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七四三

〔盗まれた白菜の根へ〕

一九二六、一〇、一三、

盗まれた白菜の根へ
一つに一つ萱穂を挿して
それが日本主義なのか

水いろをして
エンタシスある柱の列の
その残された推古時代の礎に
一つに一つ萱穂が立てば
盗人ぬすびとがここを通るたび
初冬の風になびき日にひかって
たしかにそれを嘲弄する
さうしてそれが日本思想
彌栄いやさか思想の勝利なのか

(本文=定稿)



(下書稿4)

七四三

一九二六、一〇、一三、

白菜はみな水いろで
強いエンタシスある柱であるが
この残された推古時代の礎の
一つに一つ
おれは萱穂を飾って置かう
それが当分
自然思想の勝利といふやうに
盗人がこゝを通るたびに
初冬の風になびき日にひかって
それを嘲らうするものである
そして畑がみな萱穂に代るとしても
つめたい風がそれを吹き
川がひかってすべるかぎり
やっぱりこちらの勝利である



(下書稿3)

七四三

一九二六、一〇、一三、

白菜はみな水いろで
強いエンタシスある柱であるが
その盗まれたところでは
たゞまっしろな礎ばかり
この残された推古時代の礎の、一つに一つ、
おれは萱穂を飾って置かう
それが当分
東洋思想の勝利といふやうに
盗人がこゝを通るたびに
初冬の風になびき日にひかって
それを嘲ろうするものである
そして畑がみんな萱穂に代るとしても
つめたい風がそれを吹き
川がひかってすべるかぎり
やっぱりわれらの勝利である



(下書稿2)

七四三

白菜畑

一九二六、一〇、一三、

ここの柱のならびから
膨らみエンタシスある水いろを
誰か二っつはずして行った
つめたい風が吹いて吹いて
わたくしの耳もとで鳴るけれども
河はつやつや光ってすべって
はやくも弱いわたくしは
風が永久の観点から
じつにほのかにわらひながら
わたくしをなぐさめてゐると考へ
ひたひに接吻して
気持ちを直せとさう云へば
きらゝかにわらってさうもすると
じぶんでじぶんを抑へやうとするけれども
そんならまっすぐに強く進めと云って
かういふふうにその人をさせた
社会の組織や人の不徳憎んでみても
結局やっぱり畑を掘ってゐるより仕方ない
そこで断じてわたしの風よ
つめたい接吻をわたしに与へ
川よかゞやくおまへの針で
おれの不快を運んで行けだ
はっは 馬鹿野郎
それでおれは
この残された推古時代の礎に
萱穂を二つ飾って置かう
それが当分
東洋思想の勝利でもある



(下書稿1「断片」)

七四三

白菜畑

一九二六、一〇、一三、

こゝから誰か
膨らみエンタシスある緑柱を
ゆ(以下空白)