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     大正三年四月(3)

 

十秒の碧きひかりの去りたれば
かなしく
われはまた窓に向く。

 

すこやかに
うるはしきひとよ
病みはてゝ
わが目、黄いろに狐ならずや

 

ほふらるゝ
馬のはなしをしてありぬ
明き五月の病室にして

 

粘膜の
赤きぼろきれ
のどにぶらさがれり
かなしきいさかひを 父とまたする。

 

風木木の
梢によどみ
桐の木に花さく
いまはなにをかいたまん

 

雲ははや夏型なり
ネオ夏型なり
熱去りしからだのかるさに桐の花咲き

 

そらしろし
屋根にきたりて
よごれたる柾をみつむるこの日ごろかも。

 

酒かすの
くさるゝにほひを
車ひく
馬かなしげにじっと嗅ぎたり。

 

蛭が取りし血のかなだらひ
日記帳
学校ばかま 夕ぐれの家

 

屋根に来れば
そらも疾みたり
うろこぐも
薄明穹の発疹チフス