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九〇

〔祠の前のちしゃのいろした草はらに〕

一九二四、五、六、

祠の前のちしゃのいろした草はらに
木影がまだらに降ってゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
ちしゃのいろした草地のはてに
杉がもくもくならんでゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
那智先生の筆塚が
青ぐもやまた氷雲の底で
びたのかたちの粉苔をつける
   ……鳥はコバルト山に翔け……
二本の巨きなとゞまつが
荒さんで青く塚のうしろに立ってゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
樹はこの夏の計画を
蒼々として雲に描く
   ……鳥はあっちでもこっちでも
     朝のピッコロを吹いてゐる……

(本文=定稿)



(下書稿3推敲後)

九〇

一九二四、五、六、

祠の前のちしゃのいろした草はらに
木影がまだらに降ってゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
ちしゃのいろした草地のはてに
杉がもくもくならんでゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
那智先生の筆塚が
青ぐもやまた氷雲の底で
びたのかたちの粉苔をつける
   ……鳥はコバルト山に翔け……
二本の巨きなとゞまつが
荒さんで青く塚のうしろに立ってゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
樹はこの夏の計画を
閃々として雲に
   ……鳥はあっちでもこっちでも
     朝のピッコロを吹いてゐる……



(下書稿3推敲前)

九〇

一九二四、五、六、

祠の前のちしゃのいろした草はらに
木影がまだらに降ってゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
ちしゃのいろした草地のはてに
杉がもくもくならんでゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
那智先生の筆塚が
青ぐもやまた氷雲の底で
銭のかたちの粉苔をつける
   ……鳥はコバルト山に翔け……
二本の巨きなとゞまつが
荒さんで青く塚のうしろに立ってゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
木のいちいちの心からは
ことしの夏の計画が
蒼々として雲に描かれる
   ……鳥はあっちでもこっちでも
     朝のピッコロを吹いてゐる……



(下書稿2 断片)

(冒頭原稿なし)

   ……鳥はコバルト山に翔け……

樹のいちいちの心からは

ことしの夏の若えだが

あをあをとして風に描かれる

   ……鳥はあっちでもこっちでも

     朝のピッコロを吹いてゐる……



(下書稿1推敲後)

九〇

一九二四、五、六、

祠の前のちしゃのいろした草はらに
木影がまだらに降ってゐる
   ……鳥は、コバルト山に、翔け……
ちしゃのいろした草地のはてに
杉がもくもくならんでゐる
   ……鳥は、コバルト山に、翔け……
那智先生の筆塚が
青ぐもやまた五月の底で
銭のかたちの粉苔こごけをつける
   ……鳥は、コバルト山に、翔け……
二本の巨きなとゞまつが
荒さんで青く塚のうしろに立ってゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
樹のいちいちの心からは
虚像が惑く風に描かれる
   ……鳥はあっちでもこっちでも
     朝のピッコロを吹いてゐる……



(下書稿1推敲前)

九〇

一九二四、五、六、

祠の前のちしゃのいろした草はらに
木影がまだらに降ってゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
ちしゃのいろした草地のはてに
杉がもくもくならんでゐる
   ……鳥はコバルト山に翔け……
那智先生の筆塚が
青ぐもやまた五月の底で
銭のかたちの苔蘿コケラをつける
   ……鳥はコバルト山に翔け……
塚のうしろで 二本の巨きなとゞまつが
荒さんで青く天の氷に立ってゐる
   ……コバルト山に鳥は翔け……
樹のいちいちの心からは
ことしの夏の若枝が
蒼々として雲に描かれる
   ……鳥はあっちでもこっちでも
     朝のピッコロを吹いてゐる……



(『貌』発表形 1926年7月1日))

春       宮沢賢治

ほこらの前のちしゃのいろした草はらに
影がきれいに降ってゐる
    …鳥はコバルト山に翔け…
ちしゃのいろした草地のはてに
杉がもくもくならんでゐる
    …鳥はコバルト山に翔け…
那須先生の筆塚が
青ぐもやまた春の底で
銭のかたちの苔をつける
    …鳥はコバルト山に翔け…
塚のうしろで二本の巨きなとど松が
荒さんで青く天の氷に立ってゐる
    …鳥はコバルト山に翔け…
樹のいちいちの心からは
ことしの夏の設計が
あをあをとして雲にかれる
    …鳥はあっちでもこっちでも
     朝のピッコロを吹いてゐる…