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     大正三年四月(8)

 

南天の
蠍よもしなれ 魔ものならば
のちに血はとれまづ力欲し。

 

雲ひくし
いとこしやくなる町の屋根屋根
栗の花
すこしあかるきさみだれのころ。

 

あめも来ず
たゞどんよりといちめんの雲
しらくもの
山なみなみによどみかゝれる。

 

思はずも
たどりて来しか この線路
高地に立てど
目はなぐさまず。
 

 

君がかた
見んとて立ちぬこの高地
雲のたちまひ 雨とならしを。

 

城址の
あれ草に来てこゝろむなし
のこぎりの音風にまじり来。

 

われもまた日雇となりて
桑つまん
稼がばあたま 癒えんとも知れず。

 

風ふけば
岡の草の穂なみだちて
遠き汽車の音も
なみだぐましき。

 

山上の木にかこまれし神楽殿
鳥どよみなけば
われかなしむも。

 

はだしにて
よるの線路をはせきたり
汽車に行き逢へり
その窓は明るく。