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     大正三年四月(2)

 

われ疾みて
かく見るならず
弦月よ
げに恐ろしきながけしきかな。
 

 

まことかの鸚鵡のごとく息かすかに
看護婦たちはねむりけるかな。
 

 

星もなく
赤き弦月たゞひとり
窓を落ち行くはたゞごとにあらず。
 

 

ちばしれる
ゆみはりの月
わが窓に
まよなかきたりて口をゆがむる。
 

 

月は夜の
梢に落ちて見えざれど
その悪相はなほわれにあり。
 

 

鳥さへも
いまは啼かねば
ちばしれる
かの一つ目はそらを去りしか。
 

 

よろめきて
汽車をくだれば
たそがれの小砂利は雨に光りけるかな。
 

 

つつましく
午食ごしょくの鰤をよそへるは
たしかに蛇の青き皮なり。
 

 

さかなの腹のごとく
青じろく波うつほそうでは
赤酒を塗るがよろしかるらん。