはに明滅し
ふねはまひるの
知多をはなるる。

 

日沈みて
かなしみ しばし 凪ぎたるを
あかあか燃ゆる
富士すその野火。

 

あゝつひに
ふたゝびわれにおとづれし
かの水いろの
そらのはためき。