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     大正三年四月(5)

 

わがあたま
ときどきわれに
この世のそとの
つめたき天を見することあり。

 

その鳥は
からすにはあらず
その黒鳥の
羽音がつよく胸にひゞくぞ。

 

ふみ行かば
かなしみいかにふかからん
銀のなまこの
天津雲原

 

うす紅く
隈どられたるむらくもを
みつめて
屋根にたそがれとなる。

 

濁り田に
白き日輪うつるなり
狂乱をばさりげなく抑へ。

 

友だちの
入学試験ちかからん
われはやみたれば
小き百合掘る。

 

またひとり
はやしに来て鳩のなきまねし
かなしきちさき
百合の根を掘る。

 

あたま重き
ひるはつゝましく
錫いろの
魚の目球をきりひらきたり。

 

すずきの目玉
つくづくと空にすかし見れど
重きあたまは癒えんともせず。

 

ちいさき蛇の
執念の赤めを
綴りたる
すかんぽの花に風が吹くなり。