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三三三

     客を停める

一九二四、一一、五、

それではなんて帰るのか
まあ待ちたまへ
あすこの虹の門をくぐって、
凍った風をひといき吸へば
あとはもうあんなにまっ赤な山と谷
  ……こんもりと松のこもった岩の鐘……
どこから雨が落ちかぶさるかわからない
  ……電信ばしらも林の稜も
    つなみみたいに一度に鳴って
    虹はあらゆる毒剤よりも鮮らしく
    青いアークをそらいっぱいに張りわたす……
まあ掛けたまへ 掛けたまへったら
雨どこぢゃない氷だよ
どかたでそいつが落ちかぶさるかわかったもんか
  ……麦のはたけのまだうららかな緑の上を
    木の葉はまるで鼠のやうに
    ぐらぐら東へ流される……
まあもう少し掛けたまへ
ぢきにきれいな天気になるよ
シガーを一つあげるから
キャベヂで巻いたシガーをさ

【「三〇五 〔その洋傘だけでどうかなあ〕」下書稿(一)】