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     大正三年四月(1)

 

検温器の
あおびかりの水銀
はてもなくのぼり行くとき
目をつむれり われ

 

地平線
かゞやきの紺もいかにせん
透明薔薇の身熱より来しなれば

 

涌水の
すべてをめぐり
ゆめさめて
またつまらなく口をつぐめり。

 

朝の廊下
ふらめきながら行けば
目は痛し
木々のみどりを
空は黄金を織り。

 

きんいろの
陽は射し入れど
そのひかり
かなしき眼にはあまり強かり。

 

学校の
志望はすてぬ
木々の青
疾みのまなこにしみるころかな。

 

そらにひかり
木々はみどりに
夏ちかみ
熱疾みしのちのこの新らしさ。

 

木々の芽は
あまりにも青し
薄明の
やまひを出でし身にしみとほり。

 

われひとり
ねむられずねむられず
まよなかに窓にかゝるは
赭焦げの月

 

ゆがみひがみ
窓にかかれる赭こげの月
われひとりねむらず
げにものがなし。