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七三四

〔青いけむりで唐黍を焼き〕

一九二六、八、二七、

青いけむりで唐黍を焼き
ボンデローザも皿に盛って
若杉のほずゑのchrysocollaを見れば
たのしく豊かな朝餐な筈であるのに
こんなにも落ち着かないのは
今日も川ばたの荒れた畑の切り返しが
胸いっぱいにあるためらしい
  ……エナメルの雲鳥の声……
強いてもひとつ
ふさふさ紅いたうもろこしの毛をもぎり
その水いろの莢をむけば
熱く苦しいその仕事が
百年前の幽かなことのやうでもある

(本文=下書稿2推敲後)



(下書稿2推敲前)

七三四

一九二六、八、二七、

青いけむりで唐黍を焼き
塩漬けのトマトも皿に盛って
若杉のほずゑのchrysocollaも見れば
たのしく豊かな朝餐な筈であるのに
こんなにもわたくしの落ち着かないのは
昨日馬車から崖のふもとに投げ出して 今日北上の岸まで運ぶ
厩肥のことが胸いっぱいにあるためだ
エナメルの雲鳥の声
熱く苦しいその仕事が
一つの情事のやうでもある
 ……川もおそらく今日は暗い……



(下書稿1推敲後)

七三四

仕事

一九二六、八、二七、

青いけむりで唐黍を焼き
塩漬けのトマトも皿に盛って
若杉のほずゑのchrysocollaも見れば
たのしくしづかな朝餐な筈を
こんなにもわたくしの落ち着かないのは
昨日馬車から坂のところに投げ出した
厩肥のことが胸いっぱいにあるためだ
甲田加吉がすっかり内地でしくじって
からだひとつでブラジルへ行く日
なけなしの財布で
国の芝居をもう一度見た
エナメルの雲
午后は雨だらう



(下書稿1推敲前)

七三四

仕事

一九二六、八、二七、

青いけむりで唐黍を焼き
塩漬けのトマトを幾皿に盛り
若杉のほずゑのchrysocollaを見るとすれば
たのしくしづかな朝餐な筈であるのに
こんなにもわたくしが落ち着かないのは(三字不明)ことである
(数文字不明)による
(一行不明)
(数文字不明)なのだ
(一行不明)