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     明治44年1月より(3)

 

あはれ見よ月光うつる山の雪は
若き貴人の死蝋に似ずや。

 

邪教者の家夏なりき大なる
ガラスの盤に赤き魚居て。

 

高台の家に夏来ぬ 麦ばたけ
時に農具のしろびかり見て。

 

皮とらぬ芋の煮たるを配られし
兵隊たちをあはれみしかな。

 

白きそらは一すぢごとにわが髪を
引くこゝちにてせまり来りぬ。

 

鉛筆の削り屑よりかもしたる
まくろき酒をのむこゝちなり。

 

せともののひびわれのごとくほそえだは
さびしく白きそらをわかちぬ。

 

暮れ惑ふ 雪にまろべる犬にさへ
狐の気ありかなしき山ぞ。

 

ひるもなほ星みる人の眼にも似る
さびしきつかれ 早春のたび。

 

うす白きひかりのみちに目とづれば
あまたならびぬ 細き桐の木