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七八

〔向ふも春のお勧めなので〕

一九二四、四、二七、

向ふも春のお勧めなので
すっきり青くやってくる
町ぜんたいにかけわたす
大きな虹をうしろにしょって
急いでゐるのもむじゃきだし
鷺のかたちにちぢれた雲の
そのまっ下をやってくるのもかあいさう
  (Bonan Tagon, Sinjoro!)
  (Bonan Tagon, Sinjoro!)
桜の花が日に照ると
どこか蛙の卵のやうだ

(本文=定稿)



(下書稿4)

七八

一九二四、四、二七、

向ふも春のお勧めなので
すっきり青くやってくる
町ぜんたいにかけわたす
大きな虹をうしろにしょって
急いでくるのもむじゃきだし
鷺のかたちにちぢれた雲の
そのまっ下をやってくるのもかあいさう
詐欺一件の書類かなにか
黒い鞄へぎっしり詰めて
一向専念あるいてくる
  (Bonan Tagon, Sinjoro!)
  (Bonan Tagon, Sinjoro!)



(下書稿3推敲後)

七八

一九二四、四、二七、

向ふも春のお勧めなので
すっきり青くやってくる
町ぜんたいにかけわたす
大きな虹をうしろにしょって
急いでゐるのもむじゃきだし
鷺のかたちにちゞれた雲の
そのまっ下をやってくるのもかあいさう
詐欺一件の書類かなにか
てかてか黒い鞄へつめて
陰った東の丘陵地帯に
ちょっと疑惑の眼をなげて
辨護士いまや過ぎすぎる
  (Bonan Tagon, Sinjoro!)
  (Bonan Tagon, Sinjoro!)
桜の花が日に照ると
どこか蛙の卵のやうだ



(下書稿3推敲前)

七八

知人

一九二四、四、二七、

町ぜんたいにかけわたす
大きな虹をうしろにしょって
急いでゐるのもむじゃきだし
鷺のかたちにちゞれた雲の
そのまっ下をやってくるのもかあいさう
  (いやぁ お早うございます)
  (いやぁ お早うございます)
桜の花が日に照ると
どこか蛙の卵のやうだ



(下書稿2推敲後)

七八

虹を来る医者

一九二四、四、二七、

町ぜんたいにかけわたす
大きな虹をうしろにしょって
急いでゐるのもむじゃきだし
鷺のかたちにちゞれた雲の
そのまっ下をやってくるのもかあいさう
  (Bonan Tagon Sinjoro!)
いやあ、桜の花が日に照ると
蛙の卵のやうで
はっはっは
役場の角を黄金の眼をした大きな青い犬もくる



(下書稿2推敲前)

七八

虹を来る判事

一九二四、四、二七、

例のお医者がやってくる
向ふも春のお勧めなので
すっきり青く急いでくる
天気もいゝし今日は和睦をしてやらう
町ぜんたいにかけわたす
大きな虹をうしろにしょって
急いでゐるのも気さくだし
鷺のかたちにちゞれた雲の
そのまっ下をやってくるのも可哀さう
(三行不明)
(約五字不明)を膨らませ
ひどく急いでやってくる……
さても来た来た
  (Bonan Tagon Sinjoro!)
いや、桜の花が日光にすかし出されるのは
どこか蛙の卵のやうで
あんまりよくはありませんな
役場の角を黄金の眼をした大きな青い犬もくる



(下書稿1推敲後)

七八

虹を来る判事

一九二四、四、二七、

例の判事が急いでくる
すっきり青くあるいてくる
向ふも登庁時間なわけだ
今日は春だし一つ和睦をしてやらう
町ぜんたいにかけわたす大きな虹をうしろにしょって
急いでくるのも感服だ
鷺のかたちにちゞれた雲の
そのまっ下をやってくるのは気の毒だ
Guten Tagと投げるかな
だまっておじぎと出やうかな
年も向ふは十から上だ
地位のことは知らないが
鮭の骨だけ盛ったのは
何といってもこっちがわるい
どうしてためだめ、もう身がまへをしてやがる
かあいさうに
毎日詐欺をしらべては
鰻で勢をもりかへすんだ
さても来た来た
いや、桜の花が日光にすかし出されるのは
どこか蛙の卵のやうで
あんまりよくはありませんな
役場の角を黄金の眼をした大きな青い犬もくる



(下書稿1推敲前)

七八

虹を来る判事

一九二四、四、二七、

例の判事がやってくる
すっきり青くやってくる
今日は春だし一つ和睦をしてやるか
大きな虹をうしろにしょって
急いでくるのも感服だ
鷺のかたちにちゞれた雲の
そのまっ下をあるいてくるのは気の毒だ
一つ挨拶してやらう
あ よせよせ
もうおれを見て
片眼をぱっとつぶってやがる
かあいさうに
毎日詐欺をしらべたあとで
鰻を一つ食ふんだらう
来た来た
いや、桜の花が日光にすかし出されるのは
どこか蛙の卵のやうで
あんまりよくはありませんな
役場の角を黄金の眼をした大きな青い犬もくる