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もうどの稲も、分蘖もすみ
苗代跡の稲熱もきれいに喰ひとめたので
主人も安心したらしく
じぶんもわづかに茶をのんでゐる
並んで縁に腰かけて
古びた麻のももひきに
かうかんかんと日が照れば
何だか半分けむって見える
鍵にまがった厩から
馬がひょっくり顔を出す
それからその仔も顔を出す
上には絵馬がかけてある
辨柄で書いた赤い馬だ
やっぱりその子と二疋づれ
厩の上では梨の木が、
じつにきれいにひらめいてゐる
茶盆の前にはこの家の
あぃながりんと眼を張って
膝に手を置きすはってゐる
髪が赤くて七っつぐらゐ
発心前の地蔵菩薩の像のやう
事実
松林寺の地蔵堂も
こゝから遠くないものだから
典型的なお地蔵さんの申し子だ
お地蔵さんの申し子も
もう二十年たつうちに
どういふ風に変るかな
東は幾重の松の林の向ふの方で
山地が青くけむってゐる
それから南の川ばたでは
とんの木立がきらきらひかる