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〔職員室に、こっちが一足はいるやいなや〕

職員室に、こっちが一足はいるやいなや
ぱっと眉をひそめたものは
黄の狩衣によそほへる
日高神社の別当だ
半分立って迎へるものは
黒紋付に袴をはいた
二人の小さなお百姓
当然ここで
ぼくが何かを云ふべきであるが
何せあのまっ青な大高気圧の下で
引き汐のやうに奔ってゐる
乾いて光る吹雪のなかを
二里も泳いでやってきたので
耳だの頬だのぼうぼう熱り
咽喉はひきつって声だ出ない
みんなだまってお茶をのむ
わづかに濁り粕もはいった日本の緑茶
校長さんもだまってお茶をつぎまはる
日高神社の別当は
怒らなくてもいゝわけだ
あの早池峰の原林を
いくらじぶんが先達で
夜なかにやってきたからといって
だまってみちに立ってゐる
こっちにいきなりつきあたって
叫びをあげて退いたのは
そっちの方が悪いのだ
アスティルベの花の穂が
あちこち月にひかってゐたし
そんな闇ではなかったのだ
けれども向ふの怒るのは
こっちの覇気でもあるらしい
こどもらがこっそりかはるがはる来て
がらすの戸から口をあいたりのぞくのは
水族館のやうでもある
おとなもそろそろ来てゐるやうだ
日高神社の別当は
いまだに眉をはげしく刻む