目次へ  縦書き

     大正四年四月(2)

 

野うまみな
はるかに首あげわれを見つむ
みねの雪より霧湧き降るを。

 

霧しげき
裾野を行けば
かすかなる
馬のにほひのなつかしきかな。

 

この惑星
夜半より谷のそらを截りて
薄明の鳥の声にうするる。

 

ふくよかに
わか葉いきづき
あけのほし
のぼるがまゝに鳥もさめたり。

 

りんごの樹
ボルドウ液の霧ふりて
ちいさき虹のひらめけるかな

 

風吹きて
豆のはたけのあたふたと
葉裏をしらみ
こころくるほし。

 

ちぎれ雲
ちいさき紺の甲虫の
せなかにうつる山かひのそら。

 

花粉喰む
甲虫のせなにうつるなり
峡のそら
白き日
しよんと立つわれ。

 

かたくなの
暮の微光にうかびたる
山の仲間の一つなりしか。

 

夜はあけて
木立はじつと立ちすくむ
高倉山のみねはまぢかに。

 

夜のうちに
すこしの雪を置きて晴れし
高倉山のやまふところに。

 

大ぞらは
あはあはふかく波羅密の
夕つつたちもやがて出でなむ。